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第1条 ブラック企業なんて生ぬるいです!

 毎日変わらない早朝の通勤ルート。白い砂利道やうっそうとした森が、いまだ青白い光に染まっている。

 2月の刺すような冷気の中、その砂利道を踏みしめながら進むと年季の入った神社が見えてくる。

 神社の右手にある事務所の勝手口のドアノブを静かに回すと、軽く金属が擦れ合う音とともに、安っぽいアルミのドアが開いた。


「よかった、今日は開いてた」


 以前、鍵が閉まっていたことがあって、そのときはドアを叩いたり、宿直の職員を外から呼んだりで大変だった。

 結局、起きてくれなかったので、鍵の開いていた窓から侵入したんだけど。


「まあ、鍵を開けて置いてくれたんじゃなくて、閉め忘れただけなんだろうな」


 今日の宿直当番はそういう人だ。


 この神社で巫女を始めてもうすぐ1年。ここの人間がどういう人達か、大体わかってきたところだ。

 どうせまだ寝ているんだろうなと考えながら勝手口を入ると、隣室に繋がる襖の向こうから大きないびきが聞こえてくる。


(やっぱりか)


 予想通りの状況にあきれてばかりもいられない。

 なにせ、この人がまだ寝ている以上、朝の作業は私一人でしなければならない。


 以前、寝ているところをわざわざ起こしてやったことがあったが「目上が寝ていたのなら、一人で作業をしておくのが当然だ」と、ひどく怒られてしまったので、あきらめるしかない。


 出社早々、気分が沈むが気を取り直し、いびきが聞こえる方とは反対の襖を開ける。鍵もなにも無いが、ここが女子更衣室だ。


 6畳程度の部屋には畳が敷かれ、両脇の壁にタンスがぴったりとはめ込まれている。

 タンスの引き出しには女子職員の名前が貼ってあり、一人につき引き出し二つが割り当てられていた。


 とにかく制服に着替えて仕事に取り掛からなくてはならない。

 なにせ、今日は普段の倍の仕事量があるのだから。

 急いで白い着物と赤い袴をタンスの引き出しから引っ張り出す。

 自分のブラウスのボタンに手を掛けて、上から一つ二つとボタンをはずしたところで手を止めた。


 大事な儀式を忘れていたからだ。


 私はせっかく外したボタンを留め直すと、部屋の隅にあるホウキを手に取り、タンスの上に置かれた段ボールや何かの木箱を片っ端から、ゆすったり、向きを変えたりする。


 べつに物に八つ当たりしているのではない。以前、見慣れない箱があるなと思って開けてみたら、高そうなビデオカメラが入っていたことがあったからだ。

 もちろんそれ自体は問題無い。問題なのは、そのビデオカメラには電源が入っていて、段ボールにはご丁寧に穴まで開いていたことが問題なのだ。


 犯人はすぐに分かった。

 去年の秋に大学を卒業して、帰って来たばかりの宮司の息子だ。

 (春ではなく、秋に卒業している時点でその学力は推して知るべし)


 当然、息子は警察に捕まり、宮司は辞任。私たちも安心して更衣室で着替えられる。ようにはならなかった。

 宮司は息子をかばい、他の男性職員は知らん顔。

 挙句の果てに「口外すればこの地域に住めなくしてやる」という脅しまでつけてきた。

 

 たかがいち神社の宮司にどこまで出来るのかははなはだ疑問だが、他の巫女連中も委縮して口をつぐんでしまったので、こちらも黙るより仕方がない。

 

 かくして、朝の段ボール叩きは、私の朝の日課になったのだ。


 一通り調査を終え、一応安心して着替えられることを確認した私は、素早く着替えを済まして、部屋を出た。


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