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魔化折衷  作者: 星心星道
12/32

星域環境(結 前半)

 星域義勇軍に穂華が訪問する場面になります。

無心無道の混沌での立場も分かる展開です。

 死束の渦、人栄の星で出た者達の未来が少しだけ確認出来ます。


 ※12月30日  細かな修正

 ※ 2月11日  一部修正


 ※地球で冷凍状態にした人間は、6人。対して冷凍状態の生命体は13体。

 では残りの7体は? スフカーナが地球よりも前に立ち寄った、星の生命体です。


 航宙歴五百十七年四月九日 午後六時〇七分

「まさか数分ほどで混沌に勝つとは思いませんでした」

 人間を模した皮膚に、金属の肉体が覆われた美人艦長が、開口一番に驚きを口にした。

 現実時間だけで見た浄化戦は、確かに短い戦闘だっただろう。

 瀬名里達は、精神疲弊せいしんひへいでダウンしている為、サポート区画の保健室で休んでいた。

 単身で巡洋艦スフカーナを訪問した私は、彼女に本題を尋ねる。

「地球で捕獲したという混沌はどちらでしょうか?」

 星域義勇軍の本質は、未覚醒前の混沌が入った肉体を誘い出し、覚醒する前に絶対零度の冷凍状態として封印、星側の信任を得た生命に取引を持ち掛ける事だ。

 魔力順応力の無い、長寿の種族だからといって、支配と独占の欲を出し続けている。

 星の意識体にとっては、敵とも味方とも言えない、対応に困る存在だ。

「奥の隔離区画におります。しかし…………人間が星側の信任を得るとは、地球での人間を知る私には信じられないですね」

「支配と独占の欲を無くせば、ネフィア艦長も星側の味方になれますよ」

 私の言葉に、彼女は困った表情を返す。

 周囲に居た義勇軍の乗組員は、私に畏怖の感情を示していた。

「宇宙空間を乗り物無しで飛んでくる存在にはなりたくありません。魔力順応力の無い私達には、今の姿が最良なのですよ」

 彼女は格納庫の先のリフトを目指して歩き出す。

 私は艦長の三歩後ろを随伴して、リフトへと乗り込んだ。

 リフトが動き始めると、真上に感じていた視線が声を出す。

「それが、星側の生命ですか……封印した悪魔の肉体と似てますね」

「イルムか、警備ご苦労と言いたいところですが……お客の前です降りて来なさい」

「はぁぁぁい……よいしょっと、戦闘警備担当のイルムです。よろしくお客様」

 鷹に似た外見のイルムが、挨拶をしながら横に着地した。

 銀色の頭部と首に、白色の胴体、灰色の翼、金色の尻尾、赤色の瞳を持った美しい姿に私は笑顔を見せる。

「とても美しいですね。私は星野 穂華と言います。短い間ですけど、よろしくお願いします」

「初対面の者に美しいと言われたのは初めてです。よろしくです穂華」

 移動するリフトの中で、私とイルムは抱擁をわす。

「親しみがあるのか、畏怖を覚えるのか、星側の生命は不思議ですね」

 それを見たネフィア艦長は、複雑な胸中きょうちゅうを声にしてこぼしていた。


「あの奥が隔離区画です」

 ネフィア艦長が小さく見える扉を指差す。

 ここから百メートルほどはありそうだ。

 リフトを四回、昇降機を三回乗り継いだ感覚からすると、艦橋に近い位置と思える。

「イルムはスターフラワーに乗ってみたいです。駄目なのですか?」

「支配欲と独占欲を無くせたら乗れるよ。でも、一度乗ったらスフカーナに戻れないかも……私達は宇宙を守る事が最優先だから」

「そうなのですか、少し思案して見るです」

 挨拶の時から妙に気に入られている為か、イルムの口調はフレンドリーになっていた。

 そんな私達を、ネフィア艦長は私達を微笑みながら見ている。

「あっ! 艦長、ナジェージタは駄目ですね。左のレプトンが深く抉られたような損傷です。シャーロットとアリススプリングスに乗員を移乗させて、他艦の船体補修用の部品に転用するのが一番と思われます」

