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1-3 「初めての…」

「……て…。」


周りがすごい暗くて…

目を開けてるんだか、開けてないんだか、平衡感覚すらよくわからない。

体が重い…。手にも、足にも力が入らない…。


「た……け…。」


頭の上の方から声が聞こえるのに…

動けない俺はただその声を聞くだけだった。


「たす……て…。」


せめて、なんて言っているのかだけでも汲み取ろうと思い、耳をすますが、聞こうとすると、聞こえなくなる。


口も動かせないし、体がどんどん水に沈んで行く様な感覚の中…


不意に…


「たすけて…」


と、耳元でハッキリと言われた気がした。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


耳元で誰かの声がした気がして、俺は慌てて飛び起きた。


寝心地は良かったが、バランスのとりにくいやたらと、ふかふかしたベッドの上で外の眩しい太陽の光が、カーテンから溢れる。


ぼーっとする頭の中で、昨日の出来事を思い出しながら…

今ここ、異世界にいる事も寝て起きたら夢でしたーという訳ではなく、紛れもなく自分自身に起こっている現実なのだと、思い知らされる。


昨日は、女騎士と、騎士団副団長、国の女王様となんやかんやと自己紹介が終わり


ジェイドが、俺の疲労に気を遣い、ささっと夕食を済ましこの部屋に押し込まれた所までは記憶があるのだが…


「俺は、いつの間に寝てたんだろうか……それと…この服…いつ着替えたんだ…?」


学生服を着ていた筈なのに、なんか、バスローブみたいな白いパジャマっぽい服を着ていた。


ベッドから降りて、窓際へ向かい、カーテンを全て全開にする。

窓から見える景色は、緑が多い。

遠くを見ると山があって、近くには街が広がっている。


異世界であっても清々しい朝というのは何処にでもあるみたいで、安心した。


「さて…と。」


俺の服はどこだ。


どんなに清々しい朝だったとしても、こんな格好でうろつくなんて論外だし、自分のものがいつの間にか失くなるのは、もっと心地が悪い。


部屋を見渡す限り、クローゼットが1つあるのだが、中を見ても俺のカバンが入っているくらいで他には何も無い。


とりあえず、外にでてジェイドに聞いてみよう。


と、思い立ち部屋のドアを開けると。


これから探そうと思っていた、人物がそこにいた。


「おはようございます。シンヤ様、昨晩はよく眠れましたか?」


ニコニコしながら、俺を部屋の中へ戻し

ジェイドが持っていた黒い服を机へ置き、窓を開ける。


「あ、あのさ…俺の服知らないか?あと、昨日いつの間に俺寝てた?」


ジェイドが一通りの事を終えたらしく、机の側で待機している雰囲気だったので、声をかけてみた。


「はい、シンヤ様の服についてですが、こちらで洗濯させていただきました。仕上がったものがこちらに御座いますので、シンヤ様が仰っていただければ、お手伝いさせていただきます。」


ジェイドは、騎士団副団長の筈なのに、なんでここまで俺の世話をしたがるんだろうか…


いっそここまで色々としてくれるのは、超絶美少女のメイドさんって相場が決まってると思うのだが何故…何故男…しかも、執事でも何でもない、騎士団副団長?!


「いや、おっしゃるも何も…手伝わなくていいから……あ、まさか…これ着せたの…ジェイドが…?」


「はい、そうですよ。部屋に着いて早々に、シンヤ様がベッドへ倒れ込みましたので、折角だからと、僭越ながら着替えさせていただきました。」


屈託のない笑顔を向けられて…

何だか、いっそ清々しくも感じた……


ーーーーーーーーー朝食後。

結局嫌がる俺を無視して、全力で着替えを手伝われた…

ぐったりと、朝食を済ませ綺麗になったテーブルにだら~っとしながら


「さて、今日はどうするかな…」


満腹感と、なかなか美味しかった朝食の余韻に浸りながら、今日一日のことを考える。


「シンヤ様、よろしければ食後の運動に付き合っていただいてもよろしいでしょうか?」


と、言われて特にすることも無いから

ジェイドに案内されるまま外に出る途中。


「ちょっと、ジェイドまたそんな奴と何処に行くのよ。本物の勇者っていうならそんな無防備に外に出て平気なのかしら?まぁ、別に心配とかしてるわけじゃないけど、私の仕事増やされるのも嫌だし、只迷惑に巻き込まれたくないだけだけど」


