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魔化折衷  作者: 星心星道
14/32

天地反転ぶっ!!(起 前半)

 初めに言っておきます。誠に申し訳ございません。

シリアスはまだ6~7割ほどあります。

 次回投稿でも、2~3割は残るでしょう。

何故なら、シリアスが無くなると、他者を馬鹿にしたり、傷付ける要素が自然と

入って来るからです。

 自分の欲を優先することは、他者の心や体を傷付ける事に繋がって行く。

この作品は、自分に厳しく、他者に優しくの価値観が中心です。

しかし、現在を生きる人達は、自分に甘く、他者に厳しくの人生を歩んでいます。

世界から、いじめ、無視、差別、犯罪、戦争が消えないのは、建前で他者を心配し、本音で

他者を見下す、人間自身に原因があります。

 自分は関係無いと、世界の争いを気にしないのも、無視に該当してしまうのです。

私が願うのは、自分の甘さを正当化する為の言い訳を考えず、自分に厳しく生きようと本音で

思う人達が増える世界。

 自分の価値観だけでなく、相手の価値観も認めて、対等であろうとする姿勢を維持出来る

そんな人達が増えれば、負の連鎖は消えていくでしょう。


※5月3日 地の文の訂正(感覚共有 → 意識共有)をしました。

※2019年1月30日 反転プールに出て来ない、星の意識体が、

            プールで出て来るような地の文と会話がありました。

            矛盾となる為に、訂正しています。

           