 四十メートルほど進んだところで、右の扉が開き、犬に似た外見の乗員が出て来た。

 桜色の体毛に、白色の尻尾、足先が黒色の乗員は、紫色の瞳を艦長に向けている。

「そう、私は星側のお客を隔離区画に案内しますので、ポウサルは引き続き船体修復の指揮をとって下さい。コロノイとキュルピは中ですか?」

「彼らは担当設備の点検です。イルムの隣に居るのがお客ですか?」

「えぇ……イルムがなついたようです。ポウサルも挨拶を」

「はい、環境維持担当のポウサルです。私は人間の三十倍ほどの知能がありますが、あなたからは底知れない精神力を感じますね。これが星側の生命になるという事ですか」

「星野 穂華と申します。私の中には星達が信頼寄せて送り続けている魔力があります。この力は星の精神力、心とも比喩出来るものです。ポウサルさんが感じたのは、星側の魔力かと思われます」

「そうですか。私は船の修復がありますので、これで失礼します」

 全長六十センチ程度のポウサルが、私達が乗ってきたリフトへと向かう。

「さぁ、この先です」

 艦長の案内に、私は隔離区画への移動を再開した。

 


 航宙歴五百十七年四月九日 午後六時三十一分

 吐く息が白くなる室温。

 機械が並ぶ室内に、二十個の円筒えんとうがあった。

 横になった円筒は、接地面付近から無数のくだを伸ばし、隣接する機械との接続を確立させている。

「現状十三体が冷凍保存の状態です。この十三体をおゆずりします」

 ネフィア艦長は、あくまで取引という考えを変えない。

「分かりました。私達から提供出来るのは、金属と鉱物、そして植物の種です」

 私達は、浄化と無償提供をするだけだ。

 星域義勇軍側が勝手に取引と思っているだけで、私達の行動は支配と独占に当てはまらない。

 経済やお金が、スターフラワーでは存在しない事に私は安堵あんどする。

「取引成立ですね。混沌側の執拗しつようさには驚きましたが、私達の存在意義をまっとうする事が出来そうです」

 ネフィア艦長の安心した声が届く。

 私は冷凍状態の肉体を確認しながら、中に潜む混沌の気配を調べた。

 イルムは隔離区画の出入口付近に居て、円筒に近付くのを怖がっている。

 混沌が危険な存在だと、直感で理解しているのだろう。

「二体の混沌幹部がいます。彼らの奪還が混沌の任務だったのでしょう」

 ロゼイナフォーティーンとゼキナフォーティーンの二体が確認出来た。

 混沌側のロゼイナは四十四の分身体を、十一の部隊に分けて行動している。

 分身体といっても、それぞれの体格や性格は違うらしく、四十四体全てが本体と言える状態だ。

 ゼキナは、実力の高い混沌に与えられる幹部階級の称号らしい。

「その混沌は生きているのですか?」

「混沌は元々肉体がありませんから、彼らが生命の肉体を奪うのは、魔力を使えるようにする為です。例外として知的生命体の霊体が混沌側から魔力を借りて、星側に殺意を向ける事もあるようですが」

 私は先ほど経験した稀有けうな経験を思い出した。

 混沌と違い、元々宇宙生まれの霊体は、魔力順応力さえあれば、肉体を失っても魔力があつかえる。

 星か混沌、どちらかの魔力を借りる前提条件があるが、混沌側の事例は極めて珍しい。

 無心無道の宇宙を消したい願いと、混沌側の思惑が合致がっちした結果だろう。

 あの無感情を倒したのね――――中々やるじゃない。

 不甲斐ふがいない捕まり方をしたが――最後に面白い戦闘を見させて貰ったよ。

 円筒の中から念話が聞こえた。

 ロゼイナフォーティーンとゼキナフォーティーンが、私に興味を示している。

 正直――霊体と混沌の協力には驚きました――――混沌にとって霊体は使い捨ての物ではないのですか?

