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魔化折衷  作者: 星心星道
11/32

星域環境(転 後半)

 この作品はフィクションです。

人間の価値観を否定するような文がありますが、

星や宇宙が主人公で、人間がサポート側の物語なので、

人間の常識が通用しない書き方になっています。


※実在する科学や信仰とは無関係ですので、照らし合わせての批判はご遠慮下さい。

※12月27日 一部訂正 資産→資源 など

※1月1日   矛盾修正 念話について矛盾があった為、修正しました。

        (念話の送信能力が無い者が、念話を送信していた矛盾を修正)

        その他、文書の追加など。

※2月11日  念話についての矛盾が残っていた為、修正。

        一部、地の文の表現を訂正しました。

※2月18日  念話に関して、地の文での矛盾を訂正しました。


※5月3日   宗教を連想出来そうな表現があった為、削除、訂正しました。

        この作品は、現実の社会や宗教とは無関係です。

        フィクションであると理解してご覧下さい。


※7月22日  地の文の訂正をしました。(一行削除、二行追加)


※7月29日  ・破裂した風呂敷の中で浄化されていく、艦船の中に戦艦を一隻追加しました。

         理由(矛盾になる可能性が大な為)

        ・義勇軍の退避速度を訂正

        ・星速(戦闘速度)の地の文を訂正

 航宙歴五百十七年四月九日 午後五時二十二分

 収縮。

 七色の巨大葉で出来た風呂敷が、球形の状態を保てずに内側へへこみ始める。

 空気の抜けたバレーボールのようになると、白色の光を放出し、その瞬間に破裂した。

 時空干渉の応用、質量干渉により、質量〇となったスターフラワーが秒速二十一万キロの亜光速で破裂の影響範囲を離れる。

 時空干渉で一秒を三億秒の体感時間へと延ばすと、秒速三十万キロの光速が、秒速一メートルの速度で認知出来た。

 光速を超えると、視覚は無力化される為、相対速度で秒速二十七万キロ程度が、視覚を利用出来る限界となる。

 私達は、再びコロナの中へ潜むと、破裂した風呂敷の方を確認した。

 駆逐艦と巡洋艦、戦艦一隻が、浄化され消えて行く中で、浄化出来ない巨体が動いている。

 時間が延びた世界で、混沌の戦艦が五隻動くのが感知出来た。

 秒速六十センチで移動しており、現実時間では秒速十八万キロ出ている事が分かる。

 栗夢、有樹、体感時間の低速化について来れてる――って――駄目か――。

 一秒を百万秒にまでは延ばせてるけど――それが二人の限界みたいね――。

 私の念話に二人は反応出来ず、代わりにコスモスが念話で答えた。

 義勇軍は秒速十センチで、恒星ヒギスから遠ざかっている。

 現実時間では秒速三万キロの速度だ。

 ヒギス――むらの調整は可能になりましたか――。

 現実時間で三十秒照射の――三十パーセント強化が限界――これ以上は核融合のバランスが崩れるから無理よ――。

 了解――陽葵――チーター――電磁波の用意――――琥珀はオオハクと協力してミラージュの準備――――手鞠はモミヤマとイレイズマントの展開準備――。

 私は念話で次の行動を指示した。

 音は音速を超えられない為、念話だけが頼りとなる。

 しかし、瀬名里達が出来るのは念話の受信だけだ。

 念話を送受信出来る私を中継して、星達に間接的に伝わる状態になっているが、音速を越えた状態では、瀬名里達の声は聞こえない。

 だから私は瀬名里達の魔力と気配で、行動を感知していた。

 三組がそれぞれの席で魔力展開の準備を始める。

 混沌側の戦艦は、二隻と三隻の集団に別れて、恒星ヒギスと惑星ジキバの方へ接近していた。

 ジキバ――防衛魔力を最大展開――ヒギスに接近する二隻を先に叩きます――。

 了解宇宙心――耐えきれる間に来てくれよ――。

 私の念話を受け取ったジキバが、惑星表面の耐久力を防衛魔力で強化する。

 ヒギス――接近する二隻にむらを集中――――陽葵――チーター――自己の判断で発動して――スターフラワーはコロナを抜け――二隻に肉薄します――。

 スターフラワーの移動と防御。

 双方を管轄する魔力が、私から出て行く。

 栗夢と有樹に任せていた操舵と索敵も私がする事になり、負担が増大した。

 コロナの外側、ヒギスから二十万キロの位置で停止した二隻が、艦首に魔力を集束して行く。

 ヒギス――今です――――。

 了解――宇宙心――むらの調整を開始――。

 私はヒギスの電磁波が二隻に届くのを確認してから、スターフラワーを現実時間で秒速三百万キロに加速させる。

 相対速度が光速以上の世界では、視覚(可視光線)は役に立たない。

 接近する者は距離すら測れぬほどに見え方が変わり、遠ざかる者は見えなくなる。

 だから私達は、星の魔力が伝えて来る意識体達の気配を頼りに、宇宙を超光速で駆け始めた。

 魔力や念話は超光速で移動する為、超光速では星の意識体達が放つ気配と情報が必須となる。

 星の信任無しでは、絶対になし得ない事だ。

 電磁波は、質量や重力、物質、相対速度の影響で、速度が変化してしまう。

 西暦時代の人間も、科学で光の加速や減速、停止に成功していた。

 ただしそれは、限られた環境の中でという話しになる。

 電磁波も物質である為、速度変化は宿命だ。

 宇宙でも、銀河にねじ曲げられる光、ブラックホールに吸い込まれる光、超光速で膨張する宇宙によって私達から見えていない光がある。

 では何故、光速が秒速三十万キロと言えるのか?

