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1-4 「無力」

うさぎの様な小動物と、俺は目が合い…

その丸いフォルムと白い毛ふわふわの毛玉の様な可愛さに目を奪われていると

ユラとジェイドが剣を抜く。


「ただの小動物じゃないわ、気を付けて。」


「もちろんだ。シンヤ様どうか私共から絶対に離れないでください。」


ピリピリとした二人の空気に俺は気圧されながら


「お、おう…わかった。」


と、念のために、自分の腰にある剣を抜いて構える。

うさぎは跳ねながらこっちへ近づいてきて

俺たちとの距離をある程度詰めてくると、うさぎの口がパカっと開く

様子を伺っていると、うさぎの口から4本の黒い腕が出てきた


出てきた2本の腕がまっすぐに伸び、ユラとジェイドを無視して、俺に目掛けて勢いよく向かってくるが、その腕をジェイドが、剣を一振りするとあっさりと切り落とした。


だが、まだ2本程腕は残っていて、どうするかと考えるかのように攻撃する隙を伺っている様子だった。


「ユラ!シンヤ様を頼みます!!」


「言われなくても、一般人は守るのが仕事よ!任せて。」


二人のやり取りを、ジェイドが戦っている様子を、今何が起こっているのか、なぜ攻撃されているのかを全く理解できず、思考が停止してると


ユラに腕を思い切り捕まれる


「こっち来なさい!」


そういわれて、そのまま引っ張られるように走り出した。

2人でどのくらい走っただろうか、どんなに走っても、全く森出口が見当たらないし

寧ろ、森がどんどん深く暗くなっていく様に感じた。


「っ!!」


息が上がりすぎて、何かに足を取られた俺は、地面に倒れこむ


「っはぁ…はぁ……ご、ごめん…ユラ……。」


慌てて立ちあがるが、膝が笑っていて手をついてじゃないと、うまくたっていることも、上がった息もなかなか整わなくて、そんな自分に苛立つ。

ユラの皮肉の1つや2つが飛んでくるかとも思い覚悟を決めると、ユラは何も言ってこなくて

それを不思議に思い、前に立っている彼女の方を見ると…

俺たちの前に、さっきのうさぎが複数体いた。


「う…嘘だろ…」


「あんた、大丈夫?1体だけじゃないだろうとは思っていたけれど…流石にこの数は面倒くさいわ…。」


何匹かが、同時に口をまた開き、黒い腕を出そうとする瞬間。

一筋の光が走った。

瞬きしている間に、口を開いたうさぎが真っ二つに割れる。


「お二人とも!大丈夫ですか?!」


ジェイドが、剣についた黒い液体を払い落とす。


「じぇ、ジェイド!さっきのうさぎは…」


「もちろん切り捨てて来ましたよ。」


と、恐ろしい程の優しい笑顔を俺に向けてきた。

そして、俺とジェイドが話していると。


「ジェイド!後ろ!!」


とユラが叫び、手を前に出す。

小さい風が巻き起り、彼女の前に出した腕の肩に緑色の人の半身くらいはある大きさの鳥が現れた。


「吹き飛ばして!!!」


ユラの声とともに、大きな風が吹き、数匹のうさぎ達が吹き飛ばされ木に思い切りぶつかり潰れる奴もいれば、風の中に紛れている鋭い刃に割かれて黒い液体を吹き出す奴もいた。


