第10条 ここはホントに異世界ですか?
結局、私は一人、家の中に取り残されてしまった。
窓の外の景色はすでに朱に染まりつつあり、まもなく夜が来ることを知らせていた。
考えがまとまらず、どうすることもできないのでぼんやりしていると、膝の前に湯飲みが置かれていることに気がつく。
いつから置かれていたのだろう、湯飲みの中には茶色い液体が湯気を立てている。
淹れてからあまり時間が経っていないようだ。
「あのぅ、よかったらどうぞ」
突然、横から声がした。
驚いて振り向くと、いつからいたのだろうか、すぐ側に女の子が座っている。
この子が淹れてくれたのだろうか。
小柄な子だ、前髪をたらしてるので顔はよく見えないが、年齢は15歳くらいだろうか、他の村人たちと同様、ずいぶん汚い身なりをしている。
「ありがとう、これお茶?」
とにかく気持ちを落ち着けたいのでいただくことにした。
色は汚いが、草の匂いの中にほんのり蜜のような香りが混ざっている。
一応、飲んでも大丈夫そうだ。
「いえ、お茶なんて高級なものじゃないです」
女の子は答えてくれたが、すぐ側にいるはずなのに聞き取るのが大変なほど小さな声だ。
「煎じたヨモギに、アマヅラの汁を煮詰めたものが少し入っています、そのままだと少し苦いので」
消え入りそうな声で湯飲みの中身について教えてくれた。
なるほどヨモギか、確かに少し苦いけど、ほんのりと甘味も混ざってまろやかな味に仕上がっている。
優しい気遣いができる子なのだろう。
「おいしい、ありがとう」
お礼を言うと、わずかに見える口元が嬉しそうにほころんだ。
「あの、夕食も私が作りますので、たいした食糧もありませんが」
そういうと女の子は奥の部屋に引っ込んでしまった。
向こうが台所なのだろう。
しかし。
ヨモギがあるのか。アマヅラも確か昔の人が甘味料に使っていたものじゃなかったかな。高校の古典で出てきたような気がする。
やっぱりここは異世界じゃなくて、過去の日本じゃないだろうか。
いろいろ考えてみるが、結局答えは見つからない。
とにかく、明日もう一度あの神社に行こう。なんのつもりで私を連れて来たのか、問いただす必要がある。
あの子に言えば連れて行ってくれるかな。
そういえば、名前はなんていうんだろう。
そんなことを考えているうちに、窓の外はすでに藍に染まりつつあった。




