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魔化折衷  作者: 星心星道
18/32

天地反転ぶっ!!(転 前半)

 サブマリンからニシブッポウソウへの繋ぎ部分となります。

 部屋に置かれたぬいぐるみについては、寝る前に渡す事になるでしょう。


 さて、私はSNSを使用しない人間ですが、私を連想出来る名前がSNS上には

 あるようです。

  別人ですのでご注意下さい。

  追伸 恒星穂華 というネームでスチームのPCゲームをプレイしています。

     チャットには反応出来ませんのでご理解下さい。

     正社員、運送業をしている為、執筆速度は遅いです。


※ 10月28日 前書きを訂正。撫でているのに、撫でていないと記述してました。



 航宙歴五百十七年四月十日 午後十時五十四分

「試合終了!」

 栗夢の声が反転プールに響いた。

 第三陣の投擲を終えた花菜と音穏は、私や瀬名里達の居る木箱側のプールサイドへと近付いて、水から上がろうとしている。

 私が第四陣を投げる前に、一分前を告げるレーザーポインターが水面を這った為、攻撃を断念したのだ。

 攻撃可能時間以外での、投擲や打撃は、数秒のずれであっても反則負けとなる。

 それを理解していた私は、球体を投げなかった。

「良い判断ね。花菜や音穏にも不満は無いようだし、(いさぎよ)いのは美徳よ」

「時と場合によるけどね。(いさぎよ)さは、諦めと、表裏一体(ひょうりいったい)だから。逆に、諦めの悪さは頑固(がんこ)執着(しゅうちゃく)という支配欲に該当してしまうし、何事も加減が必須の世界だよ」