 それは、質量(重力)や物質の影響を受ける電磁波よりも、影響を受けずに飛来する電磁波の方が圧倒的に多いからだ。

 もし、宇宙に存在する恒星(光源)の数が少ない状態で、恒星の傍に大質量の存在があったら、光速が秒速三十万キロとは異なる宇宙になっているだろう。

 陽葵――チーター――エレクトロマグネテッィクウェーブ用意――。

 一秒を三億秒に延ばした体感時間の中で、質量〇となったスターフラワーが、超光速で二隻の戦艦艦首に肉薄する。

 姿勢と速度はそのままに、スターフラワーが戦艦二隻の側面を通過した。

 真空の宇宙では、側面を超光速物体が通過しても、接触しない限り影響を受けない。

 星の魔力により、質量〇になっているスターフラワーは、重力も〇の状態な為、戦艦に無干渉で側面を飛び抜ける。

 肉体を持たない混沌が、通過中にスターフラワーに乗り込もうとしていたが。

 超光速の船体を捉えきれずに、通過後の宇宙へ飛び出していた。

 陽葵――チーター――戦艦の艦尾にスライドと百八十度回頭で――スターフラワーの艦首を向けます――ヒギスの電磁波と陽葵達の電磁波が――二隻の戦艦で衝突するように放射して――。

 念話を送った私は、返答が来る前にスターフラワーをスライドさせた。

 スライドと回頭を同時に行い、混沌の艦尾を正面に捉える。

 肉薄してから背後に回るまで、体感時間で三百二十秒。

 現実時間だと、約百万分の一秒が経過していた。

 スターフラワーが止まった時に、チーターの念話が出る。

 エレクトロマグネティックウェーブ――。

 陽葵から赤色の二等辺三角形に魔力が流れ、そこから電磁波が放たれた。

 先にヒギスの電磁波を浴びていた二隻の戦艦は、身動きが取れずに陽葵の電磁波を背後から受けてしまう。

 琥珀――オオハク――スターフラワー艦尾にミラージュを展開――ジキバに向かう三隻をまどわして――。

 私の念話に、琥珀に心遣いするオオハクの念話が出る。

 琥珀――あなたに合わせます――タイミングを見てミラージュを――。

 ジキバに指向していた三隻が、こちらへと回頭を始めている。

 判断力の良い相手が、あちらに居るようだ。

 私は背後から飛来する攻撃を予測して、手鞠に念話を送る。

 手鞠――モミヤマ――――イレイズマントの用意――本艦の艦尾方向――ミラージュよりも内側に広げて――。

 ヒギスの電磁波と陽葵の電磁波が、戦艦の中央部分で交差する。

 一部は電磁波同士の衝突で消えてしまうが、衝突せずに通過する電磁波が多く、干渉により威力の高まる電磁波も生まれた。

 混沌の魔力砲を感知――ヒギス――電磁波で耐え抜いて下さい――。

 装甲表面が消滅を始めている二隻が、高密度に集束した混沌の魔力を放つ。

 すると、先ほどよりも濃い魔力が、ヒギスの強化された電磁波を押し返し始めた。

 ヒギス――電磁波のむらを十秒照射に短縮――七十パーセント強化にまで上昇出来ますか――。

 このままだと二隻に体勢を立て直される恐れがある。

 三百九十七万キロ後方の三隻は回頭中で、艦首に魔力の増大を確認出来た。

 九十パーセント強化とは言わないのね――。

 ロス(損失)が発生する事は知っています――百パーセント反比例する状態の方が――世の中では希少なほどです――――。

 ロスが限りなく少ないのは、星や混沌が持つ魔力と念話くらいだ。

 物質が変化するには、必ずロス(損失)を生む必要がある。

 ロスは、膨大な物質を制御し、過度な膨張を避ける手段としてフレリが作った物だ。

 背に腹は替えられないわね――オオハク――自転の不安定化と――核融合の乱れが予測されます――他星系からの魔力補佐を求めます――。

 良いでしょう――しかし安定化する最低限とします――くれぐれも他の恒星に依存しないように――。

 分かってます――混沌の浄化後は――安定優先で極小期へ移行します――さて――十秒間の輝きを混沌に見せますわ――。

 念話を終えると同時に、ヒギスは七割強化の電磁波を放つ。

 むらの強い(濃い)部分が集中して、戦艦二隻の魔力砲を押していく。

 混沌の魔力砲が、戦艦二隻の鼻先まで押されると、二隻が魔力放射を停止した。

 再び、ヒギスと陽葵の電磁波を同時に浴びる状態となり、魔力装甲の船体が消滅を始めている。

 混沌が防御に魔力を集中した――――琥珀――手鞠――魔力展開して――。

 二隻は攻撃に使う魔力を、魔力装甲に全て注ぎ込んでいた。

 魔力装甲の修復力が高まり、船体の浄化速度が遅くなっている。

 これは時間稼ぎだ。

 琥珀何時でも良いですよ――。

 オオハクが念話で伝えると、琥珀が魔力展開を始める。

 ミラージュ――。

 琥珀の発動に合わせて、オオハクの念話が出た。

 スターフラワーの底面部分、灰色の艦尾に魔力が伝わり、ジキバ方向からの視界を遮断するように魔力が宇宙へと出て行く。

 これは――電磁波の屈折による探知妨害か――。

 ジキバからの念話に、私が返答する。

 はい――西暦時代の蜃気楼の記録を参考に生まれた魔力です――――本来は可視光線が主体の屈折なのですが――星の魔力により――電磁波と粒子放射線の屈折が可能になっています――。