 えぇ――奪った肉体も――霊体も――私達混沌の意識体が宇宙を消滅する為の道具よ。

 無心無道を混沌に迎えたのは――ロゼイナイレブン様の気まぐれだ――まさかゼキナの高みにいたるとは――思わなかったがな。

 ロゼイナワンが――無心無道を故意にゼキナイレブンにした時は笑ったわ――全部隊の隊員配置権限はロゼイナワンにあるから。

 拾ったのだから――最後まで面倒見ろ――だったか? あの時のロゼイナイレブンの苦悶くもんの表情は愉快だったな。

 女声のロゼイナフォーティーンと男声のゼキナフォーティーンが、混沌らしい念話をはずませた。

 ここで不快感や怒りを覚えると、混沌側の策略さくりゃくまる。

 負の感情は、彼らが肉体を奪う為の苗床なえどこなのだ。

 ロゼイナイレブンは肉体を得てませんが――――ロゼイナフォーティーンは何故人間の肉体に?

 イレブンは慎重だから――長く使える肉体が欲しいのね――私は短い期間で複数の肉体を使い捨てるの――――イレブンが量より質――私が質より量なのよ。

 魔力順応力の低い肉体に、巨大な魔力が入ると、短期間で肉体が大破する。

 生命の肉体を道具と見ている混沌らしい思考だ。

 ロゼイナフォーティーンが入る肉体は、セーラーカラーの半袖Yシャツを来ている。

 絶対零度の肉体は白に染まり、幼さの残る顔を見せていた。

 さて――私達を浄化するのだろう? 一度奪った肉体は大破するまで抜け出せない――正直飽きて来ていた――さっさと浄化してくれ。

 無の空間から――戦況を観察してるわ――。

 私は星の魔力を十三ヶ所の円筒へ送る。

 濃度の異なる星の魔力が流れて、円筒が灰色の発光に包まれた。

 私達の内面を見抜いた良い加減ね――――。

 人間を凌駕した精神力――仲間に伝えておこう。

 最後まで身勝手な念話出していた混沌が浄化されて行く。

 十三体の混沌が無へ強制送還されると、灰色の輝きが淡くなり消えていった。

「終わりましたネフィア艦長」

「随分長い沈黙でしたね? 肉体が円筒から消失すると聞いていましたが、実際に見ると不思議な気分です」

 魔力順応力の無い生命に、念話は聞こえない。

 長い沈黙の後に、灰色の光で混沌が入る肉体を消した私を、ネフィア艦長は怪訝けげんな面持ちで見ていた。



 航宙歴五百十七年四月九日 午後七時二十九分

 私が単身で乗船したスフカーナの格納庫に、大量の金属と鉱物が流れて来た。

 スフカーナへの提供は、星の目的と関係が無い為、魔力が使えない。

 浄化に来た私自身は、宇宙の行き帰りで魔力が使えるが、提供物資は対象外だった。

 その為、スターフラワーから押し出された物資が、慣性に流されてスフカーナの格納庫に流れ着く構図となる。

「斬新な輸送ですね。まさか格納庫に正確な遠投をされるとは思いませんでした」

「申し訳ありません。浄化と直接の関係が無い為に、魔力が使えないのです」