 栗夢の発言に、私は油断の無い心構えを伝えた。

 頑固は、他者の意見を認めず、自身の意見を優先的に通そうとする点から、支配欲となりやすい。

「私は頑固に男装を維持しているけど、これは支配欲に該当しないの?」

 空色のマイクロビキニに身を包む栗夢は、普段の男装を不安に思っていた。

 私は勘違いをしている栗夢に、優しい笑みで答える。

「栗夢のは、頑固では無くて、個性でしょ。頑固って言うのは、他者に自分の意見や行動を強制しようとする行為だから」

 人間は自分に有利なように言葉を解釈するという、悪い癖がある。

「試合に負けた後に、自分に厳しくするのが負けず嫌い。負けた試合に後悔したり、逆恨みをするのが、怨念という執念(執着)だったかしら?」

 水から上がった花菜が、悪い癖の一例を取り上げてくれた。

 相手に負の感情を抱く事は、支配欲を所持する事と直結している。

 勝った側も油断は出来ない、見下しという支配欲に囚われる危険性があるからだ。

「その通り。花菜は感情に対して知識が深いよね。霊感が高いと、感受性も高いのかな」

 私の言葉に、花菜は落ち着いた笑みを浮かべながら答える。

「私より、穂華の方が霊感が高いでしょ。隠世(常世)の管理を任されているのだし」

「うん。でも、共感の得られる仲間って、居ると嬉しいでしょ? 考えの異なる相手を認める事も大切だけど、共感は素直に嬉しいって、思えるから」

 共感と反対意見の否定は、同じでは無い。

 支配欲と独占欲が無いという前提条件付きではあるが、異なる意見と相互理解をしながら、同じ意見と共感をする事が可能だ。

 自分の為では無く、他者の為に行動する。

 この本質を忘れなければ、人は混沌に負けずに済む。

「主、飲み物は無いのですか?」

「あるよ。女性側入り口の向こう」

 先ほどと違うホナエルの気配が、連絡通路を移動している。

 秘匿念話は無いが、こちらの邪魔をしないように静かに近付いていた。

 音穏は私の言葉を聞くと、女性側の連絡通路に意識を集中させる。

「では、今度は私が受け取って来ます。私でも気配を察知出来ないのは凄いですね。ホナエル達の隠密能力には尊敬します」

 集中して初めて、ホナエル達の存在を捉えたようだ。

 音穏の発言には、感心する思いが込められている。

「物質の循環がホナエル達の責務だからね。輸送役が目立っていたら危険でしょ?」

「その通りですね。受け取る時に、隠密のコツでも聞いてみます」

「うん。ディフェンダーが上がるまでには、飲み物を持って来てね」

 星側の優しさを否定する理由は無い。

 私は条件付きで、音穏の背中を見送った。

「試合結果は…………有樹と栗夢の集計待ちか……」

 壁際から立ち上がった瀬名里が発言しながら、私に近付いて来た。

 美優と陽葵は、座ったままで小声で会話をしているように見える。

「うん。四十六球が底を目指して潜行したから、十六球防がれたら私達の負けだね」

 球体は底に到達すると、一時間ほど灰色に淡く発光する機能があった。

 百個の球体が入る木箱を二つ用意したのは、前半と後半で同じ球体を利用しない為。

 余裕のある数で球体の不足を防ぐ為。

 以上の二点が理由だ。

 有樹と栗夢は、集計を兼ねての球体拾いをしている。

 溺れている者が居ないか? などの確認も含まれている為、審判を務める者にとって最重要と言える時間だ。

「休憩したらニシブッポウソウをするんだろう?」

「二十分くらいだけどね。午後の十一時になったし、日付が変わる前に、着替えておきたいから」

 瀬名里の質問に、私は時間を考慮に入れて返事をした。

 スターフラワーの居住区画環境は、星の意識体により管理されている。

 私には秘匿念話でスターフラワーと宇宙全域の情報が伝わって来ており、その膨大な情報を、私は脳内で整理していた。

 星の意識体とのハーフだからこそ出来る行為であり、瀬名里達がすると脳内が耐えきれずに脳死を迎える。

 ヒギス星系へ来る前に、秘匿念話を自分だけに伝わるようにお願いしたのは、正解だったようだ。

「分かった。音穏が来たら、私達が飲み物を配るよ。穂華は、まだ撫でていない仲間を撫でて(ねぎら)って欲しい」

 瀬名里の言葉に反応したのは、私の傍に居た花菜と、水面に浮かんで来たサポーター達だった。

 花菜は私の右腕に抱き付き、パルムとアルナは水面から飛び立ち、琥珀と手鞠は水中を蹴って私の後ろ側へと跳ねて来る。

 パルムとアルナが私の正面に着地して、琥珀と手鞠が私の背中側に密着すると、美優と陽葵の前に移動した瀬名里と目が合う。

 目からは信頼と愛情が伝わって来て、私の脳裏には百合という言葉が浮かんで来た。

「私から撫でてくれるかしら? 八伸様と個人的な会話もあるから」

 赤紫色のフレアビキニに身を包んだ花菜は、私の右腕を離すと正面に移動してくる。

 パルムとアルナは私から少し離れて、花菜に譲る気遣いを見せていた。

「良いよ。サブマリンお疲れ様、ニシブッポウソウは参加出来そう?」

 私は返答が来る前に、花菜の黒髪を撫で始める。

 ロングヘアーの濡れた髪が、私の左手に合わせて動いて、気持ち良さそうに目を細める茶色の瞳が、私の目に正直な感想を伝えて来ていた。

「えぇ、問題無いわ。この癒やしで気力も全快よ」

 花菜の特徴は、優雅さを感じる無駄の無い動きに、慌てない冷静な精神だ。

 私の次に霊体への適応力、対処力が高いのも、彼女の性格が要因に見える。

「ありがとう穂華。私は男性側の入り口に近い方で八伸様と話しているから。飲み物が来たら呼んで頂戴」

「分かった。気兼ねなく話して来て」

 花菜の思いを聞いた私は、撫でる事を()めて、柔らかな笑みを湛えた。

 私からの信頼を感じた花菜は、嬉しそうに歩き出す。

「次は私達…………で良い? 琥珀、手鞠」

「姉のイルムは(いきお)いがあるから。浮上してくる前に撫でて貰いたい」

 花菜が私達から離れると、パルムが遠慮がちに二人に確認を求めて、アルナは明るい声で理由を伝えて来た。

 それを聞いた琥珀は、手鞠の表情を確認する。

 手鞠は笑顔で琥珀に(うなづ)いて、賛成の意思を示していた。

「姉のイルムを落ち着かせる為ですよね?」

「そう……活発に動く姉を落ち着かせるのが、私達の役目。私とアルナも性格が違うけど…………冷静な部分は一緒。だから、猪突猛進(ちょとつもうしん)なイルムを支える事が出来る」

