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魔化折衷  作者: 星心星道
17/32

天地反転ぶっ!!(承 後半)

 9月10日の予定でしたが、早めの投稿となりました。

休憩~サブマリン後半戦です。

 対戦結果は次回投稿となります。

 次回投稿日は、9月24日の予定です。


※ 8月27日 最初の方、穂華の発言を訂正(サポーター → アタッカー)

※ 9月2日  最後の方、地の文を訂正(ルール説明の部分)

        穂華の発言を訂正(打点 → 投球)

 航宙歴五百十七年四月十日 午後十時〇七分

「ありがとう。健康に良さそうな飲み物ね」

「頂くわ。ありがとう」

 栗夢と有樹が五百ミリリットルの塩分入り野菜ジュースを受け取っていた。

 琥珀と手鞠が、ホナエルから受け取った飲み物を星野家に配っている。

「フィミ。お疲れ様。特製草ドリンクを持って来たよ」

 私は、ホナエルから受け取った糖分入りの草ドリンクを、パルフェ家とイルム家に配っていた。

 (くちばし)だけで飲めるように、深皿に二リットルの草ドリンクが、なみなみと(そそ)がれている。

「ありがとう…………後半戦は、穂華も参加する? と……フィミは抱き付いて聞いてみる」

 密着したフィミは、私に六つの灰色の瞳を向けていた。

 視線からは、純真(じゅんしん)さのある愛情を感じる。

「アタッカーで参加するよ。フィミはパルフェやイルムと一緒にディフェンダーだよね。お互いに全力を尽くそう」

「うん。それが終わったら……遺伝子提供。毛でも良いけど……できれば血液を所望(しょもう)