 一秒の体感時間が三億秒に延びた状態で行う、質量干渉と魔力展開の両立は、とても繊細で困難な作業だ。

 その為、慣れるまでは余裕が無くなる。

 魔力総量に余裕があっても、精神面への負担が大きい、時空干渉の基本により身体強化と治癒の常時発動をしていても、初戦という不安が過度な精神負担を与えていた。

 手鞠が魔力展開に入る。

 イレイズマント――。

 それに同調してモミヤマの念話が響いた。

 琥珀のミラージュ発動から、体感時間で三百秒、現実時間で百万分の一秒経過後に手鞠とモミヤマの魔力が発動する。

 琥珀と同じく灰色の底面に魔力が流れ、艦尾側の宇宙へ魔力が展開されていく。

 ミラージュと艦尾の間に広がったイレイズマントは、触れる物を消滅させ始めた。

 限定空間内の転移魔力ね――――転移先はブラックホールの事象の地平面内部かしら――消滅だと混沌の魔力を思い出すから――驚いたわ。

 陽葵と協力して二隻の戦艦を浄化しているヒギスから、本質を捉えた念話が届く。

 私達は全員――宇宙からの信任を得ている家族ですから――――有樹と栗夢以外はワームホールの力を借りる事が出来ます――。

 ワームホールの入口はブラックホール、出口はホワイトホールとなっている。

 私達の宇宙で言えば、ビックバンの発生地点がホワイトホール、超新星爆発後のブラックホールが新たな宇宙への入口だ。

 二十三番目に生まれた私達の宇宙は、ブラックホールの数が多く、複数の宇宙を星の魔力と物質が繋ぐ、宇宙の拠点になっている。

 私と美優は出番待ちですね――。

 うん――ラプラタは美優と一緒にもう少し休んでて――後方の三隻が強敵のようだから――その時にお願いする――――。

 前方の二隻は亜光速が限界のようだ。

 こちらの超光速移動と光速の電磁波に、攻撃か防御の二択で動いている。

 移動という選択を排除している時点で、 三隻の為の囮と推測出来た。

 陽葵の電磁波は、ヒギスの出力上昇に合わせて威力を上げており、魔力制御による手加減が出来ている。

 三隻の回頭速度――光速に近いわね――――。

 穂華――光速の常識には惑わされるなよ――――。

 うん――魔力と念話は超光速を出せるでしょ――。

 コスモスの分析とキルトの心配に、私は星側の常識を示した。

 混沌側はえて、光速に調整した魔力砲を放っている。

 本来は魔力砲も、レーザー(光速)以上の速度で放射可能なのだ。

 ヒギス――三隻からの攻撃はスターフラワーで防ぐので――陽葵と一緒に電磁波放射を続けて下さい――。

 あなたを信じるわ――宇宙心。

 ヒギスの返答を確認した私は、アカへと念話を送る。

 アカ――ウイングカーテンの維持は出来そう?

 えぇ――瀬名里なら――まだ大丈夫よ――ただ余裕は無いみたい――。

 分かった――アカ――瀬名里の体調に変化があったら私に教えて――。

 えぇ――すぐに伝えるわ穂華。

 ウイングカーテンは、混沌の魔力を弾く防衛魔力の一種だ。

 混沌に対して強固な防御力を発揮するが、維持の為には魔力消費と魔力制御の継続が必要になる。

 魔力総量が増えた瀬名里達にとっては、微々たる量だが、初めての環境で精神側への負担が大きかった。

 穂華――本当に後ろの三隻が超光速を出せると思う?

 ロゼイナと別行動を取ってるし――艦隊を組んでいる以上――超光速の実力者は必ず居る――――もし違うのなら今頃私達は蹂躙じゅうりんという支配欲に該当しているはずだし――。

 最中の疑問に私は結果論を伝えた。

 相手の実力に合わせた浄化戦が必須の私達は、接触と同時に相手の総合力を判断する。

 過大判断は蹂躙、過小判断は油断という敗北に繋がる為、私の行動に浄化戦の勝敗が委ねられていた。

 今、私達の肉体は微弱な電気信号の代わりに、超光速の星の魔力が動かしている。

 常に治癒魔力と強化魔力を発動しながら、自らとスターフラワーの質量を魔力で〇にして、浄化魔力と防衛魔力で混沌と戦う。

 西暦時代の記録にあったワープとは程遠い現実を、私達は経験していた。

 前方の混沌二隻――七割浄化――手を緩めないで――。

 亜光速が限界の二隻で、こちらの戦力を調べている三隻に私は警戒する。

 瀬名里が前方と側面を、琥珀と手鞠が後方を、私が全周を防衛魔力で守っているが、美優のエレメントアートを破壊した事実を考えると油断出来ない。

 穂華――体感時間を三千万倍に緩めてはどうじゃ? 三億倍の世界では一秒が長すぎるじゃろうて――。

 それは駄目だよ大福――――相手は亜光速移動出来る仲間を囮にしてる――駆逐艦や巡洋艦は義勇軍が間接的に浄化可能なほどだったし――混沌は戦力誤認を私達にさせようとしている――。

 宇宙での艦隊戦の場合、艦船の種類で攻撃、防御、機動、速力に差が付くと判断されやすい。

 でも、この常識は人間や知的生命体の価値観だ。

 特に混沌側の能力差が大きい現状だと、この常識に思考が偏りやすい。

 混沌側の強者は、仲間を犠牲に出来る策士のようだ。

 穂華の言う通りよ――ワームホールを管理する貴方が混沌の手の平の上で踊らないで――大福が消えたら――――私やワームホールも消えるのよ――。

 最中の心配する声が、念話となって大福へ伝わった。

 超高密度の星の魔力で守られたワームホールにも弱点がある。

 それは、人間で言う心や魂、精神を司る星の意識体だ。

 肉体が頑丈でも、心が弱ければ混沌に消される未来が訪れる。

 その条件だけは、知的生命体と星の意識体の双方が、平等な立場といえた。

 すまん――穂華――心が甘かったようじゃ――――後でキルトに鍛えて貰うとするわい――。 

 大福――手加減はせぬぞ――お前は自制心を養うべきだ――。

 そうじゃな――よろしく頼むキルト――。

 大福とキルトの念話に返答しようとした私は、不穏な気配を掴む。

 スターテリトリーと星の魔力が、混沌側の変化を私に教えて来る。

 ! 後方三隻の動きが加速――――これは超光速!

 私の念話で、スターフラワーの操縦区画に緊張が走った。

 延びた体感時間の中で、三隻の回頭速度が秒速五メートルに増大している。

 現実時間では、秒速百五十万キロの回頭速度になる。

 こちらヒギス――二隻の方は浄化を終えるわ――――後の事は頼みます――。

 了解ヒギス――三隻はこちらに任せて下さい――――陽葵と瀬名里は時空と質量の干渉のみに集中――――琥珀――手鞠――超光速の魔力砲が来るから防衛魔力に集中して――――音穏はグラースダストとバブルミサイルの用意――――美優はスペースキャンバスで前面と側面の防衛――魔力砲が来たら――こちらも動きます――。

 囮だった戦艦二隻が完全に浄化されると、陽葵の電磁波が消え、ヒギスも恒星としての活動を、極小期へ移行する。

 三隻がスターフラワーを指向して魔力砲を放つのと、スターフラワーが艦尾を向けたまま三隻に突撃を掛けるタイミングが一致した。

 時空と質量の干渉度合はそのまま――秒速一千キロで魔力砲を受け止めます――。

 混沌の魔力砲が三つ、渦を巻きながら秒速二百キロでスターフラワーに接近する。

 現実時間で考えると秒速三千億キロのスターフラワーが、秒速六百億キロの魔力砲に艦尾を向けたまま突っ込む構図となった。

 現実で一秒にも満たない攻防が、体感時間では数十分の長い時間となる。

 有樹と栗夢は、草木の生長を思わせるほど動きが緩慢で、百万秒の体感時間に居る二人と、三億秒の体感時間に居る私達に明確な違いを生んでいた。

 


 精神魔力空間(感覚喪失空間)

 琥珀のミラージュが混沌の魔力砲を減衰させ、手鞠のイレイズマントが弱った魔力砲をワームホールへと転移させていた。

 五感が無力化された体感時間の中で、私は星の魔力と気配のみを頼りに、超光速でスターフラワーを後進させる。

 混沌が放った魔力砲を突き抜けながら、発射元である三隻の戦艦へ接近していた。

 穂華――どうするの?