 航宙歴五百十七年四月十日 午後四時十七分


 放課後の星域学園に、部活動の音と声が鳴り響く。

居住区画から二十メートル下に位置する星域学園は、サポート区画と共有施設を持ち、操縦区画とも繋がっている特殊構造だ。

 通常、操縦区画には病院正面手前の小屋から入るが、学園に居るときは、学園側から直接向かう事になる。

 運動部の見回りで体育館に入ると、陸上部とダンス部、合気道部と剣道部が活動を始めていた。

 地下体育館は百メートル四方の広さがあり、生徒数も少ない事から、四つの部活が同時に動いても有り余る状態になっている。

 ここは異常は無いようだな――男子も自己に厳しく出来ている。

 そうだねキルト――――私は生徒の下校を見て来るから――キルトとコスモスは学園内の警戒をお願い――何かあったら家族を呼んで。

 キルトの念話に、私は同意とお願いを伝えた。

 私の幽体から離れた状況では、意識共有は出来ない。

 その為、念話で会話する機会は今後も残る。

 分かった――コスモスと共に部活動を眺めているとしよう――。

 人間独自のスポーツは斬新だから――飽きないわ。

 キルトの了解と、コスモスの感想が念話で返ってきた。

 二本足で立ち、二本の手で器用な行動を見せる人間の体格は、宇宙では希少な形状らしい。

 体格が異なれば、スポーツも異なってくる。

 自己の常識に囚われず、他種族の価値観と形状に敬意を払う、人の価値観を強制しない事が、宇宙を渡り歩く秘訣だ。

 それじゃあ――また後で。

 あぁ――終わったら大木で合流しよう。

 穂華――心に負担を掛けすぎないようにね――その為に意識体や家族が居るのだから――自分に厳しくしながら――私達を頼りなさい――あなたにはその器用さがあるわ。

 私の念話に、キルトの合意が続き、コスモスの優しさが念話で伝わって来る。

 うん――――頼りにしてるよ――キルト――コスモス。

 私はコスモスの配慮に感謝しながら、下校生徒の見守りへと向かった。



 航宙歴五百十七年四月十日 午後六時五十一分

 部活動を終えた生徒の後ろ姿を見送った私は、大木へ向けて歩く。

 地下の学園からは人の気配が消えて、大木の周囲には家族の気配が感じられた。

 パルフェやイルム達の気配も混じっており、百五十メートル離れた現在位置からでも、楽しい空気が伝わってくる。

 有樹と栗夢の姿は無く、星野家の居間から二人の気配が感知出来た。

 今日は二人が食事担当なので、オープンキッチンに居るのだろう。

 かつて存在していた地球と同じ重力に維持された居住区画を私は歩く。

 大木に四十メートルの位置まで近付くと、集団の中から瀬名里と美優、琥珀が抜け出して、私に向かって来る。

「お勤めご苦労様。事件も未然に防げたし、共学も何とかなりそうだな」

「油断は出来ないけどね。初日から女子トイレに男子が隠れる事案も起きたし、自分に甘くなる人間は、これからも出ると思うから」

 瀬名里のねぎらいに、私は人間の弱さを伝えた。

 自身の弱さを認め、目を背けず、言い訳に逃げない、それが精神面が弱い私達の最終目標になる。

 生きると言う事は、自身の欲望と戦う日々でもあるのだ。

「浄化戦は一段落したんだ。油断は出来ないとはいえ、シリアスな思考は緩和しても良いんじゃないか」

「私もそのつもり、でも今はまだ学園長としての時間だから」

 学園長には学生の安全を守る責任がある。

 通貨や経済が消滅して、自給自足と配給の環境となったスターフラワーでも、学園長としての責任に変化は無い。

 時間外の警備は、星の意識体達に任せる事が出来るので、星野家が私達が安らげる唯一の場所と言えるだろう。

「しかし、あの移住者達は元気だな。おかげで制服が乱れてしまった」

 深緑色の長袖ブレザーと深緑色のプリーツスカートが不自然によれ、灰色の長袖Yシャツにはしわが、橙色のリボンタイも斜めになっていた。

「瀬名里は上を直して、私は下を直すから」

 私は瀬名里の前でしゃがんで、プリーツスカートのよれを直し始める。

 深緑色の上にプリントされた黒と白の格子柄が綺麗に並ぶと、裏地の赤色フリルが見えなくなり、綺麗に整ったスカートが現れた。

「靴下も直しておくね」

 ふくらはぎまで下がった橙色の靴下を、膝下まで伸ばす。

 ハイソックスの靴下が本来の姿勢を取り戻し、よれの無い綺麗な見た目となった。