 琥珀の確認に、大人しいパルムは慈愛を感じる優しさを見せていた。

 パルムの(かたわ)らに並ぶアルナも、愛情溢れる笑みで、私達に絆の深さを伝えている。

「でしたら、私達は大賛成です。(いつく)しみは、家族にとって必須の感情ですから」

 イルム家の意思を確認した琥珀は、明るく優しい声で順番を譲った。

 手鞠は、星野家での数日間に得た価値観を、大鳥達に伝える。

「自立を重視した深い愛情が…………種族や血に影響されない家族を作るんです」

 お互いの長所と短所を知った上で、自己よりも家族(他者)を第一に考えた行動を取る。

 種族や血の繋がりだけでは、家族は維持出来ない。

 心の繋がりや自立(自主性)を重視した関係が、家族の繁栄には必要不可欠だ。

 子供の進路を親が勝手に決める事、自己満足の身勝手な優しさは、支配欲となる。

 家族は、血の繋がりがあったとしても、一番近しい他者であり、自分の分身では無いのだ。

 決して、名誉の維持や後悔の修正の為に、家族の生き方を犠牲にしてはならない。

「おいで、パルム、アルナ」

 二人の思いを理解した私は、二体の大鳥を呼んだ。

 琥珀と手鞠は、私の背後から数歩離れる気遣いを見せる。

 白色の胴体に灰色の翼を持つ二体は、金色の尻尾を揺らしながら私に近付いて、銀色の頭部と首を後ろに傾けた。

 私の顔を見上げる状態となった所で、私の手が銀色の毛を捉える。

 髪を()くように撫で始めると、赤色の瞳が(まぶた)で半分隠れて、心地良さに(とろ)けるパルムとアルナが現れた。

 一分ほど撫で続けていると、プールの中央に三つの水飛沫(みずしぶき)が立つ。

「パルム。全力で防ぐですよ」

「あいっ。順番は…………守るべき事です」

 浮上するイルム達を目で確認する前に、パルムとアルナが私の前を離れた。

 私とイルムの間に移動して、灰色の翼を左右に広げながら、低く身構える。

「何かあるの?」

「潜行した後の姉は、一分間だけ本能の方が強くなります」

「純粋な欲の無い本能だから…………私達で、落ち着かせる」

 私の短い疑問に、アルナが先に答え、パルムは補足を伝えてきた。

 浮上したイルムは、目が(うつ)ろになり、上気した顔で何かを探している。

 パルフェとフィミは、イルムの違和感に気が付いて、動きを抑えようと、イルムの足を自分達の足で掴んでいた。

 イルムの視覚が私を認知すると、今まで見せていなかった瞬発力が水面を激しく弾き飛ばす。

 時速四百二十キロの突入体が、パルムとアルナに当たり、鈍い音が大音量で衝突の事実を伝播(でんぱ)した。

「これが、池や湖の狩りでは日常…………おかげで耐久力はとても高くなった」

 それを冷静に受け止めたパルムは、穏やかな小声でイルム家の日常を伝えてきた。

 アルナは、イルムの後ろを見て声を掛ける。

「大丈夫? パルフェ、フィミ。イルムの本気に触れた感想は?」

 パルフェとフィミは、イルムの足に牽引される状態で、巻き込まれていた。

 止める側、突入する側、双方が重傷になっても不思議では無い状況で、大鳥達は会話を続けている。

「す、素晴らしい瞬発力です。私達の子孫でも瞬発力を強化したいですね」

「イルム家の遺伝子も必要かも…………星野家との混ぜ合わせ……」

 パルフェの冷静な返答と、フィミの意味深な発言が返り、衝撃音の割には大鳥達の肉体に異常が無い事実が周囲に示されていた。

 イルムは動きを止めており、その息遣いは徐々に(おさ)まり始めている。

「琥珀、手鞠、サブマリンご苦労様」

 事態の落ち着きを確認した私は、琥珀と手鞠に近付いて、自然な動きで二人の頭上へ手を添えた。

 左手がセミショートの黒髪に触れ、右手がロングヘアーの黒髪を捉えると、二人の視線が私に期待する気持ちを教えてくる。

 私は二人に微笑むと、二人の髪を撫で始めた。

 白色のホルタービキニを着た琥珀は、私の左手の動きに合わせて(まぶた)を開閉させていて、金色の瞳が見え隠れしている。

 黒色のタンキニを身に纏った手鞠は、紫色の瞳で私の顔を見て、嬉しい気持ちを(あふ)れさせていた。

 瞼は少し閉じ薄目の状態で、右手の動きを堪能(たんのう)している。

「疲れが嘘のように消えていきます。ありがとう穂華」

「あ、ありがとう……ございます」

 琥珀は穏やかに、手鞠は少し照れ気味に、気持ちを話してきた。

 それを受け取った私は、二人の頭上から両手を離して返答する。

「素直な感謝は、お互いに嬉しい気持ちになれるよね。こちらこそありがとう」

 私の発言に、琥珀と手鞠は満面の笑みを見せてくれた。

