表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/9

1-5「後悔」

「……ちゃん…」

目を開けていても、何も見えない

でも、誰かが側に居るのは分かる


「……助けて…」


身体を動かそうとするが、少しも動かない。

目も身体も役にたたないが、耳だけは、良く聞こえる。


唯一頼りの耳をすませると、泣いているような音も小さく聞こえた

声のする方へ手を伸ばそうとしたら

急に目の前が眩しく光り


「シンヤ!!!」


ユラの声が聞こえた。

全くなにも見えなかったのに、ユラが目の前にいて

ユラから赤く、真っ赤な血が噴き出す。

背中から切り裂かれたんだ。

ユラは、地面にグシャ…と力なく倒れ目を開けたままピクリとも動かない。

彼女の周りが血で染まる。

彼女自身の血で地面をぬらして。


気づくと俺はユラの側に膝をついて座っていた。


ー無力なくせに


頭にそんなわかりきった言葉が響く。


ー何もできないくせに


手を伸ばし、彼女の目を閉じようと触れる瞬間ピクリとも動かなかったユラの目が俺と合う


「っ!!」


ただ目があっただけなのに、やけに怖くて苦しくて、その場から逃げ出したいのに、身体が全く動かない。


「ぁ……ゆ、ユラ…?」


俺の口が勝手に彼女の名前を呼ぶ

でも、動く気配はない。

ゆっくり、ゆっくりとユラから離れようとして後ろに下がると

背中に何かがぶつかり、振り返ると


前から誰かに首を強く掴まれ、耳元で


「…してやる」


「へ…?」


上手く聞こえなかった声をもう一度聞こうとするが、息苦しくなり周りが真っ暗になった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


身体のだるさに、寝返りをうとうとしたら上手くうてず、なんかやけに目が冴えてしまう事って良くあると思う。


今まさに俺はその現象で目が覚めた。

頭がボーッとするし、身体があちこち痛い。

しかも、なんか凄く嫌な夢を見たような気がする、が思い出せない。


「そういえば…ユラ…大丈夫かな…。」


結局あの後も、何も出来なかった自分の無能っぷりは気持ち的にも応える。


「このまま、部屋から出たくねぇな…」


もう一度、毛布の中に潜り込み身体の体重をベッドへ預けると


ーコンコンコン


と、ドアのノック音が響く

誰だろう、と思いつつも声を出すのも、ドアの方に行くのも、誰かと会うのも嫌で寝たふりをする


ーコンコンコン


再度ドアのノック音が響く

耳を塞いで、目を強く瞑り、構わず寝ようとすると


ーバンッ!!


「さっさと開けなさいよ!!!!」


ドアが勢いよく開け放たれた音と、ユラの怒声が一緒に部屋響いた。


「こらっユラ!シンヤ様はまだお休み中だし、返事もないのに部屋へ入るのは失礼だと思うぞ?」


どうやら、ジェイドも一緒のようだ。


「うっさいわね!私は忙しいの、こんな奴にずーっとドアのノックで時間を取られたくないの!!」


やけに元気に話しているユラの声を聞いて、昨日の森での彼女負傷を思い出し、俺は毛布から出た。


「ゆ、ユラ…えっと…、その…大丈夫か?」


「なにがよ?」


「いや、ほら…その、傷とか…怪我とか…」


俺の情けない声を聞いて、ユラは深いため息をつく。


「私はあんたなんかよりもずっと強いの!だから何も問題はないわ。あと、一回しか言わないから良く聞きなさい。」


ゆっくりと息を吸い

俺をじっと見る


「その…悪かったわね。昨日は上手く守れなくて。もっと複数人での行動、というものを理解すべきだと学んだわ。でもね…これではっきりと、あんたは勇者なんかじゃないってわかったし、2度と私と仕事出来るとは思わないでちょうだい。」


俺に指を指し、初対面の頃の様なキツい目を向けられた。

でも、なんか…

あの時の視線と比べると、少しだけちがう様な気もする。


ユラは何も言い返せない俺の様子を見て、また、ため息をついて部屋を出ていった。


「シンヤ様…重なるご無礼をお許しください……。」


ユラが出ていくのを見てたジェイドが、俺に深く頭を下げる。


「なぁ…ジェイド」


「はい」


「あのさ、お前も、もう気づいてるんだと思うんだけどさ…。」


手を強く握って、どう反応されるのかが怖くて、不安だけど言わなくちゃいけない事だと、強く思って


「俺は、ユラの言う通り勇者じゃ無いんだよ…。」


と、俯いたまま言った。

すぐには、何も返してこないジェイドが、俺の側に近づいてくる。


「俺は、こんなに良くしてもらう価値もない!ユラも、言ってた通りだ。俺の実力とやらも、もう分かっただろ?何もできない。見ている事しか出来ない…。勇者だったら、もっとカッコよく皆んなを救うものなんだろ?今の俺には、誰も救えないんだよ!!!」


静かにジェイドが俺の手に触れて、力が入るすぎた拳を、ゆっくりと開かせる。

開いた手には、少し血が滲んでいた。


「大丈夫ですよ、シンヤ様。貴方は今とても、悔しんでいらっしゃいます。自分の足りない物が、ちゃんと見えていて、それをしっかりと受け止めています。大丈夫です。シンヤ様、前を向いてください。私は、私共は貴方には見えないモノも、見えていますから。私は貴方を信じています」


「そんな事言われても困る。期待されても何も返えせない。今日なんか、一日中部屋にいたいと思ってたし、ジェイド達から逃げようとも思ったんだぞ?!」


優しく微笑むジェイドの手を振り払って、距離をとる。


「シンヤ様…。シンヤ様はあの時1人で逃げ出さなかったじゃないですか。今も、自分自身と向き合い葛藤されていらっしゃるように私からは見えます。」


「どこをどう見たらそう思うんだよ?!期待しすぎだ…。」


「それでも、私は…貴方にとってはご負担になるかも知れないけど…信頼してしまうし、貴方のその目を…迷いの無い目を見ると、どうしようもなく君を信じて、期待しちゃうんだよ…。」


言葉尻が弱くなるジェイドの優しくかけられる言葉も聞きたくなくて耳を塞ぎ、もう一度毛布の中に入った。

少しだけ、ジェイドは俺の様子を伺い

俺はなにも返事を返さず

暫くすると、ジェイドが部屋から出ていく音が聞こえた。


取り残された俺は、自分のせいで、誰かが傷ついて、ユラが負傷した時の光景が目に焼き付いていて

目を閉じても、あの時の光景を何度も繰り返し思い出してしまうのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