 艦長の怒りに、私は素直に謝罪を伝え、事情も添えた。

 スターフラワーへの入港と乗船は、支配と独占を嫌う者だけが許可される。

 その為物資を、遠投による慣性輸送で提供する事になった。

「そうですか…………物資量が予想の二倍なので我慢しますが、次回は改善を要求すると星側に伝えて下さい」

 ネフィア艦長は、私の魔力が星からの借り物であると、理解している。

 義勇軍の初代創設者が、星の信任を短期間だけ受けた者らしく、混沌の魔力を探知する装置も、その創設者が開発したらしい。

「分かりました。伝えておきます。それと……彼女達はどうしましょうか?」

 私は、左右と後ろを囲む三体を見る。

 白色の胴体が私に密着して、信頼の眼差しを向けていた。

「イルムは一緒にスターフラワーに行くです。妹達も一緒です!」

 彼女達には支配と独占の欲が無い。

 内面から出て来る気配は、信頼と愛情、そして純真じゅんしんだった。

 こちらは構わないぞ――良い子達ではないか――。

 ネフィア艦長が認めたらね――誘拐ゆうかいは支配欲になるから。

 キルトの念話に、私は正論を返す。

 意識体は、生命体の本心を見抜く、これは星と混沌の双方に共通する事で、私が星を信頼し、混沌を警戒する理由の一つだ。

「イルムは百四十八年前に戦闘警備の役目から外れています。本来ならスフカーナの民間区画に居るべきで、戦闘区画へは入れないのですが…………孤児である為に住まいが無いのです。特別に戦闘区画に残していましたが、特別待遇は差別と嫌がらせを招きます。私としては、彼女達の思いを尊重させたいです」

 ネフィア艦長の正直な思いが私に届く。

 ここは、西暦時代や私が幼少期のスターマインドと一緒だ。

 妬みが相手への見下しに繋がり、差別や嫌がらせという支配欲になる。

 魔力順応力の無い点だけが、義勇軍にとっての幸運だろう。

 混沌に肉体を奪われる可能性が無いのだから。

「イルムの妹達は何処に居たのですか?」

「民間区画の孤児院です。しかし、年齢に上限がある為にイルムの妹達も孤児院を出なくてはなりません」

「他に支配と独占の欲が無い者で、スターフラワーへの移民を望む子は居ますか? 星が認める者のみにはなりますが……」

 私達は宇宙を守る為に、知的生命体を浄化する可能性もある。

 だから義勇軍側の事情に、同情する事は出来ない。

「それでしたら、パルフェとフィミが居ます。彼女達もイルムと似た境遇きょうぐうです。お連れしましょうか?」

「まずは彼女達に意思確認をして下さい。移民を望むのなら、ここに連れて来て貰えませんか? 星側が審査します」

「分かりました。二十分ほど待っていて頂けますか? 私が行って来ます」

「はい、お願いします」

 私の返事を聞いた艦長が、リフトへ歩いて行く。

 物資提供はまだ途中で、格納庫の乗員が息の合った動きを見せていた。


 

