死束(しそく)の渦 人栄(じんえい)の星
魔化折衷の過去、五百年以上前の太陽系消滅の頃の話です。
優衣と真衣が混沌に霊体の状態で拘束された原因や、
混沌がスターマインドを襲撃した理由の一部などが分かります。
星域環境の続きは、8月に投稿します。
※平成30年9月2日 スフカーナの最大乗員を五千名に訂正
合わせて、星域環境編でのパルムの発言を訂正。
※イルムについて、星域環境編から出て来たイルムと口調は違いますが、
五百年以上の年月は、性格や口調を変えるには充分過ぎる長さです。
子供の頃、大人の今で、性格や態度が大きく変化した人間は、みなさんの
傍にも居るでしょう。時間は物質と心の変化を相対的に示した基準。
時間という概念は、生命が観測している物質循環の流れなのです。
西暦二千二百四十一年 七月七日
第四次世界大戦から六十年。
地球は核ミサイルと、原子力発電所のメルトダウンが生み出す相乗効果で、七割の陸地が居住不可能な、放射能汚染地帯となっていた。
「有美菜、北極と南極の氷が消えたのは何時だ?」
日本も例外では無く、政令指定都市や都道府県庁所在地を狙った、正確なMIRV型の弾道ミサイルによって人口の八割を失い。
巡航ミサイルが日本にあった全ての原発を、メルトダウンさせている。
「ゆみな! 先生が質問してるよ」
六十年たった今も、人々は汚染地帯への居住を避けて、北海道道東や秋田内陸、長野内陸部に避難している状態だ。
「有美菜! 聞こえないのか!」
先生の大声が、私の心を現実へ戻す。
「あっ! はい。すみません」
先生の怒った顔を見た私はとっさに謝った。
それを確認した先生は、怒りの顔から私を心配する表情へ変わる。
「大丈夫か? 有美菜。おまえが呆けるのも珍しいな」
「すみません。もう一度、お願いします」
「分かった。北極と南極の氷が消えた年月日を答えてくれ」
「北極が二千百十一年八月二十一日、南極が二千八十三年九月三日です」
「正解だ。消滅と発生を数年間繰り返していたが、とうとう氷が出来なくなったのが、今の年月日になる。テストに出すから覚えておくように」
先生は私の解答を黒板に描きながら要点を伝えていた。
教科書丸写しや、要点を押さえていない先生の授業は嫌いだが、歴史の笹原先生は理解しやすく重要な所を教えてくれるので好きだ。
先生が教科書を読み始めた所で、隣に座る凛花が声を掛けてくる。
「ゆみな、何か悩みでもあるの?」
「ちょっと…………大陸に行った両親の事でね」
六十二メートルの海面上昇と、年間平均気温が二十八度の世界は、陸地の減少と気象の異常変動を加速させている。
去年は秒速七十メートルの暴風域を持つ台風が東北を直撃し、最大瞬間風速が秒速九十二メートルを記録する災害があった。
「有美菜の両親は、気象学者だもんね。心配するのは当然だよ」
「早く道東に戻って来ると良いのに……」
私の両親がロシアへ行ったのは、五ヶ月前。
私の住む帯広市は、六十二メートルの海面上昇で浸水した場所が多い。
十勝川を昇った海水が、海抜三十メートルから六十メートルの地表が多い中心部を浸水させた影響だ。
その為、北側の河東郡音更町と、南側の帯広市南町や帯広市別府町に、その機能を移転している。
特に南側の陸上自衛隊跡地は再開発が進み、新たな帯広市の中心部となっていた。
「船で戻って来るんでしょ。極東ロシアは戦争状態じゃないし大丈夫だよ」
「うん。そうだよね、ありがとう凛花」
先生は私達の私語に気が付いているが、黙認してくれている。
先ほどの私の態度を見て、気遣いしてくれているようだ。
「どういたしまして、今日はどうするの? またあの子達に会いに行く?」