 自転しながら混沌を基点に公転――音穏の浄化魔力で三隻を狙います――美優はスペースキャンバスで前面と側面の防衛――――念の為私も浄化魔力を用意します――。

 コスモスの念話に、私は次の行動を示した。

 戦艦三隻は横に並んだ状態で、艦首をこちらに向けている。

 側面に移動する事で、三隻同時攻撃を防げる上に、相手の意表を突く事も可能だ。

 美優――ラプラタ――スペースキャンバスを側面に集中展開――。

 三隻の内、一隻が横へ大きくスライドした。

 接近しているスターフラワーの、側面を狙っている。

 私は念話を送ると、瞬時にスターフラワーを脅威とは逆方向へスライドさせた。

 ラプラタはイメージしやすい絵を考え、今朝の絵描きを提案している。

 美優――イナニアのうろこまといましょう。

 ラプラタの念話を聞いた美優が頷く気配を感じた。

 イメージが明確であるほど、絵は早く実体化しやすい。

 緑色の二等辺三角形に、美優とラプラタの魔力が伝わる。

 すると、プリズムの化粧がスターフラワーの側面を覆い、横からの脅威に身構えた。

 私は魔力砲の範囲から抜けるタイミングで、音穏へ念話を送る。

 音穏――前方の二隻にバブルミサイル発射――側面の一隻にグラースダスト展開――。

 私の念話に反応した音穏が、魔力の展開を始める。

 音穏の魔力に、ツキノワの魔力が同調すると、ツキノワから念話が出る。

 誘導はこちらに任せなさい――音穏は質と量の制御を――この三隻に生半可な浄化は通用しません――。

 念話を聞いた音穏が、魔力の質と量に制御を集中させていく。

 残りの一隻がスターフラワーの側面を狙い強襲を掛けて来ていた。

 魔力砲を気にも留めずに、スターフラワーを突こうと横に迫る。

 そこです――グラースダスト――。

 ツキノワの念話と共に、音穏とツキノワの魔力が出た。

 水色の二等辺三角形から出た浄化魔力が、強襲を掛ける一隻を包む。

 液体と固体の粉塵が勢いを削ぎ、側面を狙った戦艦は、仲間の魔力砲を自らの船体で邪魔する状態になっている。

 今です音穏――バブルミサイルを。

 ツキノワの念話を受けた音穏が、水色の二等辺三角形から、魔力で出来た泡のミサイルを撃ちだした。

 魔力である為に、超光速で二隻を捉え、泡を炸裂させていく。

 炸裂した泡からは、七色の蛇が現れて、二隻の戦艦を巻くように締め始める。

 すると魔力砲が止まり、グラースダストに包まれた一隻が姿を現わした。

 やっと波長があった――超光速なんていつの間に習得したの? スターマインドでの戦闘情報には無かったわよ――。

 前方の二隻が蛇に圧迫され、魔力装甲が浄化されていく中で、その念話は冷静な口調を維持していた。

 声はロゼイナと異なるが、口調が似ている。

 私達は――ロゼイナゼロ――フレリの魔力と記録を受け継いでますから――――求められるのは――肉体と精神の慣れだけです――――未経験未習得の者よりは――格段に早く扱えるようになります。

 ただし、練習無しで時空干渉の基本と質量干渉の応用を維持している影響で、心への負担が大きい。

 持久戦になったら、瀬名里達の精神力が持たないだろう。

 無心無道――奇襲に失敗したのなら――さっさと中を見せなさい――戦艦の外見じゃ無の特徴を活かせないでしょ?

 貴様に言われるまでも無い――――ゼキナイレブン無心無道――これより消滅戦に入る――全ては無の再生の為に――。

 私も仕掛けるわ――この蛇――制御は完璧だけど――――威力不足だし――。

 蛇に捕らわれた二隻の内、右側の戦艦は灰色の発光に包まれて消えたが、左側は表面が浄化されるだけだった。

 蛇を引き千切るように、戦艦に隠れていた兎が姿を見せる。

 グラースダストに包まれた戦艦からは、豹が這い出しスターフラワーに殺気を当てていた。

 全員――浄化魔力と防衛魔力の展開中止――時空干渉と質量干渉に専念して――――私がこの二体を浄化します――。

 良い判断ね――ロゼイナイレブンが気に入る訳だわ――。

 命蛭やひる 舞衣花まいか――三百四十八年前に超光速を習得した未熟者が――ロゼイナに敬意を払わない口調を止めろ――。

 感情の無い念話で言われても説得力が無いわ――無心無道――――今の私でもロゼイナの称号持ちには敵わないけど――ゼキナの称号持ちになら相討ち出来るわよ――。

 一秒を三億秒に延ばした体感時間に、二体の混沌が同調しながら内輪揉めをしている。

 念話は体感時間がずれると聞き取れない。

 低速再生や倍速再生のように、体感時間の差が広がるほど念話不能となる。

 つまり二隻(二体)にとっては、今までがお遊びだったという事だ。

 キルトは、私を労るように念話を出してくる。

 負担を掛けてしまうな穂華――まさか短期間で星速せいそくの領域と浄化戦になるとは――。

 アカ――ハシブト――ツキノワ――チーター――ラプラタ――オオハク――モミヤマ――寄り添う家族を星速せいそくに集中させなさい――私達は無速むそくの使い手に立ち向かう穂華をサポートします。

 続いてコスモスの念話が伝わり、アカ達が静かに頷く気配が届いた。

 そちらでは無速の事を星速と呼ぶのね――――ロゼイナイレブンには悪いけど――フレリの魔力に完全順応する前に――消えて貰うわ。

 無の天敵――――原子すら残さず消えろ――。

 全長一キロの兎と豹が消える。

 今の体感時間では反応出来ない速度で、二体の混沌が動いた。

 一秒を三兆秒に延ばす――全員合わせて――。

 三億秒よりも一万倍に延びた体感時間。

 光速が秒速〇コンマ〇一センチとなる星速(無速)へ私達は突入する。

 フレリの力を借りる私達は、けいがいの単位にまで体感時間を遅くする事が可能だ。

 ただし、繊細な魔力制御に瀬名里達はまだ慣れていない。

 現状では、干渉のみに集中して、ちょうの単位が限界だろう。

 瀬名里達に余裕は無い、星速は意識体達が戦闘速度と認識している日常では出さない浄化戦と超光速移動専用の速度だ。

 一秒が三兆秒に延びた瞬間に、私はスターフラワーを前進させる。

 結果的にヒギスに戻る進路を取ったスターフラワーの後方を、兎と豹が貫いた。

 逆に同調して来るなんてね――おかげで刺し花に出来なかったわ――。

 後少し遅ければ噛み砕いてやったものを――。

 体感時間の変更が少しでも遅れていたら、スターフラワー表面の防衛魔力に直撃していただろう。

 無速の領域を従える混沌は、不満を念話で伝えて来た。

 大福――最中――ドッグファイト用意――兎と豹の牽制を頼みます。

 灰色の底面を魔力が伝わり、スターダストの後方に灰色の星雲が出現した。

 星雲は瞬く間に五芒星と艦船に変わり、衛星のようにスターフラワーに随伴する。

 無速の世界へようこそ――フレリの後継者――私はね――無で最強だったロゼイナゼロ無空のフレリが裏切った事実が信じられないの――――後継者は何か聞いてる?