が、一向に数が減らない状況で、あんなに凄い攻撃でも効果があまりないなんて…と思っていると


「ユラ!!」


ジェイドが彼女を呼ぶのと同時に、ユラが突然崩れかけた

が、手に持っていた剣を地面へ突き刺し何とか、持ちこたえる。


「大丈夫よ…、ジェイドあいつは、ケガとか…ない…?」


肩で息をし始める彼女を気遣い、ジェイドが支えようとするが

それを煩わしそうに、振り払い、ジェイドにきつい目を向ける。


「さっきの奴は…?」


「変なものを出たとしても、本体を切れば絶命します。」


わかった。と短く言うと、何とか整えた呼吸でまた剣を前に向ける。

うさぎ達の中に、よく見ると一匹だけ目の赤い奴がいることに気づいたのだが

遅かった。


うさぎ達が赤い目の奴のそばに集まり始めると、赤い目のうさぎ以外が白い液体のように溶け、一つの塊になり小動物だったのが、デカイ怪物に変わる。


「うおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」


大きな雄たけびを上げて、二足歩行になる。


「一つになったのは好都合ね!ジェイドは右、私は左!いけるわね?!」


「任せろ。」


二人が一歩踏み出すと、凄いスピードで前へと出る。

ユラが左側から剣を振り、ジェイドが右から切りかかるが

デカイ怪物が口から複数の黒い腕を出し、ユラを思い切り殴り飛ばし、ジェイドの剣を掴み抑え込んだ。


「ぐっ…ぅ……」


地面に思い切り体を叩き付けられたユラは、呼吸が一瞬できなくなる。

ジェイドは、手を片方空け怪物に向かって、赤い炎の塊をぶつけ怪物が怯む。

炎の効果は抜群だった、そしてジェイドの剣を掴んでいた腕が焦げ落ちる。

何発か赤い炎を手から放ち、腕の数を減らしているジェイドが


「っ…はぁっユラ!シンヤ様を!」


まだ、軽傷だったユラに言うと、怪物の方を一瞬見る


「シンヤ!!!!伏せて!!!!!」


地面からすぐに起き上がったユラに勢いよく押され、俺は尻もちをついた。

そして、俺の居たところに、ユラが飛び出し、目の前でおそらく俺を切り裂こうとしていた爪の様な凶器が、ユラの背中を切って赤い血が鮮明に目の前に散った。

その光景を俺は、ただ茫然と見ているしかなくて

目が、彼女たちから離れないのに、体が全く動かなかった。


「がっ……はっ……」


ユラが苦しそうな声を出し、血を吐くが、地面に膝をつくだけで、決して倒れることはなく


「け…ケガ…は?」


短く質問され、声が出なくて首を横に激しく振る。


「そう…。」


それだけ確認すると、痛いはずなのに、絶対苦しいはずなのに

ユラは立ちあがり


「ジェイド!そこをどきなさい!」


と、かすれた声で言う。

ジェイドは、ユラに対して何か言いたげな雰囲気だったが、ぐっと飲み込み

先ほどから出していた炎よりも大きな塊を怪物の顔目掛けて放ち

俺の傍へジェイドが駆け寄る。


ユラが手を上にあげ、魔法陣の様な円が出てきて彼女の周りに数千何本近くの光の矢が現れる。

そして、その手を下に振り下ろすとその数千何本もの光の矢が怪物に降りかかり

ジェイドの炎で視界を奪われた怪物をずたずたに刺さした。

すべての矢が放たれ終わると、光の矢は自然と消え残ったのは、黒い液体を垂れ流しピクリとも動かなくなった怪物が無残に力なく倒れていた。


怪物の息の根が止まると同時に、森の空気がガラリと変わる。

あんなに薄気味悪く暗かった森が、明るい陽射しと、生きている動物たちの呼吸が聞こえてくるようだった。


「どうやら、あれの手の内から解放されたようですね。」


「……………ジェイド…」


ジェイドが、そう言って少し安心していると、ユラが小さい声でジェイドを呼び

膝から崩れ落ちるように、その場に倒れた。


「ユラ!!」


俺は、ずっと握っていた剣を力が抜けたのか地面に落としてユラに駆け寄る。

でも、ユラは俺の声なんて聞こえないかのようにぐったりと倒れていて、全く動かない。


「大丈夫です、シンヤ様。彼女はいま自身の生命力を使い魔法を酷使しました。その疲労と、身体的ダメージで眠っているだけですので。ご安心ください。」


と、ユラの傍にジェイドも近づき、彼女の背中の傷の具合を確認し応急処置をしている。

俺も何か手伝えないかと思ったのだが、何もできることがなかったので、彼女の荷物とジェイドの荷物を、ジェイドに断られても持つことにした。


「では、一通りの処置も終わりましたので、帰りましょうか。」


ジェイドがユラを抱き上げようとした時、お姫様抱っこをするのかと思い、何故か俺緊張する。

異世界の男女がそんなことしたら、本物の騎士とお姫様みたいに見えるんだろうな…と期待したのだが…

ジェイドは、ユラを抱き上げると、そのまま肩に担いで歩き始めた。


まもなくして、適当に歩いていたら、あっさりと森の外に出ることができたのだった。



そのまま、城へ戻り

ユラは医者に、傷を治してもらったりの処置を受け、ベッドに沈むように眠っている。


「ユラ!!」


ライラの大きな声と一緒に、ジェイドが部屋に入ってきた。

ジェイドの姿が見えないと思っていたら、ライラのところに行っていたらしい。

近くの椅子へ、ライラを座らせると、ジェイドはベッドの傍に立っている。

ライラは、ユラの手を握り、震える声で誰に話す訳でもなく、口を開く


「ユラは…ユラは、最強の女騎士だと言われてはいますが、守るモノが傍にある時は、身を投げ出しがちになります…。わかってはいたのですが、ジェイドも一緒だから大丈夫だろうって……私は…私が……」


今にも泣き出しそうな彼女に、ジェイドは優しい口調で声をかける。


「ご安心ください、陛下。少し休めば元気になります。あなたのそんなお顔を見たら、ユラも良くなるものも、良くなりませんよ。」


そんな二人のやり取りを、只部屋の隅で俺は見ている事しかできなくて。

あの時も、何もできなかった。

ただ、ただ見ている事しかできなかった。


勇者って言われて、皆に優しくしてもらって、ひたすら守ってもらって…。

今も、何も言わずに、何も出来ずに見ていることしかできない、情けない男なんだ。


部屋に重苦しい空気が漂い。

その空気の重さに耐えかねて、俺は部屋を出て

頭も気持ちも真っ白になってしまい、自分の与えられている部屋にもどって眠りにつくことにした。

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