第13条 ホウレンソウは基本です!
御殿の天井は高く、上の方は暗くて見えない。
そんな暗闇の中、体から発する光で周囲をほのかに照らしながら女神様は浮かんでいた。
服装は相変わらずゆったりとした白い布地を体に巻き付け、ウェーブのかかった金髪をたなびかせている。
年齢は私と変わらないように見えた。
よく考えたら神社にはあまりにも似つかわしくない姿の神だ。
ギリシャとかローマの神殿の方が似合うだろうに。
「どうしたの~? ずいぶん早起きねぇ」
相変わらずのんきな話し方をしながら、ゆっくりと降りて来て床に足をついた。
「なんで私をこの世界に連れて来たのか聞きたいんですが」
「向こうの神には~、あなたが望んだからって聞いてるけど?」
「望んでません!」
いったい何を勘違いしてそんな話になってしまったんだ。
「でもぉ、別の世界に行きたいって言ったんじゃないの?」
「あ……」
言った。
正確にはため息交じりの独り言だが、私は資料室に立てこもった時にそんなことをつぶやいた。
そんなしょうもない呟きを、あの男の子の神様は私の願いと受け取っというのだろうか。
もっと叶えるべきことはいろいろあるだろうに。
よりにもよってそんな……。
あまりにも下らない現実を受け止めきれず、床の上にへたり込んでしまう。
所詮、あの宮司一家の祖先ということか、間抜けぶりはいい勝負だ。
もうあの一族には、先祖から子孫に至るまで絶対に期待しない。そう心に誓った。
「あの、向こうの神様と話すことはできないんですか?」
「むりよぉ、向こうから話しかけてくれればできるけどー」
あげくにこっちの女神は無能ときたか。
うなだれる私の気持ちを知ってか知らずか、女神は私の頭を優しくなでる。
「とりあえずその件はいいです」
へこんでいても仕方がないので、女神の腕を振り払い、次の疑問に移ることにした。
「あなたは私になにをさせる気なんですか?」
「ナシメが説明しなかった?」
「聞きましたけど意味が分かりませんでした」
「うーん、あの子あんまり説明とか得意じゃなさそうだしねぇ」
あんなおじさんをあの子呼ばわりするあたり、この女神は見た目よりずっと長い年月を生きているのかもしれない。
しかし、唇の下に人差し指をあてながら腕組みをして、あきれたような雰囲気を出しているが、表情はなんだか嬉しそうだ。
「あなたにはこの神社と村の発展のためにぃ、働いてほしいのよ」
「ナシメさんにも同じことを言われましたけど」
「それでわからないの~?」
「わかりません!」
まさか本気で言っているのか?
それだけ言われてかしこまりましたと言うのはナシメさんぐらいではないだろうか。
これは、おそらく彼の説明下手というより、完全に女神の説明不足が原因だろう。
どこの世界でも上司は自分のミスを部下のせいにするらしい。
ブラック企業からは異世界に来ても逃げられないのかと、絶望する私の顔を女神は慈愛に満ちた目で見つめていた。




