表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/9

1-1「名誉と伝説と」

勇者というのはこの我が国では、大変重きを置かれかつ、シンボル的存在である。


勇者について語られる事は

勇者はいつ現れるか分からない。

勇者は様々な事を教え、伝える者である。

勇者はこの国この世界を救う者。

勇者はただ1人である。

勇者はこの世の者ではない。

勇者は光と共に現れる。

勇者は…勇者は……


という、伝承を受け継ぎ、大昔に勇者が現れたという日を祝し、今日は国の中でも1位2位を争う大きな祭りが行われている。


そんな、国中をあげての大祭の日に僕は、祭りの様子、雰囲気を城の窓から眺め、急ぎ足で街に出る準備をしていた。

僕は、公務の一環と称し、いつどこで如何なる時も勇者が現れて大丈夫な様に、また諍いがあった際に直ぐに仲裁できる様にと、街に見回りに行くのが習慣となっていた。

普段からも、非番の日などは街に出ての見回りを欠かさないのだが…


今日は特別なんだ。


日常的にも、こういった大祭の時も常に僕は待ち続けているのだから…。


部屋にある、鍵のかかった棚から、白いローブを取り出し綺麗に畳みながら


「今年は、訪れるのだろうか…」


と、呟き1人で苦笑し腰の鞄にローブを収納した。


毎年諍い事も何も起きず、もちろん勇者も現れず、退屈な祭りなのだが今の平和で平穏な国も悪くないとは思う。

でも、何か、何かが起きて欲しいと心の片隅でふと、言葉にできない様な感情を抱いてしまうのはきっと、我儘でもあり、傲慢というやつなのだろう。


ひと通り、外へ出る準備が終わり

ふぅ…と誰にも聞こえない様な小さな溜息を吐いた。

大祭にも関わらずとても静かな城内を歩き、門の隣にある柵でできた出入り口から外へ出た時…

自分自身の身体が大きく歪んだ様な、視界が回るような、空気に大きな異変を感じた。

周りを見渡した時に、ふと空を仰ぐと…

一瞬、ほんの一瞬だったのだが、空が歪んだ……


ーーーーーカっ!!


目を凝らして、歪んだ場所をよく見ようとした時、空を破る様な一筋の光が走り、その光は地に落ちた。

その光が落ちた先は、街の方で、身体が思わずその方向へと駆け出していた。


何故だろう、何故かそこへ向かわなきゃいけないという気持ちと、胸の辺りがわくわく、ソワソワする。

何も根拠も確信もないのに…

こんなに心が踊るような気持ちはいつぶりだろうか

まさか、まさか…っと何故か思いながら期待と同じくらい、足が速くなる。


そしてこの時、僕は全く嫌な予感というもが起きなかったのだ。


急いで街へ降り、大通りの角を曲がり、細い道の行き止まりにたどり着くと、今までに見たことのない服装の男がしゃがみ込んでいた。


「き、君は…」


息を整える前に、震える声を抑えながら咄嗟に出た声はか細く情けない声だったが、心を落ち着け…深呼吸をして呼吸を整え…


「そこの君!!」


仕切り直して相手に聞こえる様な声を発した。

そして、声が届いたのか、ゆっくりと立ち上がり振り返るその男は、立ち居振る舞いこそ、普通とは全く異なる存在だと直感的に思った。

異様な雰囲気、見たことない服装、光と共に現れた…


無意識に握りしめていた拳が震え、居ても立っても居られず、彼に近づく。


まさに、まさに!まさに!!伝説通りではないか!!!


「っ君は…!勇者だろう!?」


我慢が出来なくなった思考が、口が勝手に言葉を発してしまった。


こんなに心が踊る日が来るなんて

僕はワクワクと興奮と期待がが止まらなかった。



————


よくわからないまま、異世界特有の格好をした男に話しかけられた訳だが


その男は、腰にはまぁなんともたいそうな剣をさげ、白い様な、銀の様な鎧をつけており、おそらく成人はしているであろう大の大人が、まるで、小さい子供が憧れの戦隊ヒーローと会えた時の様なキラキラした目をしており。

俺を見るなり開口第一声がこれだ……


正直、動揺した。

何言ってるんだ?こいつ??と。


話に全くついていけないんだが

しかも、嬉しそうに近づいてくるし

なんか勢いが怖いし…


「あぁ!いけない。貴方にこちらを…」


フワッと頭を覆い被さるように、白いローブを羽織らせられて、しかもその男は満足気に微笑んでいた。


なんだこいつ気持ち悪い。


「いつ、勇者が訪れても良い様にと、作らせておりました。簡単にご説明しますと、勇者の存在を隠す特注のローブです。そして、何かとこちらにいらしたばかりで、ご不安な事と思いますが、ご安心ください、本日より私がお傍に仕えさせて頂きますので」