「うん。凛花も来るでしょ」
「もちろん。自分が母親になったみたいで、元気が出るもの」
第四次世界大戦は、人間だけでなく人工知能搭載の自己思考型機械が投入された。
戦争末期に、核戦争を起こした人間達を不信に思い、反旗を翻す寸前まで機械の心は傾いていたらしい。
それを思い留まらせたのが、私達が面会を繰り返す子達の姉や兄だ。
「それじゃあ、放課後に校門に集合ね」
「うい、了解であります」
凛花は時々、変な返事をする。
フランス語のウイなのだろうか? 普段使わない為に、憂いや有為の意味に脳内で誤変換されやすい。
出来れば、使用して欲しくない発言だ。
「凛花、関東地方の核汚染と浸水について答えてくれ」
「あっ! はい、先生」
凛花がすぐに解答を始める。
彼女の長所は、授業と関係無い会話をしながら授業を聞く、優れた聴覚。
そして、それを処理する頭脳だ。
私が予習や復習をして覚える知識も、凛花は一回見聞きしただけで記憶してしまう。
羨ましい感情と、自分自身への劣等感。
私は、親友である凛花に嫉妬している自分が、少し嫌いだった。
放課後、担当場所の掃除を終えた私は、校門で凛花を待っていた。
校門を出るとコンクリート舗装の道路があり、水素自動車が行き交っている。
「おまたせ! 途中で帯広の森によって行こう」
小走りで校門に来た凛花が、私を寄り道に誘う。
「アニマルカフェね。良いよ、今日こそフクロウを触るから」
フクロウは私を避けて、凛花の肩や腕に乗る。
三十九回通って、一回も触れて無いのは、フクロウだけだった。
「私は、猫ね。なんで逃げるのかな……有美菜には寄って行くのに……」
凛花は猫に嫌われやすく、私は猫から好かれやすい。
お互いに触れていない動物に触る。
それがアニマルカフェに寄り道する私達の目標だ。
「私は、フクロウに好かれる凛花が羨ましい」
「それじゃあ、お互いに頑張ろうか」
「うん。そうしよう」
私達が目指す目的地の手前に、アニマルカフェはある。
私達の通学する大空学園からは、一千二百メートルの距離だ。
「そういえば、ガソリンや軽油を使う自動車が消えたのは、どうしてだっけ?」
「記憶力の良い凛花にしては珍しいね。戦争と気候変動で、放射能汚染地域や海が増えて化石燃料の採取が困難になったのと、発電所が消えた影響だよ」
「そっか、だから水素や太陽光が主流になったんだ」
化石燃料よりも、水素や太陽光を利用した方がコストが少ない。
風力は暴風の影響で利用不可。
これが西暦二千二百四十一年の考え方だ。
西の大陸では戦争が続いており、東の大陸では毎年秒速九十メートルの暴風域を持つ、ハリケーンが大地を襲っている。
二百年前まで竜巻でしか発生しなかった風速が、現代では台風でも生まれていた。
「あぁぁあ、象やキリンも見たかったなぁぁ……第四次世界大戦で絶滅してなきゃ見れたのに……」
「私は、サーバルキャットやライオン、虎やチーターが見たかった」
人類の歴史は、環境破壊と戦争による地球の老化を加速させていた。
環境保護の心よりも、支配や独占の心を持つ人間が多い。
点在する照明で、闇夜を明るく出来ないように、人の欲望が地球を破壊という闇で染色しようとしている。
「人って、どうして戦争するんだろう……」
「富、利権、名誉、結局は未来の自分に対する欲望だと思う」
「人間って馬鹿だね」
「そう、戦争に関して言えば、人間は阿呆だよ」
国や企業の一部の人間が抱く支配や独占の欲望に、兵士や民間人が犠牲となる。
いや――戦争で最も犠牲となるのは、動植物や地球環境か――。
「気温三十六度、そろそろ半袖でも厳しいね……」
