第19条 その話長くなります?
男達はナシメによって、一人残らず追い出されてしまった。
先ほどの騒動が嘘のように静まり返った室内には、私とイヨだけが取り残されている。
イヨは恐怖のあまり、私にしがみついたまま震えていた。
かわいそうに、すっかり青ざめてしまっている彼女を抱きしめ、背中をさすっていると、またナシメが入ってきた。
「どういうつもりですか?」
うんざりした様子で、私の前に座るナシメに問いかける。
「あいつらのことですか? それとも、嘘のことですか?」
「両方です」
「ああでも言わないければ、あいつらは収まらなかったでしょう。皆気が立っています。だから勝手に行動するなと言っているんです」
「殺されそうな雰囲気でした。気が立っていると言ったって、あれは普通じゃないでしょ!」
私の言葉に、ナシメは少し悩むようなそぶりを見せてから「そこで震えているイヨにも関係あることですが」と、前置きして口を開いた。
「イヨには両親がおりません。この子の目の前で殺されました」
ナシメの発言は予想外のものだった。
いや、家族がいないというのはなんとなく察してはいた。
この二日間、彼女以外の家人の姿を見ていないからだ。
しかし、目の前で殺されたとは。
イヨが争いごとに対して、異常なまでの恐怖を感じるのはそのせいなのだろう。
彼女を抱きしめる腕に自然と力が入る。
「でも、それと今回のことと、なんの関係があるんですか?」
「問題は殺した犯人です」
いったい誰が、そんなひどいことをしたというんだろう。
「この村は2年前にこの場所へ移ってきましたが、以前住んでいた所には野盗がおりました。それに対して村人は、イヨの父親である村長の指示のもと、襲われるたびに戦い、追い払っていたのです。
しかし、ある日村長が自宅に一晩泊めた旅人によって、村長夫妻は殺害されました。
そしてその直後、野盗がなだれ込み、村長不在の混乱の中、村人のほとんどは殺され、生き残った者はこうして別の場所へ移り住んだのです」
そんな悲惨なことがこの世界にはあるのか。
「その旅人は野党の一味だったんですか?」
「おそらく、しかもその旅人は若い女でした」
なるほど、村人が私に強い警戒心を持つのはそのせいか。
それほどのことがあったなら、よそ者でしかも女の私が村にいたら安心できないだろう。
「ただ、それにしても女を下に見すぎのような気がしますけど」
「いや、それはまあ、この辺の人間の気質といいますか……」
ナシメはバツが悪そうに頭を掻き、言葉も歯切れが悪い。
どうやら、私に対するこの村の男達の態度は、事件のせいばかりでもないようだ。
ふと、私にしがみつくイヨの力が緩んでいることに気づいた。
イヨにとって悲しい話だ、聞いていてさぞ辛かっただろう。
そう思って、そっと彼女の顔を覗き込むと、怯えつかれたのだろう、イヨは私の腕の中でいつのまにか小さな寝息を立てていた。