今日もまた物凄い不機嫌で小うるさい、ユラに捕まった。


「無防備で平気かって…、どういう意味なんだ…?」


「はっ、そんなの自分で考えなさい。でもまぁヒントをあげるとしたら…そうね…、勇者って存在は鬱陶しく思う奴らもいるのよ。」


鼻で笑い、小馬鹿にしたようにいう彼女に対して…


「そんなに心配なら、ユラも一緒に行けばいいじゃないか。」


ジェイドの何気ない一言で、俺もユラも勢いよくジェイドを見る。


「はぁ?!嫌よ、なんでこんな奴と一緒に行動しなくちゃいけないの??絶対に嫌。」


とかってなんやかんやあって、ジェイドとユラと三人で街に出ることになった。



「なぁ、ジェイド俺らはどこに向かってるんだ?わざわざ二人もなんか…着替えてるし…ちょっと運動しに行くだけなんだよな?」


城から出るとき、二人で何かひそひそと話しているなぁと思っていたら、今の服では目立つから、と別の服に着替えさせられて

古そうな茶色い服と、太いベルトを着けて腰に剣と、小さな袋を下げていた。


でも、俺だけならまだしも

ジェイドと、ユラも昨日着ていた鎧とかよりも、かなり軽装な装備で、俺の前にジェイド、後ろにはユラ、と挟まれるように歩いていた。


しかも、後ろからユラの視線が痛い。

すごい見られている感が強いし、ジェイドはジェイドで後姿だけしか見えないのに、ものすごい花が飛んでいるかのようにウキウキしているのが目に見える。


「ご安心ください、もうじき到着しますから」


先頭を歩くジェイドが、にこやかに言い

その間、ギスギスとしたユラの視線を感じていると…


「シンヤ様到着しましたよ。」


そう言われ、立ち止まり目の前の建物を見る


「冒険者団…??」


一番に目についたのは、すごくダサい名前が大きく書いてある、ギルド看板と呼ばれるものがあった。

しかも、外装は木造建築で、見るからに古そうな装いだ。


ジェイドが、行きますよ、と俺たちに声をかけ中に入るので、俺もなにも考えずに中に入ると…

中は普通に小綺麗なレストランみたいだった。


「ゆう……ぁ、シンヤさ……ぃや…シンヤ殿、此処が今日の第1目的地です。此処は外にもあった通り、ギルドなのですが、今日の本目的地はダンジョンに行こうかと思いまして。」


俺をなんて呼ぶか凄い噛みながら、また嬉しそうな顔していうジェイドは、俺の後ろにいるユラに視線を送ると、ユラはふらふらっと別の場所へ行った。


「俺、そういう…なんていうの?狩りとかやった事がないんだが…初心者でも大丈夫なのか?」


「えぇ、ここのギルドのクエストは基本的に初心者向けですし、私とユラが居ますから貴方に何かある方がおかしいでしょう。」


いや、だったらクエストとか行く意味なくないか?という疑問を飲み込んで、せっかくの異世界なんだし…ちょっと怖いけど、モンスターとかも見てみたいしな…と好奇心に負けて、ジェイドに促されカウンターの席へ着いた。


