1-8 訓練
鍛えてほしいと、ジェイドに頼むと…
「では、色々と準備がありますので。また明日こちらに伺わせていただきます。」
と言い残して、早々と部屋を出ていった。
そして、翌朝。
俺は部屋でジェイドを待っていた。
早く起き過ぎてしまったのか全くジェイドが部屋に来る気配がない。
ボーっと待っている間、俺は何かした方がいいのだろうか、何か準備とか…と考えていたのだが、思いつくのが準備体操くらいだったから、待っている間体を動かしていると
ーコンコンコン
ドアのノック音が部屋に響いた。
「どうぞー」
柔軟体操をしながらドアの方へ声をかけると、入ってきたジェイドに不思議そうな表情を向けられる。
「お、おはようございます。シンヤ様。その体制は…いったい何かありましたか?」
「おはよ。柔軟体操っていうんだけど…やったことないのか?」
「初めて見る型ですね…。」
続けてくださいと言われて、少しの間ジェイドに観察されていたが
せっかくだから、ジェイドにも柔軟体操のやり方を教えたが、前屈をさせてみると驚くほど体が柔らかかった。
「あ、今日からよろしくお願いします。」
一通り体操が終わった後、今日の流れをジェイドからきいて、けじめとしてお辞儀をするが
「や、やめてください!あなた様がそんな…」
と、ジェイドがおろおろしだしたと思ったら俺よりも低く頭を下げる。
いやいやいやっと、言い合ってお互い頭をさえ合うが、ジェイドの方が折れて
咳払いをして、早速ですが、と話を切り出し今日の訓練場に案内された。
訓練所はなかなか広い場所だった。
野球とかサッカーとか大人数のスポーツができそうな程だ。
天井は無くて、吹き抜けというのか、青い空が綺麗に見える。
夜とかに来たら、星がきれいに見えそうだが、この世界は基本街頭が少ないのと、高層ビルみたいな大きな建物がほとんどなく、開けた空なんて珍しくもないから、どこでも空が大きく見えるのだった。
場内を見渡すと特にこれといったものは無いが、テントみたいなのがいくつかはってあり複数人座ったり、物を置いておくことのできそうな場所はあった。
ジェイドがどこからか木刀を二本と袋を持って俺に近づき
「まずはこちらを」
と、手渡されたのは木刀。
自分の居た世界で見かけたことはあるが実際に持ったことはない。
よく修学旅行とかのお土産屋とかで見かけるあれだ。いつも遠目から見てかっこいいけど使用用途が分からないから、いっつもお土産には食べ物を購入していたのだが、異世界で初めて手にするとは思わなかった。
なかなかずっしりとしていて重いんだな…とかと感想を抱いていると
ジェイドは続けて
「それから、こちらを。」
袋の中から、丸い輪っかになっている石を手渡された。
「これは?」
「お好きな方の腕に付けてください。こちらは魔力制御装置です。」
言われて左手首につけると、手のひらサイズだった石の輪が自然と手首フィットする。
「魔力制御装置ね……ん?」
不思議に発光する石を見ていると、小さくヒビが入っているように見えた
「なぁ、これって具体的にはどんなものなんだ?ヒビ入ってるけど…。」
「それは、加護よけともいわれておりまして、シンヤ様にも、私にも誰でも生まれた時に天からの祝福を受けます。それが加護。今回はお互いの加護と、魔力を封じて訓練を行います。」
改めて石を見ると、石特有の模様なのか怪しげに光っている。
「一応希少なアイテムではありますので、お互い壊すことの無いようにしましょう。っと言いましても、脆い代物ではないのでそう簡単に壊れはしないのでご安心を。」
優しく微笑まれるが、正直そんな代物を俺がつけてていいのか不安でしかなかった。
それから、加護って言われてもなんかぴんと来ないのは異世界ならではの常識が俺にとっては非常識なわけで
しかし、魔法の存在とかを目の当たりにした身としては否定はできないのだが
俺が魔法だの、天からの祝福だのというのを兼ね備えているかどうかと考えると、そんなもの微塵も感じた事もないわけで…と
頭の中でぐちゃぐちゃと考えていると、ジェイドが木刀を構える。
「では、まず初めに相手に一本入れた方の勝ちということで」
手のひらから水の玉を作り出す。
「これが落ちたら開始の合図です。」
水の塊を上に投げて、お互い木刀を構える。
ごちゃごちゃ考えてた頭を振り、今はこの勝負に全力を出す事に意識を集中する。
直感的に絶対に負けたくないとも思った。
『バシャっ』
水の塊が割れた音と同時に、俺はジェイドに向かって走り出した。
上に振り上げた木刀を振るが、ジェイドがあっさりとそれをよける。
