第3話 【 転職 】
あれから一時間程経った。
俺はとある紙に目を通していた。
「わからないことがあれば、何でもこの子に質問するように」と社長から言われていた。
「あの、すみません。」
「…。」
この天使は何も答えない。
「えーと少し聞きたいのですが…」
「…。」
この天使の耳は飾りのようだ。
何も語らず、何も聞こえず。といえば聞こえはいいが実際のところただの無視である。
なぜこんなにも嫌われているのか、俺には分からない。
だがなぜこの女の子と二人きりにさせられているのかというと
~ 一時間前 ~
「俺は…この理不尽な人生を意味あるものにできるのなら、その1%をあきらめたくない。…です。」
俺は答えた。
「…よく言った。青年。」
女性は銃を収めて俺から離れた。
その様子を見ていた女の子は呆れているようだった。
「では改めて、私は『RED』君がこれから働く会社の社長だ。そしてこの子は、」
「『エル』です。」
女の子はそう言った。
女性、もとい社長は少し困ったような顔をしたが、何も言わなかった。
「俺は、『御掛 裕』」
「そうか、まあ我々はニュースなどで名前を知っていたのだが。とにかくようこそ、ユウ。異世界派遣会社へ。聞きたいことは山ほどあるだろうが、この本を読め。」
手渡せれた本はとても分厚く広辞苑のようだった。
本の表紙には 異世界派遣株式会社 会社概要 とだけ書いてあった。
顔を引きつらせつつ社長へ問う。
「これ、全部ですか?」
「もちろんだ、重要なことはまた後で説明することになるだろうが今はそれを読んで知識を付けておけ。分からないことがあればエルに聞くといい。」
「社長!なんで私が!」
「私はこれから用事があるので少しの間失礼するよ。」
「社長!」
~ 回想終わり ~
そして今に至る。
「はぁ…」
椅子に座りながら読んでいた本から目を離しもう一度エルにこえをかけてみる。
「すみませーん、エルさーん。」
やっと反応してこちらを見てくれたのは嬉しいのだが、顔がすごく怖い。
「本を全部読んでから分からないことだけを聞いてください。」
「はい。」
怒られてしまったので、もう一度本に目を戻し残ったページの分厚さにため息を吐きながら読み始めた。
いつの間にか社長になっていたのに、今度は自分の意志で派遣社員に転職させられるとは思わなかった。