「ありがとう穂華。できれば美優と琥珀の方も見てくれないか? 二人も制服が乱れてしまったんだ」

 美優と琥珀の制服も乱れていて、途中でめたルービックキューブのように違和感のある着こなしとなっていた。

 私は初めに美優へ近付いて、水色のジャンパースカートに触れる。

 ジャンパースカートは、ノースリーブのワンピースと同じ、袖部分の無いワンピースという意味なのだが、右肩に掛かる部分がずれて、重力に負けそうな状態になっていた。

 ジャンパースカートの内側に着ている黄色の長袖Yシャツは、足の爪で複数の穴が空いた状態で、修復よりも新調を考えた方が良い見た目になっている。

 ボックスプリーツとなっているスカート部分も、不自然にめくれており、裏地の白緑色フリルが、表地のように外へ露出していた。

 私は、美優に状況を尋ねながら、制服の見た目を整え始める。

「美優、パルフェやイルムはどんな子達っだった?」

「ん~とっね。無垢むくかな。純粋さが前面で悪気の無い悪戯が多いよ。美優は自覚あってやってたけど、彼女達は無自覚で迷惑を掛けている感じだよ」

 人間の子供は、家族への甘え心で、悪戯をしたりワガママを言う、家族の心と愛情を独占したいという欲望があるからだ。

 しかし、混沌が肉体を狙う現在では、早期に意識と思考を改善する必要がある。

 混沌の意識体が奪う肉体は、幼少期~成人前までと限定されているからだ。

 魔力順応力の増減がこの年齢である為なのだが、種族によって異なる影響で、人間特有の価値観と言える。

 パルフェやイルムの種族は、魔力順応力が無い種族だった為、純粋無垢であっても混沌に狙われなかったのだろう。

 その証拠に、私達に迷惑を掛けている状況で、支配や独占の感情を全く感じ無い。

「花菜と陽葵が注意したから、落ち着いたけど、さっきまで私達の周囲を跳ね飛んでいたの。スターフラワーで一番元気な仲間かもね」

 美優の発言を聞きながら、Yシャツとジャンパースカートをただした私は、深緑色の靴下を上げる。

 膝下の位置まで下がっていた靴下が、膝上の位置まで上がると、よれの無い綺麗な見た目になった。

「あの二人なら任せて大丈夫だね。音穏と手鞠も協力しているようだし」

 音穏には素早さが、手鞠には分析力がある。

 花菜と陽葵の教養力と判断力を考えると、注意が失敗する可能性は低い。

「そう思って、私はこっちに来たんだ。多すぎても邪魔になるからな」

「瀬名里は、教養と包容力があるからね。良い判断だと思うよ」

 私の返答に瀬名里の顔が赤くなる。

 美優から離れた私は、琥珀の前に立って、ワンピースのスカート部分へと手を伸ばした。

 フレアスカートに出来た、よれやしわを丁寧に直していく。

 ワンピースの白いラウンドカラーや、水色長袖ブレザーは自分で正したようで、紺色のリボンタイも綺麗に整っていた。

「琥珀は身嗜みに敏感だね。しっかり直してる」

「着衣が変だと落ち着かないんです。自分の姿勢が斜めになっているような気がして……欲とは違いますが、五感が狂うような感覚になります」

 照れながら話す琥珀に、嘘は感じられなかった。

 意識共有している大福達からも、欲とは違うと報告を受ける。

 私は、琥珀の前でしゃがむと、くるぶしの位置まで下がった灰色靴下を、ふくらはぎの下まで上げた。

 ハイクルー本来の役目を取り戻した靴下が、綺麗な姿を見せる。

「よし、これで着こなしは完璧。元の綺麗な琥珀に戻ったよ」

 立ちながら笑顔で声を掛ける私に、琥珀は照れた笑みを返す。

「ありがとう穂華。あっちも解決したようだから、合流しましょう」

 琥珀のお礼と状況判断が、私達に次の行動を示唆しささせた。

 その言葉に、瀬名里が同意する。

「そのようだな。元気だったイルム達が反省している」

「郷に入っては郷に従えだよね。穂華お姉ちゃん!」

 美優の元気な声に、私の足は軽快に動き出した。

「そうだよ。でも、加減は必要だからね美優」

「うん!」

 美優の返答を聞いた私は、先頭になって大木へと歩く。

 文化や習慣は確かに大切な物だ。

 しかし、それが強制や強要であってはならない。

 その先には支配欲が潜んでいるからだ。

 他者の文化や習慣を認めて理解を示す、相互理解の精神、平等な立ち位置での生活が重要になる。

「やっと来たと…………パルムは寄り添ってみる」

 思考しながら大木の下へ来ると、私の足が灰色の翼に包まれる。