 航宙歴五百十七年四月九日 午後七時五十五分

「穂華さん……で間違いありませんよね」

 艦長を待つ間、流れ着く物資を眺めていると、声を掛けられた。

 体長三十センチ前後、体高二十五センチ前後の猫に似た船員が、私の顔を見ている。

「はい、あなたは技術者でしょうか?」

「よく分かりましたね。操舵動力担当のコロノイです」

 この艦の乗員は作業着や軍服とは違う、サックドレスやクルタに似たミモレ丈のワンピースを男女共に着て、仕事にはげんでいた。

 コロノイは金色のクルタに似た服を纏っている。

「私はスターフラワーの代表として来ました。星野 穂華と申します」

「服装……では無いですよね……何故私が技術者と?」

「顔に小さな汚れが付いてます。それは油ですね。後、前足の裏が荒れています。力仕事特有の肉刺まめもあるようですし」

 肉刺まめは、手や足に出来る水疱すいほう(水ぶくれ)の事だ。

「素晴らしい観察力ですね。それも星側の恩恵ですか?」

「私の職業病なんです。被服を製作してまして、見ただけで対象の長さや肉体の細かい動きを感知出来ます」

「ふむふむ、私も機械の異常なら音で分かりますよ。仲間とのかたらいより、機械の点検を優先させてしまうほどです。これも職業病ですね」

「良いと思いますよ。お互い好きな仕事が出来て幸運じゃないですか。ところで、どんな御用でしょうか?」

 私の質問に、コロノイが何かに気付いた顔をした。

 流れ着く提供物資を見て、大声を出す。

「エルリル! ちょっと来てくれ!」

 格納庫から巨大エアロック内の制御をしていた船員が、手を振って応える。

 仲間に役目を引き継ぐと、持ち場を離れてコロノイの横へ並んだ。

「初めまして、動力班のエルリルだ。エルと呼んでくれ」

「ほ……星野 穂華と申します」

 尊大な口調に、困惑してしまう。

「あぁ……彼はこの口調が基本なので、気にしないで下さい。艦長に対しても口調が同じですので、ある意味平等な対応と言えます」

 コロノイが弁明でエルリルを庇う、尊大な口調は彼のなのだろう。

 本心から他者を見下していないのは、態度を見れば分かる。

「エルリル、彼女が星側の代表だ」

「やっぱり? なら、いくつか質問があるんだけど良いか?」

 尊大な口調と、態度が正反対だった。

 コロノイの後ろに隠れつつ、質問をしている。

「良いですよ。艦長を待っている間だけなら」

 イルム達は私の五メートルほど後方で、姉妹だけの会話をしていた。

「宇宙を体と着衣だけで飛ぶのです」

 こんな感じで時々こちらに聞こえている。

「まずは物資提供に感謝する。輸送方法は最悪だが、物資量と純度の高さには驚嘆きょうたんしている。遠投して来てるのは誰なんだ?」

「私の家族です。家族といっても血縁は無関係で、心の繋がりを重視した者達ですが」

 戦闘に参加出来なかった有樹と栗夢が、コスモスの指示を受けて、物資を宇宙空間へ押していた。

 キルトがこちらの搬入状況やエアロックの作動状態をコスモスに念話で伝え、コスモスが軌道きどうや慣性を計算して、押し出すタイミングを有樹と栗夢に指示している。

「そうか。こちらのエアロックの動作に合わせて物資が流れて来るから、魔力をうたがったよ。提供に魔力は使えないのだろう?」

「はい、浄化に来た私の行き帰りには使えますが、物資提供への魔力使用は星側から許可が出ませんでした」

 星の魔力は宇宙からの借り物。

 自分の力だと勘違いしたら、星の信任を無くす。

「後どのくらい来るんだ?」

「最後に植物が入った白色の大箱が来るはずです」

 金属と鉱物はスターフラワー造船時にアカが出し過ぎた余り物だ。

 植物は居住区画で余った苗木や種になる。

「そうか。俺からの質問は以上だ。ありがとな!」

 最後まで尊大な口調とコロノイに隠れる態度を見せていたエルリルが、持ち場へ戻って行く、体長二十五センチ、体高二十センチ前後の猫に似たエルリルは、口調とは違い恥ずかしがり屋のようだった。

 コロノイは私の方を見て、再度エルリルの弁明をする。

「エルリルは、初対面の相手が苦手なようでして、私が声を掛けたのも、彼に頼まれたからなんですよ。ご不快な思いをさせて申し訳ありません」

「いえ、私達は負の感情を嫌っていますし、混沌と比べたら、エルリルさんの態度は可愛いと思えます。あっ、でもこの事はご内密に、可愛いと言われる事を嫌う者もいるので」

「分かってます。可愛いと思うのは母性や慈愛から出ますからね。でも、男が聞いてしまうと、見下しと勘違いしてしまう。男は見栄っぱりで、体裁ていさいを気にする馬鹿ですから」