 裏切った事を後悔はしてませんでしたよ――最後の別れ際には晴れやかな感情も伺えました――舞衣花さんは――物質世界に魅力を覚えませんか?

 浄化魔力を展開しながら、混沌の念話に私は答えた。

 三兆秒の体感時間で、混沌は心への揺さぶりを掛けて来ている。

 興味無いわね――無の意識体は物質と時間の無い世界で永遠を生きていたのに――宇宙の中では物質が時間の概念を作り――星の意識体でさえ死ぬ存在となった――――私は無に生まれた事に感謝しているわ――――無の意識体として永遠を過ごせるのだから――――永遠の無を侵食する宇宙は――私達の敵なの。

 危険を察知した私は、前進するスターフラワーを急停止させ、右へのスライドと右九十度回頭を同時に行う。

 ヒギスを左にジキバを右に捕捉する位置でスターフラワーを停止させると、圧縮された無の魔力が、本来の未来位置を縦横無尽に駆け巡った。

 無心無道――気配の無い長所が死んでるわよ――相手を二度も逃すなんて初めてじゃない――。

 無速のヌルショットをその巨体で躱すとは――――。

 一秒を三兆秒に延ばした体感時間で、秒速一キロで艦を動かすと、現実時間では秒速三兆キロで艦が動いている事になる。

 魔力や気配で感知する動きは緩慢になるが、現実の動きは電磁波よりも遙かに速い。

 そのギャップが極大になるのが星速(無速)の特徴だ。

 ここは恒星の傍――星の魔力が濃い宙域で――――気配の無い存在は――逆に目立ちますよ――。

 その余裕――とても人間とは思えん――――本当に人間か? 

 私の助言に、無心無道と呼ばれていた男の声が、感情を感じ無い疑問を出した。

 私はジキバ方向に艦首を回頭させながら、無感情の相手に返答する。

 私は意識体と人間のハーフですよ――――肉体の八割も星の魔力で構成されています――人間の肉体を得た星の意識体と言っても良い者です。

 そう――――だから気配がフレリに近いのね!

 正面から兎が飛び跳ねて来た。

 三兆秒の体感時間の中を、秒速十キロで突入してくる。

 大福――最中――舞衣花の進路を塞いで――。

 ベールクトで正面に膜を作る――大福はトムキャットで側面に膜を貼りな――。

 戦略じゃな――のったるわい――。

 全長二百三十メートルの前進翼が五機、スターフラワー艦首の百キロ前方へ灰色に輝く球体を射出した。

 スターフラワーの側面では、全長百九十メートルの可変翼が左右に三機ずつ分散して、スターフラワーの側面を囲うように無数の球体を放つ。

 魔力で出来た艦船が、浄化魔力や防衛魔力を展開する。

 星速(無速)の戦闘方法が、魔力や気配から探知出来た。

 西暦時代は戦闘機と呼ばれていたらしいけど――これだけ巨大なら艦船と言っても――差し支えないわよね――穂華。

 うん――百パーセント星の魔力で出来ている上に――約十倍の大きさだから――戦闘機とは言えないよ。

 最中の念話に、肯定の意思を返す私、スターフラワーの艦尾にはイーグルとジュラーブリクが随伴して、兎の強襲に備えた。

 無心無道――剣に零を纏わせて斬撃しなさい――この後継者に死角は作れないわ――。

 その手があったか――次の連撃に懸ける――舞衣花お前の十八番おはこを見せてやれ――――。

 言われなくても――正面突貫してるわよ!

 前方百キロに展開された球体に兎が突入した。

 接近した混沌の気配に球体が反応し破裂する。

 高濃度の星の魔力が星速で広がり、兎の突入速度が秒速五キロへ下がる気配を感じた。

 私はスターフラワーの全周に浮遊随伴させていた五芒星の形状を持った魔力を動かす。

 スターダスト――モードソーラーシステム――集束射撃体勢――キルト――コスモス――防衛側のスターダストをお願い――。

 引き受けるわ――右半周を私が守ります――――キルト左半周を――。

 心得た――夫婦の結束を見せるぞコスモス――。

 えぇ――穂華の為にも死角は作らないわ――。

 攻防一体の浄化魔力であるスターダストは、星の魔力特性を強く反映させている。

 浄化では、五ヶ所の凸部分から高濃度の魔力を集束して撃ち出すミクロと、五ヶ所の凸部分を一点に合わせて放つメゾ、複数のスターダストで高濃度魔力を広域に撃ち出すマクロがあり、利便性と浄化能力は高い。

 防衛では、複数のスターダストが五ヶ所の凹部分から扇状に高濃度魔力を出して、防衛対象を包むように魔力の膜を形成する。

 能力が高い為に、星速(無速)の実力を持つ相手にしか使えない弱点を持つが、光速や超光速を凌駕りょうがしてくる存在には有効な魔力だ。

 スターダストメゾショット――――当艦への接近はお断りします――舞衣花さん。

 私は中規模の浄化範囲と中間の威力を持つ魔力砲メゾを、減速した兎に放った。

 前進翼からは継続的に球体が射出されて、兎の侵攻を阻害している。

 球体の足止めと――魔力砲の押し返しが厳しいわね――。

 念話を出した兎は、スターフラワーの右側面に押し出される状態となった。

 しかし、突撃を止めない兎は、顔と前足をこちらに向けたまま、艦尾側に滑って行く。

 この魔力濃度――フレリの後継者だけじゃなくて――――星側の王や側近が協力している? それほど――欲に溺れる人間が大事だと言うの――。

 人間は千差万別じゃ――それに支配と独占以外の欲もある――スターマインドでは敗北したが――――我々は星に同調出来る家族を得られた――今の儂らは娘に消せるほど弱くはないぞ。

 大福のトムキャットが放った無数の球体が、舞衣花の突撃を相殺している。

 念話で返答した大福に迷いは無かった。

 そう――だったらそちらの結束を試させて貰うわ――敢えて艦尾側の囮に突入してあげる――。

 右側面を流れるように通過した兎が、スターフラワーの艦尾へ回り込もうとした時、それは来た。

 良い目立ちっぷりだ――おかげで易々と斬込める。

 相手の念話と共に危険を感知した私は、念話を出す。

 大福! キルト! 左側面――斬撃が来る!