 イルムの妹であるパルムが、私の足へ抱き付いていた。

「見送りご苦労様、穂華。霊体は居なかった?」

 花菜の声に、私は落ち着いた口調で報告をする。

「今日は動物霊くらいかな。私が隠世かくりよの管理をしてる影響で、私の傍が安心出来るみたい」

「スターマインドから憑いて来てるわね。穏やかで正の感情に満ちているのが救いかしら」

 スターマインドと共に消えた動物達も、霊体として私に随伴していた。

 私は霊体の気配を感じながら、花菜へ返答する。

「悪霊と怨霊は浄化の対象だからね。混沌のような脅威ではないけど、住民には危険だから注意しないと」

 負の感情を持つ霊体は、負の感情を持つ生命に惹かれる。

 混沌のように肉体を奪うのは稀だが、隠世側へと誘われる危険がある為、星の魔力を纏わない住民にとっては、危険な存在だ。

 私と花菜が会話していると、イルムの明るい声が感想を伝えて来る。

「人間で死後の世界を恐れないのは、穂華達が初めてです。穂華が隠世の管理者というのは本当だったのです」

「私達と同じ…………死を理解し認める存在……私達は良き仲間に出会えた…………運命に感謝」

 パルムは、イルムの言葉に同意して、私達に信頼の眼差しを向けてきた。

 彼女達の種族は、死後の世界も人生の一部であると認め、死に畏怖を持たない存在のようだ。

 陽葵は、イルム達の感想に、心変わりした自身の感想を繋げる。

「私は本音を言うと怖い思いもあります。でも、隠世にも良き心を持つ存在が大勢居ると理解出来ましたから、霊体は恐れません」

 結局は、隠世も現世と一緒なのだ。

 良き者も居れば、悪しき者も居る。

 輪廻は生命と物質に等しく訪れる、それを拒み、死を否定するから、人は隠世や霊体が怖くなっていた。

 隠世や霊体を認める事と、自分が死を望む事は、全く違う事だと理解する事が重要なのに、人間は認める事は死ぬ事だと勘違いしている部分がある。

「隠世も宇宙の一部です……私達は霊体を恐れません。それは、生命体全てがいずれ辿たどる道なのですから」

 陽葵の後には、手鞠の決意が小声で続き、家族の心の成長を私は感じ取れた。

 手鞠の後には、結論を述べて食事に飛ぼうとするパルフェが、大胆な発言をする。

「それはそうと、夕食の時間。人は家で、私達は森でご飯を食べる。現世を精一杯生き抜いてから、死ぬ。それが生命の在り方なのだから」

 そう、死ぬ事を恐れず、現世を精一杯生きる、単純だが困難な道のりが、生命に等しく訪れる因果だ。

 食事に同意したイルムが、翼を動かし始める。

「レッツ、愛しの草達です! パルム、アルナ、行くですよ」

 パルフェとイルムが空中へ浮くと、彼女の妹達も翼に力を入れた。

 程なくして、五体の大鳥おおとりが私達の頭上に浮遊する。

「ご飯を食べたら、温かい水浴びに来ない?」

 私は星野家の風呂へと彼女達を誘った。

 風呂という単語は、人間独自の文化なので、発言を避けている。

「温かい水には興味があるので、食事の後に伺います」

 初めに冷静さと元気を合わせ持つアルナが、返答を出した。

 続いて、フィミの声が思いを伝える。

「体温に近い水の中で、愛を育みます……生命の営み……」

「パルムは温水に潜行します…………未知の体験……です」

 妹達の嬉しそうな声が、私の招待を快諾かいだくした。

 それを確認したパルフェが、頬を染めて私を見る。

「では、遺伝子提供も兼ねて伺います。温水の水浴びは、斬新さがあって楽しみです」

 丁寧な口調と、大胆さが私に賛成の意思を示した。

 続いてイルムが、去り際の同意を示す。

「食事の後は、温水です! 今日はとても有意義な日です。また後でですよぉ」

 語尾の発言は、森の中から聞こえた状態で、数秒の沈黙が訪れた。

 思考が止まったアルナに代わって、パルムが姉を擁護ようごする。

「イルムに……悪気は無い。親しい者、初対面の者、関係無く……イルムはマイペース…………教養の無さを、今は許して欲しい」

 浮遊しながら謝るパルムに、私は優しい笑みで答える。

「私達は教養の強制はしないよ。文化や価値観が異なるのは当たり前なんだから。大切なのは、異文化と相手の価値観を否定しない心。他者の文化と価値観を認め合う事なの。だから、お互いに相手の良い所を学び合おう。それが、私達が、イルムやパルフェ達に求める事。勿論、悪い点はお互いに直さないと駄目だけどね」