 雌雄同体(しゆうどうたい)である大鳥達は、特殊な生殖器官を持つ。

 取り込んだ細胞や体液から、遺伝子を取り出し、その一割ほどを子孫の遺伝子に組み込む機能だ。

「ニシブッポウソウと片付けが終わったらね。イルムとパルフェ、パルムとアルナもそれで良い?」

 私は、フィミの後ろで深皿に嘴を付ける大鳥達に確認を取る。

「イルムは賛成です。今は、恋より食欲です!」

 金色の嘴が、すぐに深皿から離れて、返答後に素早く深皿へ戻った。

 他の大鳥達は、嘴を深皿から離す事無く、翼を片方だけ上げて、賛成の意思を示してくる。

 水と草を同時に摂取(せっしゅ)出来る草ドリンクは、大鳥達に好評なようだ。

 フィミは私から離れると、自分の深皿に近付いて、声を掛けてくる。

「提供を楽しみにしてる…………ところで、この飲み物は私達でも作れる? とフィミは疑問を伝えてみる……」

「可能だよ。明日の朝に、公園の大木で作り方を教えるね」

「はい…………とっても、楽しみです……」

 私の回答に、フィミの満足げな声と笑顔が返ってきた。

 水面から水を吸い上げるように、草ドリンクを飲む大鳥達は、二リットルの量を飲み干そうとしている。

「フィミ。早く飲んだ方が良いよ。パルフェやイルム達が飲み終わろうとしてるから」

 私の声に仲間を見渡したフィミは、銀色の嘴を慌てて自分の深皿へ付けた。

 私はフィミの分が無くならないように、予備の草ドリンクを用意する。

 ホナエルが配慮して用意してくれた追加分だ。

 私は空になった深皿を見つめる大鳥達に、五リットルの草ドリンクが入った容器を持って声を掛ける。

「お代わり欲しかったら言ってね。皿に注ぐから」

「お代わり、量は半分でお願い」

「私も半分! これは素晴らしく美味しい。元気が戻ります」

 私の発言に、パルムの大人しい声とアルナの元気な声が返ってきた。

 続いて、イルムの声がプールに響き渡る。

「お代わりです! たっぷりと頼むです!」

「イルム。静かにして、休憩にならないよ。あっ、私はもう良いです。星野家の皆さんと話してきます」

 パルフェは、二杯目を断ると、瀬名里の方へと歩いて行った。

 灰色の胴体と白色の尻尾を、揺らしながら歩く姿は、とても可愛い。

 イルムの深皿に二リットルの草ドリンクを注ぐと、明るいお礼が私に届く。

「ありがとうです。休憩になるよう静かに飲むです」

 深皿は、二リットルの量で満杯になる。

 その満杯の深皿に、イルムは金色の嘴を突入させて、黙々と飲み続けていた。

 私は残った一リットルの草ドリンクを、フィミの傍へと持って行く。

「フィミ。継ぎ足しても良い? これで最後だから」

 私の言葉に、飲むことを中断したフィミは、感謝を伝えてくる。

「ありがとう…………私にたっぷり注いで欲しいと…………高揚して応えてみる」

「じゃあ、深皿に注ぐね。遺伝子提供は、まだ待ってね。血液にする予定だから」

 フィミは純粋に子孫繁栄を願っている。

 それが支配や独占に繋がらないのは、全ての種族の子孫繁栄を願う大鳥達のおおらかさがあるからだ。

 西暦やスターマインドでの人間のように、自分の子供だけ、自国の国民だけ、という差別を持たず。

 私だけが、自社の利益だけが、という独占の感情を抱かない。

 その自己を律する厳しさが、大鳥達を星側の存在にさせている。

「ホナエル達、仲間のカレヌア星雲が亡くなっても、前を向いて行動してるのね」

「自身の役目を理解して、それを誇りに思っているからだと思うよ。ホナエル達が負の感情を持ったら、混沌に狙われて、星の物質循環が止まるし、宇宙や星にとっては、縁の下の力持ちと言える存在だね」

 近付いて来た花菜の言葉に、私は意見を返した。

 男性側の入り口に視線を向けた花菜は、私に疑問を伝えてくる。

「こちらには、顔を見せないのかしら?」

「スターフラワーの各所に、整備用の物資を運搬しているらしいよ。アカもホナエル達の仕事を取らないように気を付けているみたい」

 私達の邪魔にならないように、ホナエル達は秘匿念話を使用していた。

 私だけが念話を受信出来て、瀬名里達が受信出来ていないのは、秘匿念話を使う、ホナエル達の気遣いになる。

 ホナエル達は、サブマリンの邪魔をしないように、配慮してくれたようだ。

 アカも、物質を各所に直接創造せずに、創造した物質をホナエル達に運搬させる事で、ホナエル達の存在意義を守っている。

 自己満足では行動しない、星の意識体達の優しさが、スターフラワーには満ちていた。

「前半戦は量より質でしたね。主。時速百三十キロで五十メートルの底に到達する球体は初遭遇でした」

「他種族とのスポーツは楽しいでしょ? 音穏。星野女子学園の頃のルールとも少し違うし、相手に合わせた平等な立ち位置でのスポーツは、友好関係の(いしずえ)となるんだよ」