 遅い――。

 短い念話と同時に灰色の球体が両断された。

 斬られてない他の球体が炸裂するが、高濃度の魔力を払うように、巨剣がスターフラワーに迫る。

 ぬぅぅぅ――更に速度を上げて来たか――――ゼキナの称号を甘く見ていた。

 キルトの念話が響く中、左側面に展開していた三機のトムキャットが斬り裂かれた。

 爆発では無く、霧状に霧散して三機が消滅する。

 地球のように消してやる――。

 ――させるか!

 体感時間で秒速六十キロの斬撃と、キルトが操作するスターダストが衝突した。

 お互いの魔力が反発して、魔力の衝撃波が生まれている。

 大福――キルトを援護に行きなさい――。

 いや――儂らは尻狙いの娘に集中じゃ――。

 最中と大福の警戒が、舞衣花に集中した。

 それを確認した兎は、念話を出しながらイーグルとジュラーブリクを威圧する。

 良い判断ね――囮が弱いとは限らないわよ――。

 そうね――――強いけど――非常識空間には付いてこれる?

 舞衣花の念話に最中が答えると、兎の進路に異常が起こった。

 酔っ払いのように動きが安定せず、ふらふらとスターフラワーの艦尾へ向かって来る。

 最中のコモンセンスブレイクを喰らってまだ向かって来るか――。

 逃がしたら危険ね――大福あれを――。

 そうじゃな――。

 面白い魔力ね――――お礼に最終加速を感知させてあげる――。

 兎が三兆秒の体感時間でぶれた。

 秒速百二十キロの兎が、鷹と鶴を跳ね飛ばしていく。

 速いわね――スピードだけはゼキナを超えてるかしら――。

 だがそれだけじゃ――速度だけでは戦略には勝てん――。

 何を余裕こいてるの? 艦尾から大花を引き裂いてあげる――。

 スターダストの居ない防衛魔力のみの艦尾に、兎の爪が迫る。

 だが、接触まで数十メートルで兎の足が止まった。

 何これ――――感じる気配より――――遙かに高密度の魔力――――ありえない――ロゼイナゼロの魔力を――人間如きが収められるはずが無い――。

 驚愕と罵倒の念話を出す舞衣花に、無数の槍が突き刺さった。

 な――さっき破壊したはず――。

 兎の後方を、イーグル七機とジュラーブリク八機が囲んでいる。

 浄化魔力を受けた事実よりも、倒した相手が無傷な事に舞衣花は動揺していた。

 動きの止まった兎に、最中と大福が念話を送る。

 倒してたわね――デコイミラージュのまぼろしを――。

 五感が使えぬ星速では――魔力と気配で相手を探知するのが基本――――お主は基本は完璧じゃが――表面だけで内面の魔力を感知出来てないのぅ。

 斬撃している方は――内面を感知出来ているようよ――――隙を探って動いてる――。

 そう――なら一旦退いて態勢を――。

 それも無理じゃな――既に浄化は終盤じゃ――。

 後継者の浄化能力を甘く判断しているのね――。

 舞衣花の念話に、大福と最中の憐れみが返った。

 異常とも思える浄化速度に、舞衣花は悪寒を覚える。

 こんな事なら――ゼキナの指導を真面目に受けるべきだったかしら――。

 呟くように出た後悔と共に、兎の形状が崩壊し、舞衣花は灰色の魔力に包まれた。


 歴代最高水準の浄化速度――無速の中でロゼイナゼロを超えうる可能性に出会うとは――――全てのロゼイナとゼキナにこの情報を送らねば――。

 無表情で繰り出す斬撃の嵐の中で、無心無道は舞衣花の浄化を冷静に分析していた。

 浄化と消滅は、コインの表と裏のような関係だ。

 対象が、物質か混沌の意識体かと言うだけで、大きな差違は無い。

 フレリ、元ロゼイナゼロが生んだ宇宙という因果が、星の意識体と混沌の意識体に差異を生んでいた。

 リコリスが太陽系を消滅させた時よりも速い浄化速度は、混沌側の最高戦力ロゼイナワンでさえ、警戒すべき速度と思える。

 感情を覚えぬ無心無道の手に鳥肌が立ち、それが恐怖であると彼はすぐに理解した。

 斬撃に迷いが生まれたな――――そんなに我らが希望が気になるか?

 裏切り者は――ゼロを踏み越える実力者を生んだようだな――――混沌への招きがいがある。

 穂華は我ら星の家族だ――――簡単には支配と独占を持たぬぞ――。

 豹がくわえた大剣が、キルトが操作する無数のスターダストと何度も激突する。

 ヒギス星系全体が揺れるほどの衝撃波を生みながら、無心無道は疑問を発した。

 大花表面の防衛魔力は多層構造か――内面に行くほど強固となるようだが――――何層まである?

 それを混沌に教えるほど――星の代表であるわれが――短絡的だと思うのか?

 混沌側は敢えて、相手に負の感情を抱かせるような発言をする。

 キルトは心を乱さずに、無心無道に疑問を返した。

 さすがだな――精神面の切り崩しは困難か――。

 秒速百キロに増速した豹が、秒速百十キロの五芒星に進路を塞がれる。

 無心無道――その実力ならば――こちらの内面の魔力を感知出来ているのではないか――――舞衣花のような突入を何故繰り返す?

 蹂躙防止の為の加減戦闘か――――ならば貴様の予測を超える動きを見せるまで――。

 一秒が三兆秒に延びた世界で、豹の気配が止まる。

 キルトが警戒し、スターダストの動きを停止させた瞬間に、背後で防衛魔力が損傷する気配が届いた。

 ロストソードとゼロワールドの融合――とくと味わえ――裏切り者の後継者よ――。

 本体の豹はスターダストの前に居るのに、攻撃だけが防衛魔力に直撃している。

 これは転送魔力か――いや――それなら気配で分かるはず――。

 キルト大丈夫? ――私かコスモスのスターダストを送ろうか?