 対等の立場で、お互いの良い部分を学び合う、お互いを見下さない、それが出来ていれば西暦時代にケンカや戦争は生まれ無かっただろう。

 相手を否定するからこそ、戦いの火種が生まれ、略奪や強制による支配に発展する。

 人間が起こした不幸は、他者の文化と価値観を否定する人間自身に原因があったのだ。

「イルムは……他者を見る目が良い。穂華に付いて行くと、決めてくれた事が…………姉の最大の功績…………この素晴らしい出会いに感謝……」

 一礼いちれいしたパルムが、その場で浮遊しながら、森へと体を向ける。

 翼に力を入れると、イルムが消えた位置へ飛翔ひしょうしていった。

「さて、私達も食事に行きましょう。アルナ、一緒に行きませんか?」

「はい、一緒に行きます。穂華、温水の水浴び楽しみにしてますから」

 パルフェの誘いに、思考を再開させたアルナが答え、私に気持ちを伝えてきた。

 頭上から来ていた風が和らぐと、浮遊状態から飛翔に移行したパルフェ達が森に入って行く。

「組んずほぐれつの温水…………交合まじあう団欒……乙女の花園」

 最後には、フィミの大胆発言が、静かに森から聞こえてきた。

 意味深だが遠回りな発言が、フィミらしいと思える。

 あれで支配と独占の欲が無いのだから――――珍しい種族と言えるな。

 それだけ――宇宙は広いということよ。

 キルト――コスモス――何処へ行ってたの? 生徒は四十分前に全員下校してるでしょ――病院の方から気配を感じたけど。

 念話を出しながら、森から出て来た二体に、私は疑問を出した。

 二体の視線が私を見て、念話で答えてくる。

 患者を診て来た――負の感情に囚われやすいのが――気懸かりだったからな。

 さいわい――穏やかな感情が病院には溢れていたわ――定期的に見に行くけど――今は安心出来そうね。

 そう――夕食を食べに私達は戻るけど――キルトとコスモスはどうする?