 イルムは平常心に戻ったようで、パルフェやフィミに頭を下げて謝っている。

 パルムとアルナは、その光景を見て優しく微笑んでいた。

 手の掛かる姉と思いつつも、姉の行動理念は信頼している。

 そんな心の内が(うかが)えた。

「主。飲み物の準備が出来ました。全員水から上がったようですし、有樹達が球体拾いを終えたら、早速(さっそく)飲みましょう」

「うん。でもその前に……イルム、パルフェ、フィミそこで並んで」

 私の発言に気遣いを見せたパルムとアルナは、瀬名里達の方へ移動を始めた。

 その空いた場所に移動すると、左からパルフェ、イルム、フィミと、並ぶ大鳥達と向かい合う状態になる。

 イルムの種族は体高が低い為、親に左右を挟まれた子供のような見た目となっていた。

 私はイルムに向かい合ったまま密着すると、パルフェとフィミを先に撫で始める。

 灰色の毛に覆われた頭部から胴体を()くように、私の手が移動すると、灰色の瞳を持つ六つの目が、細目に変化して安らいだ表情になった。

「親と触れ合ってるような心地良さ。これは一生付いて行きたいです」

「心奪われる優しさ…………これを共有出来るのは、とても幸福な事……」

 二体の(つぶや)きを聞きながら、銀色の翼へと手を移動する。

 細い羽毛が幾重にも重なる状態は、羽毛で飛ぶのでは無く、その下にある胸ビレのような筋肉質の翼で飛ぶという事実を、私に伝えていた。

 イルムは私のお腹に頭部を付けて、静かに目を閉じている。

「はい、終わり。パルフェ、フィミ。ニシブッポウソウでも対戦相手をよろしくね」

「ありがとう。期待に応えてみせる」

「水中よりも激しい……(まじ)わりを望む」

 私に返答したパルフェと、相変わらず意味深な発言をするフィミが、私の傍を離れる。

「音穏。イルムの隣りに並んで」

 入れ替わりで近寄って来た音穏と、お腹から離れたイルムに、私は手を伸ばして撫で始めた。

 右手は銀色の毛に包まれた頭部を添うように動き、左手はセミショートの黒髪を捉えて優しく動いている。

「主。とても気分が良くなります……」

「ほぇぇぇ。穂華のゴットハンドは最高ですぅぅぅ」

 音穏は青色の瞳を瞼で閉じて、イルムは脱力した声を出す。

 個性が違うと、リラックスの仕方も違う事が多い。

 それを知れる事を、私は誇らしく思っている。

 だって、無防備な姿を見せてくれるのは、私が信頼されているという証なのだから。

 脳天気や精神的な病気など、例外もあるが、星野家、イルム家、パルフェ家は、未知の相手に無警戒な対応を取る事は絶対に無い。

 イルムは今でこそ脳天気に見えるが、スフカーナでの初対面を思い出すと、初めの対応は警戒だった事が理解出来る。

 パルムが言っていた通り、イルムは他者を見る目が良いようだ。

「有樹と栗夢が戻って来たぞ穂華。休憩にしよう」

「そうだね。瀬名里、ちょっと待ってて」

 撫でる動作を終えると、うっとり(とろ)けた状態から音穏はすぐに元に戻るが、イルムは放心したままだった。

 私はイルムの頭部に口を近付けて、小声で情報を教える。

「ピプ草とフイジト草の大盛り」

 それを聞いたイルムは、飛び起きるように翼を動かした。

「レッツ! 愛しの草達です」

 聞き覚えのある言葉と共に、ホナエルと音穏が運び、瀬名里や陽葵、美優が並べた皿にイルムが突撃している。

 それに気が付いたパルムとアルナが、イルムの(いきお)いを肉体で受け止めるという、先ほどと似た光景が生まれていた。

「あれが、イルム家の日常なのですね。主」

「そうだね。大らかさが有れば、他者の個性を認める事が出来る。支配や独占は禁忌だけど……他者への優しさがあれば、イルム家のような日常だって歩める」

 肉体を使った衝突があっても、そこに負の感情が生まれなければ、星側の思考を維持出来る。

 見返りや勝負にこだわり、恨みや怒り、後悔を抱いたからこそ、過去の人間は混沌に負けていた。

「穂華、音穏、花菜、早く来るです! みんな集合しているですよぉぉぉ」

 呼び声に焦りを感じるイルムは、大皿の前で、食欲と戦っていた。

 球体を木箱に戻し終えた有樹や栗夢も、私と音穏、花菜の到着を待っている。

「花菜、私達と一緒に行こう」

「えぇ、そうね。八伸様とも会話を終えたし、今そっちに行くわ」

 ロングヘアーの黒髪に、白色の長袖サックドレスを着た八伸様は、花菜の幽体へと戻って行く途中だった。

 花菜の肉体に戻る寸前で、八伸(はっしん)様は私の方を見て、優しい笑顔を見せる。

 私はその笑顔に、微笑みとお辞儀を返していた。

 