 居住区画の生徒や住民は、息継ぎ無しで十二分が平均値だ。

 その為、女子学園の授業では、一チーム十人から十一人で編成して、十分の攻撃可能時間を五分に二等分して試合を行っていた。

 つまり、五分の攻撃可能時間が二回、五分の防衛時間が二回という状態にする事で、窒息する生徒が現れないようにしている。

 チームが十人の場合は、五人が参加して、残りの五人は休める為、休憩時間は設けられない。

 今、休憩があるのは、潜行可能時間の長さと、参加者数の関係で、休憩を作るのが適切だと思ったからだ。

 男子学園では生徒数が五人だった影響で、二人対三人の対戦となり、サポーター無しの休憩ありというルールになって、プールの半分を使用して試合をしていたらしい。

「星側の仲間が増えて欲しいですね。そしたら、もっと楽しい交流が出来そうです」

 音穏は素直な感想を私に教えてくれた。

「そうだね。支配と独占を持つ相手とは、仲良く出来ないけど…………星に認められる存在とは、親密に出来る。私達の立場を忘れずに、もっと仲間を増やしていこう」

 混沌側の思考と価値観を持つ相手に、優しくすると、騙されたり、都合良く利用される危険が高い。

 自分に甘い存在は、言い訳が達者で、口車も上手な為、不用意に交流すると、私達が混沌に誘われる危険もある。

 知的生命体との距離感があるのは、自分に甘い者を仲間にしない為の自衛手段だ。

「音穏、花菜。次はアタッカーでお願いしても良い? 琥珀と手鞠がサポーターを希望してるから」

「勿論です主。瀬名里や陽葵、美優が頑張ってくれましたから。次はこちらが投球で魅せる番です」

「良いわよ。六十六球の内、十七球しか止められなかったし、こちらの球速をイルム達に見せる良い機会だもの。穂華はアタッカーなのよね?」

「うん。私が基点になるから。二人は攻撃を中心にお願い」

 前半戦では、四十九球がサポーターの深度を潜行通過している。

 その内、十八球をディフェンダーが防いだが、三十一球が五十メートルの底と接触していた。

 星野家が後半戦で勝つ為には、三十一球より多い球体をプールの底へ到達させる必要がある。

「美優達は応援してるね。学園の時とは桁違いの球速だったから、疲れちゃった」

 塩分入りの野菜ジュースを飲み終えた美優が、私達の近くに来た。

 瀬名里と陽葵も歩いて近付いて来ており、顔には疲労が(うかが)える。

 水深五十メートルでの十分間以上の潜行は、身体能力が向上した星野家にとっても、厳しい条件だ。

 だが、その厳しさに挑戦してこそ、生命は正しい進化が出来る。

 機械や他者に頼ると、肉体は退化し、心は貧しくなってしまう。

 自己を鍛えてこそ、生命は強くなって行けるのだ。

「あの球速に対応出来ただけでも素晴らしい事だよ。窒息もせず、魔力も未使用、この条件下で活躍出来た美優や陽葵、瀬名里を私は誇りに思う」

 水中で動きすぎると、酸素の消費が増加して、潜行可能時間が短くなる。

 そして不利な時に頼りたくなるのが、借りている力だ。

 その誘惑に負けずに、身体能力の限界を理解して、最善の防衛が出来た三人は、自己に厳しくするという、魅力を守れている。

「ほんと? それじゃあ、美優を撫でて!」

 美優の頭を私は素直に撫でる。

 セミロングの濡れた黒髪が、私の手の平を滑り、緑色の瞳と可愛い笑顔が、美優の嬉しさを私達に伝えていた。

「私達も撫ででくれ。そしたら元気が沸くからさ」

「撫でて貰えたら、精一杯応援します」

 二人からの声に、私は美優の後ろへ視線を移す。

「瀬名里、陽葵、お疲れ様。二人共こっちに来て」

 私の発言を聞いた美優は、自分から私の前を離れた。

 優しい笑みを湛えて離れる美優は、他者への優しさを示している。

 花菜と音穏は、私の左側二メートルほどの位置に移動して、私達を見ていた。

「住宅街の住民と交流させるには、手加減を覚えて貰わないと駄目だな。私達と同等の身体能力だよ」

「時速百三十キロで底に来る球体は、初めてです。楽しくて……学園の時よりも動いてしまいました」

 私に近付きながら、瀬名里は意見を、陽葵は感想を伝えてきた。

 私は二人の頭に手を移動しながら、声を掛ける。

「相手に合わせて力を調節するのは、混沌への対抗策になるしね。瀬名里の考えは良いと思うよ。陽葵は楽しくても、自身の身体能力を考慮して動けてるから、その思いは忘れないでね。最善の動きは素晴らしい事だけど、限界の動きは他者への迷惑を考えない身勝手に繋がるから」