 いや――今動かすのは危険だ穂華――艦首も右側面も隙を作る訳にはいかない――大福――最中――そちらは艦尾から動くなよ――このゼキナは異質な戦法を使用している。

 思案するキルトに、私が念話を送ると、未知への警戒心を抱えたキルトの念話が返って来た。

 艦尾から動こうとしていた大福のイーグルの気配が、キルトの念話に動きを止めている。

 五千層突破――――この厚み――発動者が人間とはとても思えん――。

 無心無道の念話が出ると、停止状態の豹に無数の線が生えた。

 防衛から浄化に移行したキルトのスターダストが、ミクロでの魔力砲射撃を当てる。

 数百の魔力砲が豹に当たる気配が届くと、豹の形状を維持していた混沌の魔力が消え、浄化されていくのを感じた。

 その体はむくろ――さて――そろそろ正体を理解せねば――大花が無惨に微塵斬みじんぎりになるぞ――。

 それは無い――――宇宙心はもう――そちらのカラクリを理解している。

 無心無道の警告に、ハシブトの念話が返った。

 無心無道の無気配無魔力の斬撃が、七千六百層で止まる。

 茶色の二等辺三角形から出た巨大な霊体の手が、存在の無い斬撃を止めていた。

 花菜――八伸様――ありがとう――混沌の魔力では無く――霊体による転送斬撃これを止めるには大元おおもとを絶つ必要がある――――斬撃の方はお願い花菜――ハシブト。

 星速に霊体は追い付けない。

 そんな思い込みが、キルト達の思考を固くしていた。

 任せて下さい――可能性に気付いた四体にお礼を――おかげで私と花菜――八伸様が浄化戦に参加出来るのですから――。

 ハシブトの念話が、私の幽体に響く。

 私自身もキルトが豹に魔力砲を当てるまで、霊体の特徴と意識体の特徴が似ている点を失念していた。

 それを教えてくれた四体の霊体に私は念話を送る。

 優衣ゆい――真衣まい――氷柱つらら――千香ちか教えてくれてありがとう――――おかげで大元を浄化出来るよ――。

 私と同調する四体は、星の魔力により念話の送受信が可能になった。

 私の一部として融合した彼女達は、私を経由して星の魔力が使える。

 穂華は私達の家族であり新たな故郷――それを消そうとするのは許せないもん。

 穂華が消されたら――優衣からの突っ込みが無くなる――天然の私を制御出来るのは優衣と穂華くらい――だから必ず守る!

 優衣の冷静さと真衣の元気が届き、私の心は温かくなった。

 千香は穂華に助けて貰ったからね――穂華を絶対に守るの!

 氷柱は穂華の温和で優しい心が好き――――だから氷柱は穂華を保護する。

 千香の元気な念話が伝わり、氷柱の素直さが出ると、私の中で幽体に抱き付く四体の気配を感じた。

 肉体を無くした時期が若かった影響で、彼女達は甘え心を頻繁に感じさせてくれる。

 私の中で信頼と愛情が育つように感じて、嬉しい気分になれた。

 さぁ――混沌に協力する霊体を叩くよ!

 私は遙か遠方から防衛魔力を斬撃する霊体を逆探知する。

 小織こおり――輪廻羅網りんねらもうで混沌に組する霊体を捕らえる――――隠世かくりよを守る為に協力して――。

 小織の意識体は常に隠世(常世)を管理している為に、私の傍に居ない、その為念話で情報共有や意思確認をする必要がある。

 良いわ――常世とこよと輪廻に抵抗する愚か者を浄化して――地獄で灸を据えます――――土や草が喋り――岩や鉱物が騒ぎ――水や炎が踊る常世は――その者には苦痛となるでしょう――。

 本当の地獄とは人間の記録とは違う。

 隠世には生命の霊体だけでなく、物質の意識体も集う、地獄とは亡くなった生命が意識体の発言を直接耳にしてしまう空間である。

 人間は物や動物、神などを人間に近い容姿にしてしまう、擬人化という癖があった。

 人間の想像が、宇宙に存在するという考えは、人間の偏見であり、悪い癖だ。

 人間が一番優れているという優越感が、これらの癖を生んでいたのだが。

 支配欲や独占欲に連なる感覚である為、星の意識体と協力する現在は禁忌になる。

 生きている時でさえ、喧騒に心が滅入る事がある、霊体だけでなく意識体の声を聞いてしまう大音量空間は、精神が磨り減る地獄と呼べるだろう。

 輪廻羅網――。

 私と小織の念話が重なった。

 六万五千五百三十五ヶ所全ての宇宙に、霊体と意識体の情報網が伸びる。

 霊体と意識体を介した検索と捕獲、それが輪廻羅網という魔力の正体だ。

 宇宙全体では一秒に那由多なゆた(十の六十乗)の生命と物質が誕生している。

 そして一秒に不可思議(十の六十四乗)の生命と物質が亡くなっていた。

 宇宙に物質の無い空間が現存する要因がこの差であり、宇宙の膨張を止めようとフレリが作った因果の一つになる。

 私達は、意識体や霊体が送ってくる情報を纏めて、斬撃を出す大元を確認した。

 二十三番宇宙――――ヌピュテリオン星系――惑星ミポエから百四十万キロの宇宙空間――穂華――捕らえちゃって。

 小織の念話を受け取った私は、転送魔力を発動する。

 四体の霊体が私の幽体から出て、ヌピュテリオン星系に繋がる転送魔力に包まれた。

 私はヌピュテリオン星系に転送された四体の霊体に星の魔力を繋ぎ続ける。

 そうする事で、彼女達を星速の体感時間に同調させる事が出来た。

 真衣――風で囲んで――千香は風に炎を纏わせる。

 了解! いっくよぅぅぅ――ストームボール。

 炎の演舞――ループフレイム! 

 花菜の八伸様と同様に、宿主の魔力を借りた真衣と千香の連携が大元を囲む。

 これは――後継者の魔力! まずい――逃げられん!