 航宙歴五百十七年四月十日 午後十一時十九分

「ほんとに大丈夫?」

「はい。花菜と手分けして木箱を運びます」

 プールサイドのシャワーが十二台並ぶ壁側は、黒色の壁に灰色の雲が薄く描かれて、雲の僅かな隙間から、星明かりが線となって、地上に伸びる光景となっていた。

 その中央部分には、シャワーが設置されていない部分が横幅五メートルほどある。

 その五メートルの壁が両開きでプール側に開くと、木箱が置かれていた通路が再出現した。

 先ほど木箱を持つ私を心配してくれた栗夢は、有樹と一緒に私の前を歩き、開いた扉に入ろうとしている。

 花菜は木箱を持ちながら、私の後を付いて来ていた。

「強かったわね。イルム家とパルフェ家は」

「うん。魔力無しでは互角だから、作戦が駄目だったね。次は翼や嘴の体格差も考えて作戦を練らないと」

 花菜の掛け声に、私は肯定しながら考える。

 試合結果は、大鳥達が三十一点、星野家が二十九点だった。

 サポーターのパルムが二球を、アルナが三球を受け止めて、ディフェンダーのイルムが三球を、パルフェが七球を、フィミが二球を止めている。

 大鳥達は、翼を水平に広げる事で、球体の受け止めを簡単にしてした。

 投球数の少なさも駄目だった理由の一つだろう、大鳥達が六十六球に対して、星野家は四十六球と、投球数では二十球の差が開いている。

 次は作戦を改良して試合に臨みたい。

「悔しさや苛立ちは全く無い。次の試合が楽しみになる感覚は有意義で幸せね。負の感情を抱いていた人達は、人生を損していたと言えるわ」

「うん。でも、軽い憐れみ(軽い同情)に留めて置いてね。憐れみ(かわいそうに思う心)は、強すぎると見下しやお節介に繋がるから」

 花菜の言葉に私は肯定をしながら、注意も添えた。

 木箱を持っている為、お互いに顔を見る余裕は無いが、息遣いと発言から、感情を(さっ)する事が出来る。

「…………気を付けるわ。注意ありがとう。穂華」

「支え合うのが家族だから。私は花菜が星側の仲間であり続ける限り助けるよ。だから自分に厳しくしながら、家族を頼ってね」

「美優も家族だよ! だから美優も頼ってね。花菜お姉ちゃん」

 穏やかな優しさだった場の空気に、美優の元気が加わった。

「お姉ちゃんと呼ばれるのは嬉しいわね。琥珀と手鞠にも出来れば呼んで欲しいかな」

 花菜の後ろには、大鳥達や瀬名里達が付いて来ていた。

 美優の後ろに居た琥珀と手鞠は、花菜の声に反応して明るく返答する。

「分かりました。花菜お姉ちゃんって、呼びます」

「わ、私もです花菜お姉ちゃん」

「穂華、木箱を元の位置に戻しましょう。私、二人に早く抱き付きたくなっちゃった」

 二人の明るい返答に、花菜は喜びで満ち溢れていた。

 私と花菜は、五十メートルほど通路を進んでいる。

 木箱は通路の中間にあった為、後四百五十メートル前後は運ぶ計算だ。

「なら少し危険だけど、小走りで行こうか。栗夢と有樹は先行してくれてるし、置き場所までは障害物が無いから」

 先行した二人は、すでに七百メートルほど先を走って移動していた。

 学園で教師を担当している二人は、生徒が使用する場所を安全確認する事が、日課となっている。

「良いわね。百二十キロの重量を持ちながらの小走りは、良い運動になるわ」

 星の魔力を借りる星野家は、平均で四百キロ前後の重量までなら、魔力未使用で持つ事が可能だ。

 星野家の女性は、外見上は筋肉の無い少し痩せ気味の肉体だが、星の魔力を格納する影響で、細胞一つ一つの能力が向上している。

 その為、見た目は(やわ)な女性だが、百二十キロの木箱を持ち上げられていた。

「それじゃあ、時速八キロくらいでね。私や壁に衝突しないように」

「えぇ、行きましょう」

 花菜は五百キロ前後、私は七百キロ前後の重量が、魔力未使用で持てる。