 限界(無理)は、自身の能力を越えて行動をする事だ。

 その多くが、失敗や行動不能に(おちい)り、他者に迷惑を掛ける。

 最善とは、自身の実力を理解して、相手の実力に合わせた行動をする事だ。

 自己を見つめて、己の弱さと強さを理解した上で、加減のある行動を見せる。

 最善の動きと、自分への厳しさが、今後の私達の運命を左右する条件となるだろう。

 ショートヘアーの金髪を、右手で優しく触ると、黒い瞳を持った目が細くなり、瀬名里の思いが伝わってくる。

「心地良いな。優しい撫で方に母性を感じるよ」

「ほんとです…………疲れと息苦しさが、抜けていきます……」

 陽葵は、リラックスした赤い瞳を私に向けて、ロングヘアーの黒髪を撫でる私の左手に身を任せていた。

 それを見ていた花菜は、私に提案をしてくる。

「穂華の手はゴットハンドね。私も撫でて欲しいけど…………休憩時間が終わるから、後半戦の後でお願いするわ。イルム家やパルフェ家もそれで良いかしら?」

「それで良い。前半戦で感覚は掴んだから、今度はもっと動ける!」

 花菜の発言に、アルナの元気な声が答えた。

 パルムは琥珀と手鞠の傍に近付いて、二人に握手を求める。

「琥珀、手鞠、立場は違いますが、サポーターを一緒に頑張りましょう」

「はい。初めてですが、勝って見せます」

「よ、よろしくお願いします」

 琥珀の自信と、手鞠の挨拶が返ると、三者の間に優しい笑顔が芽生えた。

 琥珀の右手がパルムの右翼を掴み、手鞠の左手はパルムの左翼と繋がっている。

 お互いを対等(平等)に見ようとする精神が、温和な雰囲気を周囲に広げていた。

 

 航宙歴五百十七年四月十日 午後十時三十三分 

 木箱の前に立った私は、プールの水面に浮かぶ、音穏と花菜を見ていた。

 前半戦で使用された球体は、休憩時間中に全て木箱へ戻されている。

 野菜ドリンクを一気飲みした有樹と栗夢が、水面に浮かんできた球体を、拾い集めてくれていた。

 審判役は運動量が少ない為、球体の片付けを任される。

 年齢や立場に関係無く、全員が肉体を動かす。

 それが、星側に協力する私達の総意だ。

 美優、陽葵、瀬名里の三人は、木箱から四メートルほど女性側の入り口にずれた壁際で、後半戦の応援をする為に、座っている。

「後半戦、出るって意気込んで居たのに、参戦出来なくてごめんね。穂華お姉ちゃん」

 美優の声に視線を移すと、座ったまま申し訳なさそうに私を見る、美優の瞳があった。

 美優と並んで座る瀬名里や陽葵も、私に視線を向けている。

「私もだ。疲れが取れて来たら、自分の過信を思い出したよ。すまない」

「アタッカーの為の余力を残せずに、申し訳ないです」

 三人共、前半戦開始前には、アタッカーも担当すると発言していた。

 それが出来なかった事を、疲れが取れてきた今になって、思い出したのだろう。

「三人共、素直だから大丈夫だよ。予測外は何時でも起こりえる事だし、大切なのは危険と同じで、経験した時にどう行動するか。支配や独占の欲を持たずに、最善の行動が出来ている三人が、私は好きだよ」