「なら、我らも帰ろう。家族は集う者だからな」

「たまには発声も良いわね。生命だった頃を思い出すわ」

 私の念話に、発声の魔力で答えるキルトとコスモス。

 星の意識体は霊体に近い存在である為、発声器官が無い。

 その為、発声には星の魔力を使用する。

 念話よりも効率が悪い為、普段は念話を基本とし、まれに発声の魔力で会話をするのが、意識体の特徴だ。

 霊体にも、発声する者が居るが、魔力では無く、念動力(念力)を利用して、空気を振動させて発声している。

 例外は、私に入っている優衣や真衣、氷柱や千香で、星の魔力を間接的に纏える彼女達は意識体と同様に、発声したい時は、発声の魔力を使用していた。

 私は、星野家へ向かう為に、二体に質問をする。

「私に入る? それとも一緒に行く?」

「穂華の中に入ろう。我々が夕食に参加しても、食べる事が出来ないからな」

餓死がしとは無縁な私達だけど…………食べ物の味を感知出来ないのは、少し残念ね。欲とは違うけど、星の意識体となった今でも、なつかしむ事はあるわ」

 私の質問に、キルトが答え、コスモスが感想を話した。

 数多あまたの星や複数の宇宙を本体とする星の意識体は、かつて生命だった者が多い、支配と独占を持たなかった種族から、星の意識体へと転生する者が現れる。

 そうして宇宙は、星の意識体を増やして来た。

 複数の宇宙を本体とするキルト達は、星創のフレリ(無空のフレリ)によって生み出された、最も古参こさんの星の意識体と言える。

「それじゃあ入って。大福が聞きたい事があるみたい」

 私の幽体に同居する星の意識体や霊体とは、意識共有が出来る。

 大福の意思を感じた私は、キルトとコスモスに行動をうながした。

 そうか――病院の女性看護師情報だったら――殴ってやろう。

 その時は私も協力するわ――キルト。

 念話に戻った二体が、大福のエロを警戒して、私の体へと入って行く。

 フレリの本体魔力と同調した私は、今となっては六万五千五百三十五ヶ所の宇宙と同規模の魔力を格納する、宇宙の心臓と言える存在だ。

 その為、私の幽体に入っていた方が、キルト達は安心出来るらしい。

 星の魔力は、あくまで借り物だが、私に信頼が寄せられている事には、素直に嬉しい感情が芽生えている。

 お互いに努力して、認め合う関係は、とても心地良く嬉しいものだ。

 頼るだけ、見下し無視するだけでは、得られない感覚。

 それが、自分に厳しく他者に優しくのご褒美と言えるだろう。

「キルトとコスモスは多忙ですね。私達も、有樹や栗夢の思いに応えましょう」

 陽葵が私に夕食への移動を促してきた。

 家族が数歩先で、会話に入らず待って居てくれている。

 気遣いという名の優しさが、その場にあった。

「うん。大量にあるだろうから。みんなで満腹になろう」

 明るく答えながら歩き始める私に、家族が歩調を合わせる。

「主、今日は反転風呂の奥の、プールにも行きましょう。反転風呂と同様の未知の体験が出来そうです」

「そうだね。プールの真横にある空間も気になるし」

 私の発言に、私と意識共有しているアカから、焦りを感じる。

「何かあるのですか? 主」

「うん。後で教えるから、今は軽い期待に留めておいて」

「あら。それは楽しみね。ラプラタも関係してるのかしら」

 花菜の発言に、私と意識共有しているラプラタから、驚きと感心の思いを感じた。

「そうだね。でも、質問攻めは遠慮してね。ご飯が冷めちゃうから」

 アカやラプラタの感情では無く、ご飯をあえて理由にあげて話題を逸らす。

「穂華の言うとおり、ご飯が冷めたら怒られるからな。穂華の心遣いに反論せず、夕食に向かおう」

 私の意図を理解した瀬名里が、家族に移動を提案した。

 心遣いは発言で、気遣いは体の動作で示される。

 宿泊施設で心遣いが重視されるのは、発言による直接的な優しさを他者に示すからだ。

 気遣いは、気を使って身を退くなど、体の動作で示される為、間接的な優しさになる。

「今日の夕飯は、肉と果物のようだけど……なんだろう。嗅いだことの無い匂いだよ」

「美優、どんな匂い?」

「甘酸っぱい香りと、酸っぱい香り、鼻への刺激も少しある」

 木属性が主軸の美優は、魔力無しでも五感が強化されている。

 私達の中で一番早く捉えた香り、その情報を元に、私は宇宙産の食材を脳内で検索していた。

柑橘かんきつ系の匂いに、葡萄ぶどうの味とヘチマの形状を持つ、パエロナ。酢の匂いに、いちごの味とバナナの形状を持つ、パンコマ。香辛料の匂いに、馬肉の味とカピバラの形状を持つ、ノウェイかな。美優の報告通りなら、その食材が料理に使われていると思う」