 私は花菜の返答を聞くと、前に抱えるように両手で持っていた木箱を、肩の高さまで持ち上げた。

 正方形の木箱を四十五度回転させて、左肩に載せると、左腕と頭部を使って固定する。

 この持ち方は、前で抱えるよりも、重心の安定性が悪く、左肩への痛みを伴う負担が増える弱点があった。

 その影響で、美優や琥珀、手鞠には不可能な力任せの運搬方法になる。

「花菜。しっかり付いて来てる?」

「三メートルの間隔を空けて随伴してるわよ」

 肩載せの利点は、横歩きから、人間本来の歩きや走りに戻れる事だ。

 前で抱えた場合は、木箱の大きさが原因となり、横歩きが最適な移動方法となる。

 二分ほど小走りで駆けると、木箱の置き場所を示す目印が見えた。

「後、百メートルくらい。花菜、もう一踏ん張りだよ!」

「よし! 木箱を置いたら琥珀と手鞠に抱き付くわ」

 通路はスターフラワーの主構造である複合装甲で、灰色の通路となっている。

 風呂やプールも、塗装が無いと灰色なのだが、ラプラタが写実絵画を描いた為、反転空間という芸術が出来上がっていた。

「通路を抜けると…………そこは楽園でしたっていう展開を所望(しょもう)……」

「繁殖後の移住地候補…………視察……視察」

 後方からは、星野家の後ろを付いて来ているであろう大鳥達の声が聞こえた。

 パルムが楽園を望み、フィミは種族の未来を考えている事が理解出来る。

「他者を第一に考えていると、性欲でさえ星側の心となる。欲っていうのは不思議ね」

「他者が嫌がっていたら身を引く、自分がされて嫌な事を相手にしない。他者を第一に考えていると、これが自然に出来るから。性欲を持っていても、混沌に該当しないの」

 花菜の感想に、私は心の本質を伝えた。

 支配欲や独占欲は、自分に甘く自己中心的な思考を持つ者に生まれる。

 性欲自体は純粋な本能であり、()み嫌われる欲では無いのだ。

 後方を見る余裕が無い私は、花菜の後ろに瀬名里の気配を感じて声を掛ける。

「瀬名里、そろそろ止まるから、後ろに伝えて」

「了解。一旦、先頭が止まるから、減速と停止の準備!」

 瀬名里の大きな声が響くと、後方の足音が少し静かになった。

 音の間隔が空き、足の動きが徐々に遅くなっている事が推測出来る。

 私はゆっくりと減速すると、赤い線が床に塗布された場所で停止した。

 花菜も私の後ろで停止して、星野家や大鳥達も順次移動を止めている。

「この辺かな………………花菜は隣りに置いて」

 赤い線は、通路の壁際に正方形の形状を二つ床に描いていて、私は奥の方に木箱を置いた。

 花菜はゆっくりと木箱を置くと、姿勢を伸ばして腕を回す。

「肩が痛くなると、重労働や年配の方の気持ちが分かるわね」

「うん。筋肉痛と日々闘っている仲間には感謝しないとね」

 スターフラワーにも、農業や酪農という重労働がある。

 肥料や飼料は、二十キロ前後を袋に入れて何度も運搬する必要があり、機械が無い為、全てが人力となっていた。

 ホナエルが時々手伝ってくれるらしいが、頼りすぎると心の中に混沌側の思考が生まれる。

「さてと、肩の痛みも消えた事だし、琥珀と手鞠に抱き付くわよ」

「お手柔らかにね。花菜」

 二人の元に向かう花菜の背中に、私は声を掛けて見送る。

 瀬名里と音穏は、花菜の嬉しそうな表情を見て、優しい笑みを浮かべていた。



 次回投稿は、11月14日を予定しています。

 理由は、本文の他に二万字ほどの設定文を保存しており、それらを整理したいのと、

 次回投稿の長さを十五から十八ページほどにしたい為です。

 現在十ページ前後で投稿している為、このままだと星域環境編より文字数の少ない

 構成となってしまいます。その為、次回投稿からは文字数を増やしていきます。

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