 浄化戦での予測外は、敗北の危険に直結しやすいが、日常での予測外には、数分から数時間の判断時間がある事が多い。

 ただし、事故や犯罪など、危険回避の判断時間が数秒間しか無い場合もある為、日常での心構えは、大切な事だと言える。

「琥珀と手鞠は、ちゃんとサポーターが出来るでしょうか」

 照れ隠しに、初参加の二人を心配する陽葵は、顔を赤くしながらプールの水面を見ていた。

「そ、そうだな。ルールは病院で聞いていたようだし、前半戦も観戦していたから、大丈夫だと思うよ」

「うん。琥珀と手鞠だったら、運動神経良いから大丈夫だよ!」

 瀬名里と美優は、陽葵の発言に同調して、恥ずかしさを(まぎ)らわせていた。

 疲れと大鳥達の存在が、瀬名里達の余裕を無くしているのだろう。

「後半戦。まもなく開始します!」

 プールに栗夢の声が広がる。

 イルムとパルフェ、フィミの三体はすでにプールの底で待機をしていた。

 パルムやアルナは水深二十五メートルの位置で、同じ水深に居る琥珀と手鞠の動きに警戒をしている。

 花菜と音穏は、競泳のように立ち泳ぎで水面に浮かびながら、サポーターとディフェンダーの位置を確認していた。

 私は、木箱の球体をすぐに掴めるように身構える。

「後半戦、開始!」

 栗夢の声と共に、栗夢と有樹の手からレーザーポインターの光が伸びた。

 プールの両サイドから一つずつ、プールの底へ赤い線が到達する。

「花菜、音穏、連続で行くけど良い?」

「はい。どんどん投げて下さい。主」

「こちらは移動しながら取るから、正確なパスをよろしくね。穂華」

 私の確認に、音穏の肯定と花菜の意見が返ってきた。

 私は両手に一つずつ球体を掴むと、左腕を振りかぶる。

 音穏は私の振りかぶりに合わせて、水中を蹴った。

 立ち泳ぎの状態から、軽々と跳ねた音穏は、水面から一メートルの高さに肉体を一瞬だけ浮遊させる。

 その一瞬の浮遊に、私の左手から放った球体が重なった。

 時速百五十キロ程度に加減された球体を、音穏が右手で受け取る。

 落下を始めた音穏の肉体は、右腕を回していた。

 ヘリのテールローターのように、残像を生む音穏の右腕から、真下へ球体が放たれる。

 時速四百五十キロに加速した球体が、水面を貫くと、細く高い水柱が上がる。

 その水柱に包まれるように、音穏も水面へ着水した。

「少し速く投げてしまいました。次は調整します」

 冷静な分析をする音穏は、自身の着水時に跳ねた水を浴びながら、立ち泳ぎでの移動を始める。

 花菜は、音穏から十五メートルほど離れた位置にクロールで移動をしていた。

 クロールを中止して、立ち泳ぎに移行した花菜へ、私は右手に持った球体を投げる。

 時速百四十キロの球体を掴んだ花菜は、木箱に伸びた私の左腕を見ていた。

 その意図を理解した私は、左手に新たな球体を掴むと、素早く左手の球体を花菜へ向けて投擲する。

 それを受け取った花菜は、両手に一つずつ球体を持ったまま、水中を蹴った。

 水面から八十センチの高さに飛んだ花菜が、両腕を回して、球体を投げる。

 時速三百九十キロの球体が、水面に潜ると、それを追うように花菜の肉体が着水した。

「今くらいの速度ね。もう少し強くても良いかしら?」

 音穏と花菜は、前半戦で大鳥達が見せた球速に合わせて、投球速度を加減している。

 蹂躙(じゅうりん)が支配欲になる点は、日常でも適用されるからだ。

 日常での油断は、敗北では無く、失敗となる。

 だから、普段から私達は、相手を対等(平等)に見ながら、加減のある生活を送らなければならない。

 私は両手に球体を持つと、音穏と花菜に、一つずつ同時に投擲する。

 二人が離れた位置で同時に跳ねて、球体を掴む。

 音穏の右腕と花菜の左腕が回転して、球体が真下へ加速した。

 二人の手から解放された球体が、水の抵抗を押し退けながら、底を目指す。