 コロノイは男でありながら、女性側の感性を理解出来るようだ。

 技術者で心に包容力を持つ男性は珍しい。

「コロノイ! 提供物資の振り分けを指示してくれ! シャーロットとアリススプリングスにどれを運べば良い?」

 私とコロノイが会話していると、格納庫の反対側から彼を呼ぶ声が響いた。

 ここから声の主までは、二百メートルは離れている。

「おっと、すみませんが、呼ばれましたので失礼します。物資提供のおかげで艦の修復も目処が立ちました。ありがとうございます」

 コロノイは私にお礼を言うと、慌ただしく駆けていく。

「お役に立てて良かったです」

 後ろ姿に声を掛けると、一度だけ立ち止まり丁寧なお辞儀を見せていた。



 航宙歴五百十七年四月九日 午後八時〇七分

「お待たせしてすみません」

 提供物資の最後、白色の大箱がエアロックに入る時に、ネフィア艦長が戻って来た。

 左右には、体高百十センチ、体長百三十センチほどのインコに似た船員が居る。

 頭部から胴体は黒色で、尻尾は白色、灰色の瞳を持ち、翼には銀色の細い線があった。

 艦長の背後にも船員が居るようで、姿は見えないが気配を感じる。

「パルフェ、フィミ、彼女がスターフラワーの代表者です。ご挨拶を」

 艦長の声に、私から見て左側の子が出て来た。

 六つある灰色の瞳が輝いている。

「パルフェです! よろしくお願いします」 

「フィ…………フィミです。よろしくです」

 右側の子は緊張していて、六つの瞳が泳いでいた。

 私は膝立ちの状態になり、パルフェの左翼とフィミの右翼を優しく掴む。

「星野 穂華です。パルフェさんフィミさん、スターフラワーに移住したいという事で間違い無いですか?」

「はい、審査はどうやりますか?」

「お……落ちないか、不安です……」

 私の声に、パルフェの質問とフィミの恐れが出た。

 私は彼女達の本心を見るキルトの念話を待つ。

 支配欲――独占欲――共に無い――スターフラワーへの乗船許可を出そう。

「星側からの許可が出ました。パルフェさんとフィミさんを、スターフラワーに移住させます。よろしくね」

 私はパルフェとフィミに抱き付く、短い驚きが私の両耳に届き、二体の体温が伝わってきた。

「穂華さん……失礼ですが百合に縁があったりしますか?」

 艦長の質問に少し思案し、周囲からの反応を伝える。

「えぇ……はい、知り合いからは、同姓に好かれる態度を取ると言われます」

「あぁ……やはり、パルフェ、フィミ、仲良くね」

 ネフィア艦長が声を掛けると、彼女達の毛色が黒色から灰色に変化している事に気が付いた。

 恋で毛色を変える乙女達――――恋色の種族か――珍しい生命と縁を結んだな穂華。

 キルトからは、不穏な念話が届く。

「はい、スターフラワーで一妻多妻いっさいたさいを目指します」

「あ……愛は、みんなで……分かち合う感情です……」

 パルフェの宣言と、フィミの感情論に私は既視感きしかんを覚えた。

 スターマインドに居た頃に、似た経験をした気がする。

「それならイルムと一緒に話し合うです。イルム達も穂華の愛に包まれるです」

 イルムの誘いに、パルフェとフィミが私の後ろへと移動した。

 五体の乙女が円陣を組み、黄色い声と言うより、桃色の声を出している。

「なんと言うか……ご愁傷様です。イルムとパルフェの種族は、抱き付きが結婚の意思表示なんです。イルムとパルフェ達が拒否すれば成立しないのですが…………不思議と受諾じゅだくしましたね。早く伝えておくべきでした」

 私には百合の才能があるらしい、スターマインドで慣れてしまっている百合の言葉に、私の心は抵抗を感じなかった。

「構いません。百合には慣れてますので……それに信頼されている方が、スターフラワーの生活を教えやすいと思いますし」

「それを聞いて安心しました。もう一名紹介したい仲間が居るのですが、良いですか?」

「はい、艦長の後ろの方ですよね。それは……ステルス迷彩ですか?」

 私の言葉に、艦長の背後が揺らぐ。

「いえ、我々の皮膚は可視光を任意で吸収出来るのです」

 艦長の後ろから、体長二百センチ前後の蜥蜴とかげに似た姿が現れた。

 頭部は赤茶色、首から胴体は紫色で、尻尾は青色に見える。

 薄橙色の瞳が私の目と合うと、威厳のある気配を彼から感じた。

「私は、キュルピと申します。我々の種族は平均寿命八百年とスフカーナの中では短い寿命の種族でしてな。私とこの子が種族で最後の生き残りとなるのです」

 彼は自身の背中を見る。

 体長七十センチ前後の、キュルピを小さくしたような子供が乗っていた。

「名をタイチアと言いましてな。自分の欲よりも、他者の幸せを願う心優しさを持っております。しかし、優しさは気弱さと勘違いされやすいもの。差別や嫌がらせを受けておりましてな。老い先短い身としましては、心配で仕事にならんのです」