 パエロナは紫檀色したんいろ、パンコマは新橋色しんばしいろ、ノウェイは紅梅色こうばいいろの肉を持つ。

 色、形状、匂い、味、それら全てに未知と斬新さを感じる食材達だ。

「美味しそうですね。早く食べてみたいです」

「そうね。隠世を知る前に、現世の情報も博識はくしきにならないと……」

 私の発言に、琥珀と花菜が感想を出した。

 続いて、記録を見た手鞠が、生命の宿命しゅくめいを述べる。

「記録だと、西暦の初期にも、未知の食材を食べてみた者達が居ます。亡くなった者も居るようですが、未知への挑戦は、生命の存続と進化には必要な事です」

 そう、生命は常に挑戦を続ける因果を持っている。

 本来なら、挑戦をしながらも、支配や独占の感情を持たない事が基本なのだが、人間は進化の過程で、自分に甘く、他者に厳しくの価値観を持ってしまった。

 その結果が、今、私達が居る太陽系の消えた二十三番宇宙になる。

 生命体は、誕生から死亡まで、自分に厳しく他者に優しくの生き方を継続するのが本来あるべき姿なのだ。

「人間は高い知能に、弱い精神が同居しているからな。言い訳で他者を傷付ける事を正当化してきた過去がある。例えば、会社でミスした人間に注意するのは、相手への優しさからだけど、ミスした人間を怒ったり、悪口を言ったり、見下すのは、相手に対する嫌がらせ、つまり支配欲だ。注意と怒りや悪口を同じ事だと思っている人間が居たらしいけど、それは自分の憂さ晴らしを正当化する為の言い訳だな。混沌が地球やスターマインドを狙ったのも、人間が自分に甘かったのが原因さ」

 瀬名里の突然の発言に、私は確認をしてみる。

「もしかして、手鞠の発言後の私の思考って、漏れてた?」

「えぇ、念話で漏れてたわね。穂華は時々、無防備になるから気を付けた方が良いわよ」

 瀬名里よりも早く答えた花菜の言葉で、私は熟考じゅっこうによる無防備を自覚する事になった。

 何時の間にか、星野家も二十メートルの距離まで近付いている。

「ここまで来ると、私達でも匂いが分かりますね……」

 静かに話した手鞠が、目を閉じて鼻で大きく呼吸する仕草しぐさを見せた。

 美味しそうな匂いを嗅いで、手鞠は幸せそうな笑みを、私達に向ける。

「早く行こう。手鞠。穂華、私達が先行しても良いですか?」

「良いよ。琥珀、手鞠、先に行って有樹や栗夢を労っておいて、私達もすぐに行くから」

 ねぎらう。

 家事かじを引き受けた家族に感謝を示すのは、当然の行為だ。

 感謝するからこそ、自分も家事を分担してやりたいと思う心が生まれる。

 他者に優しくする事は、自分の怠惰たいだな心をいましめる事になるのだ。

「それじゃあ、先行します。美優も来る?」

 手鞠と手を繋いだ琥珀は、美優も誘う。

「うん! 美優も有樹達にありがとうって、抱き付く!」

 それに元気良く答えた美優が、空いていた琥珀の左手を掴んだ。

 家族として馴染んできた琥珀の行動に、私は優しい笑みを浮かべる。

「それじゃあ、食卓で!」

「うん。またね」

「駆け込んで、有樹達を驚かせてやると良い」

「後で、二人の反応を教えてね」

 気合いの入った琥珀の声に、私が返答して、瀬名里が三人に提案を出す、それに花菜が賛同すると、三人が駆け足になった。

 琥珀を中心に、手を繋いだ三人が十五メートル先の玄関へ駆ける。

「子供は元気で良いわね。高等部になってからだと出せない無邪気さを感じるわ」

「琥珀は教養があって、手鞠は冷静さが、美優は純粋さがあるからね。良い関係だと思うよ」

 高揚と沈静、行動と観察、それらのバランスが取れないと、危険に遭遇したり、非行に走る原因にもなる。

 同じ趣味、同じ思考の仲間だけでは、視野が狭まり間違った生き方をしてしまう。

 だからこそ、異なる価値観を持った存在を認め、対等な者として接する事が重要だ。

「手足が戻った私も、当時は無邪気に遊んでたな。まるで、幼い頃の自分を見ている感じだ。有樹と栗夢の驚く顔が目に浮かぶよ」

 無邪気な悪戯は、支配欲に該当しない。

 相手を見下し、不利な状況に追い込もうとする事が、支配欲になる。

「大切な存在を失っても、私達は負の感情を持たなかったから、星に認められている。固執こしゅう執念しゅうねんさげすみや恨み、それら混沌の思考を持たない世界の素晴らしさを、忘れないようにしよう瀬名里」