 捕捉されるとは考えて無かったのだろう。

 同じ星速の体感時間に居たのに、無心無道の霊体は反応が遅れた。

 現実時間と同じく、数秒の遅れが致命傷になる事は多々ある。

 霊体で混沌の幹部に所属する者が居るとは思いませんでした――――隠世の管理者が無心無道に興味を持たれてますので――――ご案内します。

 これは――後継者の念話か! 断る――私は無へ向かう――。

 混沌の魔力を持ってスターフラワーを攻撃した無心無道は、この霊体が遠隔操作していた偽物だった。

 無感情だったのは本体が違う宙域に居た為で、この霊体からは焦りと恐れの感情が出ている。

 氷柱――氷像にして――――優衣は優しく痺れさせて。

 私の念話に氷柱と優衣の気配が動いた。

 氷柱が先行して念話が響く。

 いきます――ゴーストスカルプチャー――。

 無心無道を包んでいた風が消え、炎が霧散すると、入れ替わりで無心無道の霊体が氷始める。

 馬鹿な! 霊体の状態で氷結するなど――。

 予想外の行動をしたから――こちらも予想外の魔力を見せる――私達は支配や独占の欲は持てないけど――混沌と混沌側の生命を浄化する因果をフレリが過去に作っている――だから混沌の意識体や無心無道を浄化する事は――――支配欲や独占欲に該当しない。

 なっ! 私の思考を先読みしたのか――。

 無心無道の驚きに、私が星側の立場を返すと、畏怖の感情が返って来た。

 彼の霊体は全身が凍結している。

 しかし――後継者のお前は生命体で私を浄化するのは霊体だ――私をこの状態に追い込んで支配欲を抱かぬはずが無い!

 戦争の時、敵に対しては命を奪う支配欲が生まれ、敵の資産を奪う独占欲が生まれる。

 でもそれは、星の信任を得ていない生命の価値観だ。

 それを常識と思う事が間違いで、戦っていても支配と独占の欲を出さない知的生命体も宇宙には現存している。

 私は穂華の思いを守りたいだけ――――浄化に対して支配や独占は抱かない――――星速の柔軟電撃――コットンスパーク。

 無心無道に返答した優衣が電撃を放つ。

 不純物の混じった氷が電気を通電させ、彼の霊体を軽く痺れさせた。

 痺れて動けない彼に、真衣達も念話を送る。

 浄化相手に支配欲なんて持つ訳ないよ――ねっ! 千香。

 うん――価値観は閉塞的なもの――価値観を宇宙の常識に添える方が間違いだよ。

 無心無道は自身の経験を――常識と思い込んていると――氷柱は推測します。

 三体の念話を聞いた無心無道は黙り込んだ。

 私は、思索にふける霊体に念話を送る。

 人間も惑星に住んでいた頃は支配欲と独占欲の虜でした――お金を中心とする社会構造そのものが――人間を混沌側の生命に育てたのだと思います――しかし――惑星と一緒に星系を失い――さらに移民船を失うことで――私達は支配と独占を嫌う人間となれました――――私は星の信任を得られた現状に感謝しています――一種族の価値観や思想――文化は閉塞的でしかありません――――大切なのは――種族の常識を捨て他の知的生命体と平等な立ち位置に居続ける事――どちらかを見下した時点で支配と独占の欲が生まれます――――私達は仲間が殺され――大切な者を失っても――相手をさげすみません――それが宇宙の存続に必要であると知っているからです。

 私は、自分に厳しく他人に優しくの真意を示した。

 自分に甘い者に、この考えは維持出来ない。

 星の信任を得て、混沌の誘惑を弾くには、自分をりっする必要があった。

 ふっ――星王と星妃――ワームホールの管理人が人間を信任するのが信じられなかったが――――人間のトップがお前のような存在なら納得出来る――――ここは私の故郷でな太古に戦争で滅んだのだ――恨みという支配と――敵の資源や技術を狙う独占――双方が渦巻き――混沌が来る前に我が星は生命体の居ない惑星となった――――霊体として彷徨う私に混沌の道を教えてくれたのが――ロゼイナイレブン様だ――あれから三億年――大気を失った故郷は――いまだに不毛の岩石惑星だ――宇宙を消したくもなる。

 無心無道が抱える思いは、戦争により滅んだ種族の霊体が抱える怨念だ。

 自分に甘い生命体は、数千年から数億年の内に戦争で滅んでいる。

 その中には混沌が介入していた戦争もあった。

 私が生まれるまでに三十七万の星系と三十六万九千の種族が、混沌に消されている。

 星側の情報によると、ロゼイナワンは銀河一つを、六千年に一つのペースで消滅しているらしい。

 その六千年周期は、三ヶ月後に迫っている。

 毎回違う宇宙に出現するらしく、星の意識体が後手に回っていた。

 私は最後の確認を念話で送る。

 今は――どうでしょう? まだ消したいと思いますか?

 あぁ――混沌に染まらない希少種に出会えた真新しさは感じるが――怨念は簡単には消せん――――しかし混沌の魔力は全て失ってしまった――我の負けだよ後継者。

 優衣と真衣に掴まれる無心無道は、三本足と一本の長い手を持ち、細長い顔をゆっくりと左右に振った。

 西暦時代の人間は、人間と似た宇宙人を想像していたが……。

 宇宙では、人間と容姿が似た知的生命体は、希少と言える。

 人間視点の常識は、宇宙にとっては非常識なのだ。

 優衣と真衣が胴体を掴み、氷柱と千香が足を掴むと、無心無道の本体は大人しくヒギス星系への転送魔力に包まれる。

 ヌピュテリオン星系には、白色矮星となった恒星ヌピュテリオンと、数十キロの凹凸が覆う岩石惑星ミポエが、静かにたたずんでいた。


 彼は私が連れて行きましょう――ハシブト――スターフラワーを守ってくれてありがとう――でも穂華より先に私に助けを求めなかったのは減点ね――罰として後で私に念話を送りなさい。

 隠世から虚無の手だけを伸ばす小織が、弟のハシブトを念話で一喜一憂させた。

 小織の全容を知るのは、私と花菜、ハシブトだけで、キルトやコスモスでさえ小織の全身を確認した事は無い。

 小織が管理する隠世(あの世)は、とても特殊な空間と言える。

 わ――分かった何とか時間を作ろう――。

 えぇ――楽しみにしてる――――花菜――後で穂華と一緒に隠世(常世)を覗きに来なさい――今のあなたなら――心が負ける事は無いでしょう。

 ハシブトの返答に満足した小織は、花菜へ誘いを掛けた。

 それに花菜は喜びの感情を添えて念話を返す。

 はい――穂華と現世うつしよの話しを携えて伺うわ――ありがとう小織。

 どういたしまして――それじゃあね穂華――花菜――。

 またね――小織――無心無道をよろしく。

 私の念話に手を振って応えた黒い虚無の手が、無心無道の霊体を掴んで消えて行く。

 それは、一秒が三兆秒に延びた星速という体感時間が、終了する節目となった。

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