「タイチアさんを保護して欲しいという事でしょうか?」

 私の質問に、彼の目が輝く。

「星側の許可が必要な事は知っております。まずはタイチアを審査してほしいのです」

 この少年――自己犠牲の思考があるな――彼の奥底に抑圧された支配欲を感じる――――これは――仲間の自由を奪う欲か――穂華――申し訳ないがこの者は駄目だ。

 キルトから初めて、拒否の念話が返ってきた。

 私はキュルピの顔を見て返事をする。

「星側から許可が出ませんでした。タイチアさんは自分の欲を、自己犠牲という抑圧で隠しているようです。彼には欲を開放出来る仲間が必要です。彼が求めているものは、愛情では無く、友情、そして自分を対等に見てくれる存在だと思います」

 境遇きょうぐうが、彼に我慢を覚えさせたのだろう。

 だが、我慢にも限界はある。

 支配欲を捨てられないのなら、発散するしか無い。

 ストレスが限界に達した先にあるのは、精神病や突発的な犯罪だ。

 西暦時代でも、カッとなって、我を忘れて、という犯人の言い訳があったらしい。

「そうですか……私は思い違いをしていたようですね。この環境から離せればと考えていましたが……必要なのは、思いを吐き出せる友達だったようです。ネフィア艦長、この子が対等に生活出来る子供達は居ますかな?」

 キュルピの目が、落胆から決心へと変わる。

 彼の中で強い意思が生まれたようだ。

「それでしたらノイノ孤児院に空きがあります。イルムの妹達が孤児院を抜けましたので」

 孤児院では体力や精神力で差が付いても、権力や財力での差は付かない。

 境遇が似た子が集まるという意味では、タイチアに最適な場所といえる。

「ではそちらにお願いします。良いなタイチア」

 キュルピに声を掛けられたタイチアが、私を見る。

「ありがとうお姉さん」

 私は、タイチアから出た、たった一言の言葉に、彼の本心が垣間かいま見えた気がした。



 航宙歴五百十七年四月九日 午後八時四十分

「取引だけでなく、運命相談までするような状況になってしまい、申し訳ありませんでした」

 別れ際、私を気遣うネフィア艦長に、笑顔を見せる。

「気にしないで下さい。私達の船は生命が少ないので、星側の許可を得られる生命が乗船するのは、大歓迎なんです。シャーロットとアリススプリングス、ナジェージタには星側の仲間になれる生命は居ませんでしたし……」

「星側が調べたのですか?」

「はい、スターフラワーには星の心が集結してますので、私がこちらを訪問している間に調べて貰っていました」

 シャーロットを大福が、アリススプリングスを最中が、ナジェージタをキルトが調べていた。

 この三艦には地球の生き残りの子孫が乗船している。

 地球を知らない世代になり、宇宙という環境が人口を減らしたようだが、支配と独占の欲は深く根付いていた。

 幸いにも混沌の気配は無く、魔力順応力も微少な人間しか居なかったらしい。

「混沌の気配は?」

「ありませんでした。ただ警戒は続けて行くべきだと思います。スターマインドも油断が原因で消滅しましたから」

 艦長には、スターマインドの顛末てんまつを伝えていた。

 太陽系消滅後に、スフカーナはスターマインドを探していたらしいのだが、発見出来なかったらしい。

 キルトの話しでは、フレリが星菜に生まれ変わる時に、航路を変え存在を隠したという事だった。

 結局、スフカーナが合流出来たのは、混沌から逃れられた三艦だけだった。

 生命側の思考や立場に、感化されては駄目な私達だが、故郷を知る者が少なくなるのは悲しい事に思える。

「分かりました。これからも、警戒は続けて行こうと思います」

「次の寄港先は決めてますか?」

 決意を示すネフィア艦長に、私は質問をした。

「いえ……この先の航路は未知の宙域ですので」

 返答を聞いた私は、キルトに念話で確認をする。

 教えるくらいは――良いよね?