「なにか、飲み物でも頼みましょうか。何がいいですか?」


差し出されたメニューには

冷緑、冷黒、冷水、冷泡

と4種類の飲み物が書いてあるのだが。全くイメージが湧かない。


「お前はなににすんの?」

「私ですか?うーん…そうですね…冷緑にしようかと思います。」

「じゃあ、俺もそれ。」


ジェイドが頼んだものなら安心だろうと思って居たのだが…

大外れだ……


出された冷緑とは、凍ったでかいグラスのコップに

緑色のドロっとした液体が入っていて、しかもブクブクと泡が立っている。


見た目がもうアウトそのものだ。


「初めて見ましたが、なかなかワイルドな見た目ですね。」


ほほう…と興味深げに見ているジェイドに俺は全力の、声がでる


「おまっ!知らないもん頼んだのかよ!!」


心の底から楽しそうなジェイドと、この頼んだものをどうしたら良いのかと頭を俺が抱えていると


「あんたら、うるさいわよ。」


と、ユラが一枚の紙をヒラヒラさせて戻ってきた。


「いや、ジェイドが飲み物頼もうっていうから頼んだんだが…見た目がアレでどうしたらいいのかわからなくて…」


「ジェイドが…ふーん……人任せにしてるからそんな後悔するのよ、ばっかねぇ。要らないなら私がもらうけど、いい?」


お、おう…と、引き気味に俺が返事をする

ジェイドは、ワクワクとした表情をちょっと隠しながらユラを見ていると

コップに手を伸ばし、一気に飲んだ。


「ど…どう?」


「まぁ、ふつうね。」


一気に飲み干したユラは平然とした顔をしていて、正直彼女の普通の基準がすごい気になる…。

ジェイドは、ユラの様子を見た後に、少し飲んでいたがあまり口に合わなかったらしく、手を付けていなかった。


「って、こんなところで油なんか売ってないで、早くクエスト行くわよ。申請とか色々はこっちでやっておいたんだから感謝しなさいよね。」


そう言って胸を張る彼女に、俺は拍手を適当に送っておく。

ふふんっと気分のよさそうなユラに、ジェイドはあまり興味なさそうに


「では、クエストに行きましょうか。」


と、一人で立ちあがり俺のほうを見る、もうここまで来たら後には引けないし…

やるしかないと、腹をくくりジェイドと、ちょっと不満そうなユラと、一緒に街を後にしたのだが…




ーーーもう後には引けないって思ったけど…


街から出てしばらく歩いていると…

深い森の中に入っていった。

森の中は、鳥の声すら聞こえないし、なんだか薄暗い場所で…

そのまま歩き続けていると…

一本道の奥のほうから、ゆっくりと歩くモンスターが表れた。


遠目からでもやばそうな空気を漂わせているそのモンスターはまず、人の形じゃない。

いや、人の形をぎりぎりしているが人の形とは言いたくない外観だ。

しかも、胃の中身を見ただけでぶちまけてしまいそうな程グロテスクで、っていうかもうドロドロしていて原型すらとどめていないし、俺の倍ぐらいデカイし、、、、

早速さっきの変な決意と、謎の好奇心を抑えられ無かった俺自身を悔いる。


「シンヤ様、私たちがいますのでご安心して戦ってください。あれはスライムマン物理攻撃ももちろん効果的ですが…、致命的な攻撃になるのは、奴の胸あたりにある、光るコアの部分です。あれさえ壊せば、原型をとどめることができないので、はじけて消えるでしょう。さぁ、私たちは邪魔は致しませんので、どうぞ。」


「へっ?!お、俺一人でやるのか?えっと、マジで??」


弱腰な俺を、鬱陶しそう見ているユラと、ゆっくりこっちに向かってくる、スライムマンがめちゃくちゃ怖い…。

が、ここで逃げては男が廃る……。


「や、やってやろうじゃねぇか……うっうぉぉぉおおおおおお!!!」


思いっきり振った剣はスライムマンの腕にぐにょっと刺さったのだが、抜けないし、ピクリとも動かない。

身動きが取れないでいると、スライムマンの攻撃が勢いよく俺の頭上に振り降ろされる。


「ひっ!!」


「シンヤ様っ!!!」


ジェイドの声が後ろから聞こえたと思ったら、バシャっと水風船が割れたように、剣を腕のところがびしょ濡れになった。

どうやら、ジェイドが、代わりに倒してくれたみたいだ。


「お怪我は?!」

「な、ないです…」


心の底から安心したような顔をするジェイドとは裏腹に、ユラはもっと不機嫌な様子だった。


「こんな雑魚相手に…しかも、そんなの浴びるなんて…やっぱりこんなやつ勇者なんかじゃないわよ。」


冷たい、冷めた目を向けられ、胃の奥がギュっとする。


「そんなこと言われたって…俺だって勇者勇者って、こいつに言われて、よくわからないままこんなところに居て…一回も俺が勇者だって言ったことないし、好き好んでこんなところにいるわけでもねぇよ!」


