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1-2「なまえ」

耳から離れない言葉というのは、ふとした時にこびり付く。


どんなに焼き付けようとしても、離れて行く言葉なのに


いつどこで聞いたのかもわからない様な、あまり記憶に残りにくい様な、そんなちょっとした言葉が耳から離れず


たまに空気の中で囁く様に


夢の中でハッキリと誰かが言った様に


聞こえる事もある。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


城へと言われて、連れていかれた場所が

丁度、国のど真ん中にあるでかい建物だった。


「近くで見るとまた、迫力が全く違うな…」


真下から上を見上げようとするが、全くてっぺんが見えないし、ひたすらデカイ建物の前には同じ様にデカイ門があって、今までの俺のなかにあった常識の規模を超える様な、圧倒される感覚に襲われた。


「貴方に…こんな事をお願いするなんて差し出がましいとは思いますが、一つどうかご了承していただきたい事があります。」


改まった様子で、困った笑みを俺に向けた後ジェイドが城へ視線を向けて


「どうか、ご無礼があると思いますがお許しください。」


と、城の方を見たまま言ったのだった。


「お、おう」


何の事を言っているのかもさっぱり分からないのだが、俺の返事を聞くなり嬉しそうに笑う


「では、行きましょうか。」


大きな門が開くのかと思いきや、ジェイドの後ろを付いて歩いていたら、普通の大きさの柵のドアから入り、正直ちょっとガッカリした…


が、それもつかの間…


建物の中は、外観同様規模が違いすぎた。

デカイ…天井も高いし、なんかよく分からん壺みたいなのもデカイ…

更には、壺の中に入れられている花もキラキラとしてて、存在感が凄いし

どこを見ても、何処にいても居心地が悪いというか…

見慣れないものばかりで、不安感が凄かった。


ジェイドの後ろをずっと歩いていると、ふと足を止めた。


「到着致しました。こちらです、勇者…この中に入った時に…その、色々とご無礼があると思いますが…」


また、その…っと困った顔をして念を押してくる。


「わかったから、大丈夫だって」


「ありがとうございます。」


俺が、手をヒラヒラと振り、悪い空気を払う様に言うと

深々とジェイドは俺にお辞儀して、俺らの倍くらいはありそうな扉の前に向き直ると、両手をドアについた。


ギギギギギギギギキィ……


ジェイドが力を込めて扉を押すと、大きなものが動く時のこの言葉では表せない様な重量感がある音が響く。


そして、ジェイドが部屋の中へ入ったので後に続いたのだが


「遅い!遅すぎるわ!!いつ迄外をブラブラと歩いていたのよ?!貴方の仕事は、何なのかハッキリと改めた方が良いのではないかしら?」


入った途端、女性の怒声が耳につんざいた。

声の主を、見ると。


ジェイドの鎧よりも少し軽装な、白い鎧をつけていて、纏められた黒い髪が太陽の光を浴びて、艶やかに光っている。

凛としているというよりも、細身なのにどっしりとした雰囲気の女性だ。


「やぁ、ユラ。待たせてしまっていたのでしょうか。ですが、副団長の勤めの中には、"勇者を発見し次第の保護"も含まれていますから、ちゃんと業務中ですよ?もちろん、現在進行形で業務遂行中となりますが。」


ジェイドは、ユラという女性の勢いに動じず、ヘラっとした笑みを浮かべ答えている

が、彼女の怒りは収まらないらしい…。


「現在進行形?それはいったいどう、い…う…こ…と……?」


急に、大きな声を出していた彼女の言葉尻が弱くなると同時に、ジェイドを睨んでいた目がゆっくりとした動きで俺の方を見た。


不意に言葉の勢いが弱まった彼女を不思議に思って、俺も彼女の方を見てしまい…

視線が合ったと思った瞬間鋭く、身動きが取れなくなるような気迫を全身で感じた。


「ジェイド…そこに居る小汚い男は誰なの…?」


鋭い視線と、重みの増した声に全身がびりびりとする。

この視線と、声だけ人を殺せるような、心なしか冷や汗も出てくる。

一瞬でジェイドに向けていた物とは全く異なる、明らかに殺意のような、ちょっとでも下手なことをしたら、殺すと。言わんばかりの目だ。


「ユラ、そんな怖い声を出さないでください。彼は勇者だよ。」


「は?勇者?」


ジェイドの言葉に食い気味で反応する彼女から、やっと殺意の視線が俺から外れて、重々しい空気から解放され、ホッと息ができる。


ジェイドは彼女の剣幕にも全く動じず、むしろ堂々とし過ぎていて2人のこの雰囲気で部屋が凍り付くような、凄く今すぐここから出たい気分だ。


「あんな得体のしれない男を、勇者だと言って、のこのことここへ連れてきたっていうの?頭おかしいんじゃない?勇者勇者って、こんな奴の何処が勇者なのよ?小汚いし、無力そうな子供じゃないの。ジェイド、あんたも、もう子供じゃないんだから変な奴に期待するのも、勇者の幻想を追うのも、もうやめてよ。ばっかみたい。」