 助言じょげんは欲とは無関係だ――お節介せっかいになると支配欲だが――航路を一つ教える程度なら――助言で済む。

「ここから知的生命体の住む一番近い惑星は、三千七百光年離れています。そちらで良ければ航路を渡せますが」

 キルトの許可を貰った私は、ネフィア艦長に提案をした。

 彼女の顔が一瞬明るくなり、不安そうに疑問を伝えてくる。

「それは願っても無い事ですが……よろしいのですか? 着く頃には私達は数十回の世代交代をしているでしょう。長命な種族が多いと言っても、最長で一千三百年の寿命です。着く頃には星側に敵対している可能性もあるのですよ?」

 最大速度が秒速三万キロである義勇軍は、世代交代が前提の、宇宙船を故郷とする種族だ。

 私は、艦長の心配を吹き飛ばすように宣言せんげんする。

「大丈夫です。義勇軍が星側に敵対したら、私達が浄化に向かいますので」

 そう言いながら、私は航路が入った情報端末を渡す。

 アカが作りすぎた五センチ四方の小さな記憶媒体だ。

「そう……その時はお願いするわね」

 情報端末を受け取ったネフィア艦長は、安心した顔を見せて、私から離れた。

「空気を抜きます。縁があればまた会いましょう穂華さん」

「はい、ネフィアさん。また後で」

 私の言葉に笑みを見せた艦長がエアロックを出る。

 厚い扉が閉まり、エアロック内の空気が吸引される音が響いた。

「さて、全員私の周りに寄り添って、私達の周囲だけ空気を囲むから」

 私の言葉に、少し離れて艦長との会話を見ていたイルム達が集まる。

「星の力は空気も固定するのです?」

「そうだよ。でも範囲は狭いから、しっかり密着してね」

 イルムの純真な質問に、私は笑顔で答えた。

 パルフェとフィミは、私の背中側に抱き付く。

「何処までもご一緒します。一妻多妻いっさいたさい大歓迎です」

「フィ……フィミも他の妻と仲良くします」

 返答に困る言葉が出るが、根が素直な子達だ。

 私の正面にはイルムが抱き付いて、その左右にイルムの妹達が居る。

 吸引音が聞こえなくなり、私達の周囲以外から空気が無くなる。

 真空中は音が伝わらない。

 物質へ直接接触しなければ、聴覚が役に立たない宇宙。

 そこへ繋がる巨大な扉が口を開ける。

 キルト――防衛魔力を展開するよ――星の信任がある限り私は不老不死だけど――この子達は違うから。

 宇宙空間は、電磁波と粒子放射線が駆け抜け、素粒子と複合粒子が疾走し、準粒子が動く、生命にとっては死の空間だ。

 許可する――新しい仲間を丁重に案内してくれ――。

 キルトの念話を聞いた私は、防衛魔力を展開し、エアロックから宇宙空間へと飛び出した。

「うぁぁぁ、本当に着衣だけで宇宙に出たです!」

 イルムの嬉しそうな声が届く。

 空気を囲んだ範囲だけに、音が伝わっていた。

 エアロックの巨大扉が閉じ始める。

 その奥の格納庫で手を振る船員達に、私達は笑顔で手を振りかえした。

 スフカーナの船員達は、作業着や軍服では無く、

女装を思わせる服装をしています。

 しかし、これは人としての価値観、つまり閉塞的なものです。


 例えば、 男 スカート とグーグル検索すると、スカートを

穿いた男子学生、スカートを穿いた一般男性の画像を確認出来ます。


 自分の価値観が、人間と世界の常識と思う方が、間違いなのです。

そう思うと、人間の価値観を、他種族に押し付けるのは、間違いだと気が付くと思います。


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