「私は、さっきも同じことを言った気がするけど。人任せにしているからこんな事になるのよ、小汚いだけじゃなくて、根性も最悪とは…救いようもないわね。」


見下したように、ユラに言われて…

その場にいてもたってもいられなくなり……


「じゃぁ、なんだよ…さっきからお前、俺の事初対面の時から馬鹿にしてるじゃんか…。人を馬鹿にして、お前はそんなに偉いのか?!」


「偉いわよ、あんたなんかよりはよっぽどね。キャンキャン吠えてて楽しいかしら?自称ゆうしゃさま?」


「だから、俺は一回も勇者だなんて言ってない!!」


「ユラ…そこまでにしてくれないか…?周りの様子がおかしい。今回のクエスト内容の確認を。」


ずっと黙っていたジェイドが、周りを警戒し、何か他にも言いたげな様子だったのだが、とてもこらえているようにも見えた。


「今回のクエスト内容は、最近この森でスライムマンが徘徊しているから、それの討伐。視察の段階では、徘徊しているスライムマンは1体のみ、他モンスター無し。のはずよ。」


本当は会話に加わるのも、ユラとこれ以上話して馬鹿にされるのも嫌だったが、気になることがあり会話に加わることにした。


「な、なぁ、スライムマンってめちゃくちゃ強いのか?」


「あなたよりは強いわね。でも、初心者クエストになるくらいだから、普通にやっていれば、雑魚のはずよ。なんで?」


普通に会話が成り立ち、ちょっと棘もあるが


「いや…森ってさ…普通もっと鳥の声とか、動物のいる気配?みたいなのがあってもいいんじゃないかなぁって思ってさ…。なんか静かすぎないか??」


俺の言葉を聞いて、彼女の様子が変わる。

あたりを見渡すユラと、ガサガサっと茂みから音が聞こえて、そっちを見ると…


「やはり、この森…様子がおかしいです。鳥や、虫の類、他にも動物のいる気配や、痕跡がないです。」


「な、なんだ…ジェイドか…おどかすなよ……。」


ジェイドが、いつの間にか周りを見に行っていたみたいで、急に出てきたからか、警戒を強めたからか、ユラは腰にある剣に常に手を置きはじめた。


「この森から早く出ましょう。」


ユラの声に、俺たちはうなずき、しばらく歩いていたのだが…。


「な、なぁ、この森に来たときよりもなんか長く歩いてないか…?」


「確かに、そんなに奥まで来ていなかったと思ったのですが…。」


いくら歩いても、出口が見えない…。


「ちょっと待ってなさい。」


そういうと、ユラは手近に咲いていた花に手を伸ばし、一輪摘むと息をふっ…っとかけた。

花だったものが、みるみると彼女の手の中で丸くなり…何かの形になろうとしたがパッとはじけて光の粒となり消えた。


「ユラは何をしてるんだ?」


「彼女は今自分の魔力を使って、花で鳥を作り、それを目にしようとしましたが…」


「それができないってことは…獲物は私たちみたいね。魔法の類が使えなくなってる。」


森の中が、先ほどよりも暗くなっていく。

何か嫌なものが近づいている気がする。


「あんた、私たちから絶対に離れないでよね。」


何だかんだで、面倒見が良いというか、ちゃんと視野に入れてくれているユラの頼もしさが凄い伝わってくる。


「シンヤ様……っ!?ユラ!来ます!!」


ジェイドの見ている方向を見ると、茂みの中から何かが飛び出してきた。

飛び出してきたのは……


「う、うさぎ…?」


なんとも可愛らしい小動物のウサギが、俺たちの前にちょこん…と現れた。

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