振り下ろした木刀が、獲物を失い思い切り地面へ叩き付けてしまい、その衝撃で俺の手がしびれる。
攻撃をよけたジェイドが、目の前からいなくなり、俺は慌ててジェイドを探すが見つける前に
ジェイドが目の端に一瞬映り、ジェイドが横に木刀をふり、俺の胴体に向けて木刀を当ててこようとする。
その光景が目に映り、ジェイドの木刀が身体に当たると思った瞬間、目の前が真っ暗になる。
「勝負あり、ですね。」
ジェイドの声が、耳元で聞こえ。
その声に合わせて俺はゆっくり目を開けると。
身体に優しく木刀があたり、勝負がついたことに頭がやっと理解を示す。
「なるほど…。」
「ジェイド、もう一回!」
顎に手を当てて何かを考え込むようなそぶりをしているジェイドに、俺は食い気味で再度挑戦を申し込む。
「落ち着いてください、シンヤ様。確認したい事があるのですがよろしいでしょうか。シンヤ様は何か自分に攻撃されるときや、危害が加わると思うと目をつぶる癖があるのではないでしょうか。」
「目をつぶる癖…。」
確かに、よく桜に殴られるときとか正直、怖いし痛いからいつも目をつぶっていたような気がする。
「まずは、戦闘の時や、目の前に突然何かが表れたとしても、基本目をつぶってしまっては先手が打てないというのもありますが、相手の攻撃を防ぐことすらできません。」
何も見えなかったら確かに、何もできない。
言ってる事はわかる。
でも、怖いものは怖い。
「まずは、何があっても目を閉じないように、癖を治していきましょう。」
「お、おう!よろしくお願いします!!」
勢いよく頭を下げると、ジェイドは慌てて、こちらこそ!と頭を下げてくる。
「では、私がシンヤ様の顔や胴に拳を打ち込みます。もちろん怪我をされては困りますから、寸止めですが。打ち込む速さは、通常通りでやらせていただきますのでよろしくお願いいたします。」
「わかった。」
「拳を受け止められる様になってきたら手の形も見えるようにしていきましょう。」
怖いとか言ってる場合でもないし、この前の二の舞には絶対になりたくないからこそ、克服しなくてはいけない課題なんだと思い、ジェイドの話に大きく頷く。
が、その後、ジェイドの通常通りの速さの寸止めによる衝撃派で、何度か吹き飛ばされ、ジェイドの通常とは常人離れしているという基準を、文字通り痛いほど叩き込まれた。
数日間、毎朝の日課になった訓練は着々と、成果は身になっていた。
目を開けていれば、当たる瞬間が分かるようになり
そのあとに来る、衝撃派に備えて、全身に力を入れる。
胴だったら、足に。
顔だったら、顔に来るときに顔を腕で覆うように防御をとることもできるようになったのだった。
昼食も挟みつつ、夕方頃までジェイドに付き合ってもらう日も多く。
今日も、気づけば空が夕焼け色に染まっていた。
土煙とか、汗にまみれた体をさっぱりさせるべく、後片付けを終えた俺は大浴場へと向かっていた。
ジェイドは、今日の報告をライラにするとかで途中で別れることになった。
「あ~…今日もつっかれたぁ…」
「ちょっと、ふらふら歩いてると他の人の通行の邪魔なのだけれど。しかも、何?その小汚い格好は。そんなので城内を歩き回ってほしくないわね」
俺の独り言に、前から歩いてきたユラに睨まれる。
ユラと会うのは、俺が怪我をさせた後一度話したっきりだったから
なんだかまだ、気まずい。
「あ、ユラ…その、この間は本当何も出来なくてごめん。その…怪我とか、させちゃったし…本当、ごめん!」
深く頭を下げる俺は、何を言われても耐えてやると思っていたのだが
「前にも言ったと思うけど、大したケガでもないし。団体行動は慣れてなかった私にも非がある。私の未熟さを恥じるわ。だから、謝らなくていいし気にも留めないで。まぁ、次なんて二度とないから、安心して陛下や、ジェイドに城内で大切に守られてなさい。」
鼻で笑うように、俺から顔を背け俺の横を通り過ぎていくユラの背中に向かって
「次は!次は、絶対にあんな風にならないから!!絶対に!!!」
自分でも少し驚いたが、結構デカイ声で言ったのだが、全く反応がないから聞こえてなかったのかもしれない。
でも、明日からも気を引き締めて、もう足手まといにならないように、頑張らなきゃと思い、大浴場に駆け足で向かった。
更新が遅くなってしまいすいません。
あけましておめでとうございます。
今年一発目の投稿になりました。
今年もよろしくお願いします。
更新がまちまちになってしまっていますが、全完結までお付き合いいただければと思います。
手書きでは第一章は完結しているので、早くPCに清書して投稿できるように
ペースを上げられたらなぁとは思っています。
思ってはいるのです…。