 着水した二人は、それを確認してから泳ぎ始めた。

「両腕で同時に投げて、よく正確性を失わない無いな」

 私の投球を感心する瀬名里の声が届き、美優が同意する発言を繋げる。

「穂華お姉ちゃんは、私達の中で一番体幹が良いもん」

「益々(ますます)、好きになりそうです」

 陽葵は顔を赤面させて、正直な言葉を漏らしていた。

 壁に背を預けて観戦する三人は、私と花菜、音穏の三人を見ながら、前半の疲れを癒やしている。

 音穏は女性側の入り口に近い方で、花菜は男性側の入り口に近い方で、それぞれ動いており、二人の距離は十二メートルから十八メートルの間隔を保ち続けていた。

 その為、プール中央付近には、アタッカーだけで無く、サポーターやディフェンダーも居ない状態になっている。

「投球の分散作戦は、とりあえず成功かな? 花菜! 音穏! 第二段階行くよ!」

「良いわ!」

「了解です。主!」

 六球目と七球目を木箱から手に取った私は、泳ぎ始めた二人の未来位置を予測して球体を投げる。

 それに合わせて、花菜と音穏は水中を斜め下に蹴った。

 先ほどの真下に蹴る時とは異なり、肉体が斜め上へと押し出される力が生まれる。

 トビウオ(飛魚)のように、水面から肉体を浮かせた二人は、半円の頂点で私の投げた球体を掴み、真下へ投擲する。

 時速四百キロの球体が水面に着水すると、半円を描き終わった二人の肉体も、水面に着水した。

 八球目と九球目も、同じように二人の移動先に投げる。

 これを繰り返す事で、移動しながらの断続的な投擲が可能だ。

 木箱から投げる者と、泳ぎながら跳ねて球体を掴む者。

 両者のタイミングが合わないと愚策(ぐさく)に終わるが、合致(がっち)した時には対戦相手に効果的な作戦となる。

「これは、大鳥達には厳しいな。移動が制限される水中で、如何(いか)に酸素を消費せずに球体の動きを止めるか…………。止める球体と止めない球体の選別が必要だ」

「はい…………アタッカーの動きに合わせて動くと、窒息の危険がありますからね。上の動きに釣られずに、自身の防衛範囲を決めて動かないと……」

「パルムとアルナは、冷静みたいだよ。ディフェンダーの居ない場所で、球体を妨害してる」

 瀬名里と陽葵はイルム達を心配して、美優がサポーターの状況を話していた。

 観戦者は、仲間と相手の双方を平等に応援する。

 スポーツにおける対等な精神を、瀬名里達は維持していた。

 十球目と十一球目を二人に投げ終えた私は、両手に新たな球体を持って木箱を離れる。

 プールサイドから、プール中央に向けて飛び込むと、着水する前に両手の球体を真下へ投げた。

 時速四百キロの球体が二つの水柱を上げて、私がそれを追うように着水する。

 プール中央を公転するように花菜と音穏は移動していた為、大鳥達の反応が遅れた。

 プールの底では、イルムが女性側入り口を、パルフェが中央を、フィミが男性側入り口に近い位置で、自身の防衛範囲を決めて動いている。

 花菜と音穏を警戒していたパルムやアルナは、私の攻撃参加に対応出来ず、水深二十五メートルを通過した私の球体に対して、ディフェンダーのパルフェが身構えた。

「花菜、音穏、私がまた投げるから、公転を止めて今の範囲で攻撃をお願い!」

 私は二人の返答を確認する前に動き出す。

 プールサイドに近付いて、水中を斜め下に蹴ると、水面から三メートルの高さに跳ねた。

 木箱の前に着地すると同時に、球体を素早く掴む。

 振り返ると、花菜と音穏が立ち泳ぎに移行して、私を見ていた。

 十四球目と十五球目を手に持った時点で、三分が経過している。

「思ったよりも効率が悪いか…………どんどん投げるから移動は最小限でお願い。私は中央付近を攻めるから」

 中継という効率よりも、翼による滞空や、足と嘴による同時所持数の多さの方が、効率が良いらしい。