 自身への甘さは、他者への厳しさへと繋がり、争いの原因を生み出す。

 戦争や犯罪を生み出すのは、自分優先の甘さなのだ。

「そうだな。私は自分を酷使こくししてでも、星側の仲間を守るよ」

「そうね。生に執着しゅうちゃくせず、星の家族の為に生きるわ」

 私の発言に、瀬名里が同意して、花菜が己の生き方を語った。

 琥珀達より、一分ほど遅れて玄関前に着くと、半開きだった引き戸を音穏が開ける。

「主、サプライズは成功したようです」

 音穏の声で、私は玄関の左奥へ耳を澄ます。

 すると、居間の方から賑やかな声が聞こえた。

 有樹と栗夢の声からは、怒りを感じず、むしろ嬉しさがうかがえる。

「無邪気な悪戯って、程度にもよるけど、軽いのは好感が持てるよね。年齢と頻度によっては、嫌われるけど」

「えぇ、私達がやったら大人げないと思われるわね」

 私の発言に、花菜が微笑みながら返答した。

 慈愛に満ちた穏やかな笑みは、星側の思考と言える。

 逆に、相手の弱点や汚点を笑う事は、相手を見下す支配欲と言えた。

 同じ笑いでも、本人の感情一つで、星か混沌に別れてしまう。

 その違いを理解しないと、混沌は浄化出来ない。

 靴を脱いで、廊下を歩くと、開いたままのドアから居間へ入る。

 栗夢に抱き付いた美優を確認すると、有樹がオープンキッチンの方から出て来た。

「おかえり、ご飯出来てるから、自分の分を持って行って頂戴。宇宙産の食材を使ったから、味の保証は出来ないけどね」

「ありがとう有樹、栗夢。今日は、肉がノウェイで、果物がパエロナとパンコマだね、美味しい食材だから、味わって食べよう」

 琥珀と手鞠、美優と栗夢は、すでに自分の分を運んで、食卓を囲むイスに着席していた。

 私達は、各自で肉と果物を皿に盛り付けて、ご飯を茶碗によそう。

 それをトレイに置くと、トレイを持って食卓へ向かった。

 美優の隣に座ると、正面に座る手鞠が声を掛けてくる。

「ご飯を食べたら、反転風呂ですね。プールの奥も楽しみです」

「そうだね。星の意識体達は急用で出て来られないけど、大鳥達も来るし、楽しくなるよ」

 念話よりも意識共有の方が魔力効率が良い、その為、星の代表者達は、私の幽体に居る間は、意識共有によって私に代弁をさせるようになった。

 私は、代弁は星との相互協力と考えている為、強制とは異なる。

「ラプラタとは遊べないんだ…………でも、大鳥達が来るし、プールも楽しみだね!」

 落胆から期待へと、感情を切り替える美優の素直さが、発言にあらわれていた。

 手鞠は私の顔を見て、疑問を伝えてくる。

「プールはどんな絵が描かれているのですか?」

「西暦時代の都市の夜景を、写実絵画しているらしいよ。夜空を泳ぎながら、夜景を見上げて、地面には空と満天の星空があるみたい」

 都市の光と、星の光、本来は同時には見られない景色が、写実絵画と光源でプールに生み出されて居るようだ。

「雑談はそのくらいにして、まずは食べるわよ。穂華、お願い」

 栗夢の声に、私は食卓を見回す、家族が席に着いて、食べ始めの合図を待っていた。

 私が姿勢を正すと、美優と手鞠も姿勢を直す。

 それを確認した私は、元気に感謝の挨拶をする。

「いただきます!」

 命を繋ぐ食材への感謝と、作り手への感謝が含まれた大切な挨拶だ。

 私の声に続くように、家族の挨拶が同時に出る。

「いただきます」

 私を除く、九人の声が食卓へ響くと、賑やかで楽しい食事が始まった。

 次回投稿は、5月20日を予定しています。

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