「えっと…いや、え?待て待て。俺は勇者?じゃないし。気付いたらここに居てだな?正直ここがどこかもわからない訳で、お前は誰だ???」


あれやこれやと話したそうに俺との距離を更に詰めてくる男の話を手で制して、俺はとりあえず今現状、俺のおかれている状況を話した、が


「大丈夫ですよ、勇者は勇者。貴方は貴方です。他の何者でもありません。ご安心ください、私がついておりますから、さぁ、では先ずこちらにいらしてばかりですから、貴方のための大祭の様子でも拝見されますか?それとも、私が色々と不便にならぬ様にと、語らせ…いえ、ご説明させて頂くのも良いですが……あ、先に陛下に面会をされる、というのもありますが、如何なさいますか?」


選択肢を複数だされても、なぜこいつはこんな状況で安心しろとか言っているんだ。

全くこっちの話を聞いてすら居ないし、寧ろこいつの存在自体が、文字通りヤバい。


「えっと…だな。じゃ、じゃあ…腹減ったから祭りを見たい」


できるだけ目を合わせない様にしつつ、今出された選択肢に応えてみた。

そういえば、家を出る時に普通に飯を食べた筈なのにやけに空腹感がある…

そんなに時間が経った訳でもなかろうに…


そして俺がそう要望を出すと、その男はキラキラした目をして


「はい!お任せください!」


と嬉しそうに言うのだった。


路地からでて、街へ連れてかれた俺は色々な出店を物色していた。


この大祭とかいうのは、正式名称があり勇者祝祭と呼ばれていて、国における祭りの中でもかなりの大規模なお祭らしく、勇者に因んだ食べ物、土産品、特に関係ないような普通の飯まで沢山種類があった。


提灯の様なものが宙に浮いて居て、更には

ガヤガヤと、人の声の中にかすかに音楽も流れている。

本当に異世界ならでは感満載な祭りだった。


「な、なぁ。さっきも聞いたとは思うんだが、ここはどこなんだ?お前は誰だ?なんでこんなに良くしてくれるんだよ」


俺は、食べ物の入った袋を3つほど提げて、かつ、たこ焼きの様な粉物系の一口大程の丸い食べ物を頬張りながら、半歩後ろにいる男に声をかけた。


「はい、あぁ、これはいけませんね…申し遅れました。私は騎士団副団長ジェイドと申します。そして、ここはこの一帯の国の中では一番大きな首都と言われる国で、ラスカと言います。この国では毎年この時期に、勇者祝祭をしており、勇者の恩恵や、栄光を尊いものとし、いつ如何なる時も勇者が現れても良い様にとの心構えを現している祭りなのですよ。」


俺は、ほうほう…と頷きながら、キラキラした飴細工の様な店の前で立ち止まり、おぉー…と感心しながら物色していた。


まぁ、異世界ものでのセオリーとして、必ず騎士団系の奴とは関わるとは思ったが、まさか副団長様とは…。


「こんなに、色々良くしてくれるのはお前…ジェイドも俺にそんな栄光だの恩恵だのと良くわからんものを期待してるからなのか?」


視線をジェイドに戻し、素朴な疑問を投げかけると、とても生暖かい目で俺を見守るジェイドと視線があい、微笑まれた。

前の勇者とやらが何をしたのかは知らないが、そんな期待をされても正直困るし、凄くこの視線が居心地が悪くまた俺はすぐに視線を外した。

全く、ただの高2男子になにを求めてるんだか。


「いえ、私はただずっと勇者に憧れ、勇者を待っていましたから、勇者がいらしたら何をしたいか、何が出来るかを常に意識し、生活しておりました。そして、その念願が今こうひて目の前にいるんですから舞い上がらない方が、おかしいですよ。」


凄く優しい笑みを俺に向けて嬉しそうに言うジェイドは、透明に透き通る様な青い鳥の形をした飴細工を幾つか購入していた。

少し、うっとりとした表情を俺に向けられ、冷や汗をかくが、気づかれないよう乾いた笑いをしつつ話を逸らすことにした。


「と、とりあえず、祭りはぐるっとまわったが、これからどこに向かうんだ?」


飴細工の店から離れてまた、俺は歩き出したのだが、やはり一定の距離感でジェイドは付いて来る。


「そうですね…。」


と、ジェイドが思案顔していると、バサバザと白い鳩みたいなのが飛んできた。


『こんなところでなにをしてるの?!油売ってないで!早く陛下のお側に戻りなさい!!』


は、鳩が喋った……


ジェイドの肩に留まると、鳥がキラッと光そのまま弾けるように散った…


鳥の残骸はよく見ると白い花弁で、キラキラと地面に落ちるかとも思ったのだが、次第に透けて、空気に解けるように消えた。


「い、今のは…?」


状況について行けず、ジェイドに声をかけるが、ジェイドが一瞬変な顔をしていたように見えた


「申し訳ありませんが、そろそろ城へ向かいましょう。」


と、街の観光が終了した。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