 アタッカーは、球体が水面に触れた瞬間から(さわ)れないというルールも、大鳥達に有利なようだ。

 プールサイドから反対のプールサイドへ、三人で跳ねながら入水せずに投擲する方法もあるが、住宅街の住民には出来ない戦法であり、学園でも使った事が無い。

 真下に投げる(打撃する)事も、ルールとしてある為、入水を前提とした戦法を人間の私達は選択していた。

「玉入れのように連続で投げて下さい主。それなら滞空時間が長くなって、跳ねながら投げられる数も増えます」

 確かに、直線で投げるより、山なりに高く投げた方が、滞空時間は増加する。

「そうね。私達の動きに合わせなければ、大量に(ほう)れるでしょ? それなら私達も一度のジャンプで三から五個程度の球体を投擲出来ると思うわ」

 音穏と花菜の言葉に、私は同意する。

「そうだね。最初の予定から外れるけど、よろしくね。花菜、音穏」

 声を掛けた私は、軽く跳ねて木箱の中心部に自身の肉体を突入させた。

 二十個前後の球体が木箱から落ち、プール側に肉体が向いた状態で、膝下までが球体に埋まる。

「あれっ? 以外と埋もれないね。下半身は埋まると思ったんだけど……」

 私の独り言が、木箱の付近にだけ伝わった。

 瀬名里と陽葵、美優の三人は、私の突然の行動に呆然としている。

 審判である有樹や栗夢は、軽く微笑んで静観の構えを見せていた。

 私は、球体の散布範囲を確認すると、高い山なりの軌道を予測して、両腕の回転を始める。

 木箱の外からだと、木箱が邪魔になって、腕の回転が出来ない。

 木箱の中に飛び込んで投げる奇策を実行する事で、私は球体を次々と投げていった。

 初等部の玉入れを思わせるように、無数の球体が腕の回転に合わせて浮遊する。

 速度を失った球体は、花菜と音穏の頭上で失速すると、重力に身を任せて落下を始めた。

「まるで星が降って来るようね…………」

 穏やかに感想を出した花菜が、水中を蹴った。

 月明かり程度の明るさに包まれたプールは、天井の夜景とプール底の星空で照らされている。

 それは球体も同様で、空中や水中に照らされて移動する球体は、惑星や衛星のようだ。

「フィミは真下……パルムとアルナは……(あるじ)の奇襲警戒……良い布陣です」

 水中を真下に蹴り、水面から三メートルの高さに跳ねた音穏は、静かに分析をしながら落下中の球体を掴む、それを素早く投げると、別の球体を手に取って、残像を生むように次々と投げていった。

 男性側の入り口に近い方で、水柱が立て続けに生まれる。

 女性側の入り口付近では、音穏よりも間隔を空けて、水柱が上がっていた。

 水面から六メートルの高さにジャンプした花菜は、緩やかに落下しながら、球体を真下に投擲している。

 音穏よりも落ち着いた動きではあるが、しなやかな動作には無駄がない。

 音穏が七個、花菜が四個の球体を、一度のジャンプで投げると、落下した二人の姿が水中に消えた。

 合計十一個の球体が時速四百キロで潜ると、水柱が収まった水面に、花菜と音穏の姿が浮上する。

 立ち泳ぎに戻った二人は、私が投げた後続の球体を目で捉えた。

 少し沈む動作を見せた直後に二人が跳ねる。

 花菜の上空と音穏の頭上、二カ所で落下を始めた第二陣の球体に、二人の姿が重なった。

余談ですが、私はSNSをやってません。

また、小説家になろうだけに作品を投稿しています。


人の望みや願いを叶える作品が多い中で、

私の作品は、人に厳しさを求める作品ですが、

差別、戦争をこの世から消す為には、必要な考えであると

思っています。

 自身の常識は非常識、相手の立場になって考え、他者の為に行動する。

それが、相手との相互理解に繋がり、他者への優しさとなります。


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