「いやいや、本物の勇者だよ、ユラ。彼への失礼な態度は私が許さない。それに、そんな拙いく、悪い言葉を使っていると、君自身の品を損なってしまうよ。」


「その気取った様な態度、ほんっと頭にくるのだけれど。いっつもいっつも自分の事よりも、勇者勇者勇者ってそればっかりじゃない!!」


二人の口ぶりがどんどん険悪になっていくのを、何も言えずに見ているのだが…


「ユラ、ジェイド。ふたりとも、いい加減喧嘩はやめなさいな。」


内心ヒヤヒヤしていると、突然会話に加わったのは、凛としたやけに通る声の持ち主だった。

声だけでも気高さや、気品が表れているのだが、目を向けると…

白いドレスに身を包んだ女性が、椅子に座っていた。

綺麗で幻想的な、たとえるなら、そこに一輪の白い花が咲き誇っている様な雰囲気だった。


そして鶴の一声をとはまさにこの事だなと、思い。

あまりの幻想的な光景に…息を呑んだ。


「初めまして、勇者殿。ここからお声をかけてしまい申し訳ございません。私はこの国の象徴と言いますか…そうですね…んーっと……」


雰囲気に似合わず腕を組み考え始め、椅子に座ったまま言葉を選んでいる彼女に、ヤレヤレといった顔をして、ジェイドが助け舟を出す。


「勇者。あの方は、この国の女王陛下です。」


「とは、言われておりますが…。女王と言っても何も権限や、権力なんて無いに等しい、お飾りなのですがね。」


ふふっと口元に手を当てて自傷的に笑う彼女は、そんなことを言いつつも決して自信が無いという様子ではなくて、変わらず凛とした振る舞いだった。


「コホン…改めまして。初めまして勇者殿。私はラスカ国の女王を務めております。ライラと申します。

そして、彼女のご無礼をお許しください。彼女は私の騎士、私の剣のユラと言います。彼女にはよく言い聞かせておきますので…」


と、困った様に笑うライラは、ユラに視線を移す。

ユラは、何故か一瞬顔を赤らめていたのだが、俺をまだ疑っているような顔で見ている。


「ジェイド、私と陛下に説明しなさい。この男は誰?本物の勇者なの?」


「本物だよ。伝説通りだったんだ!ユラ!聞いてくれるかい?伝説通りだったんだよ。光が空を割き、その下に彼が居たんだ!この世界では見たことのないような服装をしているし、雰囲気だって普通じゃないんだよ。ユラだって、勇者の伝説は読んだろ?本当にそこに記されている通りで」


「わかりました。ジェイド、わかりましたから一回落ち着きなさいな。ユラも、私も、勇者殿も、そんなに捲し立てて話されては困ってしまいますよ。」


ユラが、説明を求めただけなのに、すごい語るジェイドをたしなめるライラ。

ライラが、話すとやはり騎士だからなのか、スッと静かになる二人は、よく調教されているというかなんというか…


なんて考えていると


「勇者殿、申し訳ございませんが良ければ、あなたについて教えていただけないでしょうか。」


と、話題を俺自身に振られた。


「え、まぁ…えっと、そうなりますよね…。えっと…その、初めまして、龍崎 慎也(りゅうざき しんや)って言います…。あ、と…高校2年生です。よろしく…。」


駄目だ!コミュ障がこんなところで発揮されてしまうなんて!!!


「リュウザキ シンヤ殿ですね、こちらこそよろしくお願い致します。」


ライラはニコッと笑い、コミュ力の塊な雰囲気に圧倒される。


「ほら、ユラも自己紹介しなさい」


「う…わ、わかったわよ。女騎士団団長ユラよ。私は陛下の騎士でもあるの。陛下になにかしてみろ、この私がお前なんて真っ二つに切ってやるから。よろしく。」


ライラに言われて、嫌々自己紹介してくれた彼女の口元は引きつったように笑っているが、目が笑ってなかった…


「勇者のお名前は、シンヤ様というのですね!是非シンヤ様とお呼びしてもよろしいでしょうか?あぁ…なんて素敵なお名前なんだ……」


と、1人で盛り上がり始めるジェイドを横目に、さっきの殺伐とした空気よりも、この収集がつかなそうな雰囲気に…


元の世界に戻るまで、この人達にお世話になるのか…と考えただけで、不安でしかなかった。



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