凛花が夏の制服であるセーラーカラーの半袖Yシャツを、右手で掴み扇ぎ始める。
白色のシャツが揺れて、風が送り込まれていた。
「男子は……近くに居ないみたいね……」
私も周囲を警戒してから自分のYシャツを扇ぐ。
風が入り、湿気が外に出て行く気持ちよさを感じた。
「男子は帯広畜産大の跡地に出来たアミューズメントパークでしょ」
「こっちには、アニマルカフェと工場くらいだもんね」
「そうそう、男子は何時まで経っても子供だから」
凛花が呆れた表情で、男子を子供だと語った。
私も男子の多くは子供だと思っている。
高等部になり、体と女性を誘う言葉だけが大人になった子供。
それが女子が男子に抱く率直な思いだ。
動物好きや工場の製造物に興味のある男子を、こちらでも時々見掛けるが、男子の九割は娯楽施設の集中する帯広市川西町と帯広市稲田町の方向へ行く。
「凛花、次の衣類支給日は何時だっけ?」
「三日後の七月十日だよ。自分で衣類を買えないのは、人生損してるよね」
「しかたがないよ。人災と天災で衣類の素材が希少になっているし……」
今の日本には衣料品を扱うお店が無い。
核汚染、異常気象、戦争の三点セットが、衣食住から自由を奪う世界。
それが西暦二千二百四十一年の姿だった。
「有美菜は胸大きくなった? 夏服が窮屈そうに見えるけど」
私の前に回り込んだ凛花が、胸へ両手を伸ばしてくる。
「ちょっ……ちょっと! 何触ってるの!」
「良いじゃない、減る物じゃ無いし……それとも、揉んで貰う男子でも居るの?」
ここで動揺すると、彼氏が居ると勘違いされる。
「居ないって。凛花こそ背伸びたでしょ。シャツの裾からお腹が見え隠れしてるよ」
だから私は冷静に返答しながら、凛花の大胆さを指摘した。
「…………ほんと?」
「うん。学校で男子の目線がお腹にいってた」
わざと出していたのかと思ったが、違うようだ。
凛花の顔が赤くなり、蒸気が噴き出しそうな表情になる。
「は、早く言ってよ!」
私の胸に触れていた凛花が、自身のシャツに両手を移動して、裾を下へ伸ばした。
その仕草が可愛くて、つい笑顔になってしまう。
「凛花は大胆な所があるから……分かってて見せてると思ってた」
「…………今度からは、すぐに指摘して、私は体で誘惑する人には、なりたく無いから」
「分かった。その代わりアニマルカフェの代金奢ってね」
「……今回だけね」
「ありがとう凛花」
今度は私が凛花に近付く。
胸は揉まずに、背中へ手を回すと、軽く抱き付いた。
凛花の照れた表情が間近に見えて、微笑ましくなる。
「い、行くわよ。アニマルカフェは自然冷房完備なんだから……」
「うん。涼もっか」
私はそっと離れながら、笑顔で彼女の照れ隠しに答えた。
帯広の森、二百年ほど前まで公園だったこの場所は、現代では大規模な動植物保護施設となっている。
アニマルカフェは、施設存続の為に財団法人が作った施設だ。
悪く言えば、予算縮小を回避する為の手段。
良く言えば、一般市民が多様性のある動植物と触れ合える唯一の場所。
何かを得る為には、何かを失わないといけない。
人間のエゴが、この施設にも影響を与えている。
「今日は人少ないね」
「遊びと言うより、課外授業や癒しの側面が強いからでしょ。動物園なんて今では歴史の教科書でしか見ない、幻だし」
私の呟きに、凛花の残念そうな返答が届いた。
第四次世界大戦以前にあった動物園は、破壊されるか閉園に追い込まれている。
「それじゃあ、動物のシェルターで動物と触れ合える私達は幸運だね」
「どうして?」
私の発言に、凛花が疑問を出した。
私は、娯楽施設で遊ぶ男子達を思い浮かべながら、その疑問に答える。
「機械と本に囲まれているだけじゃ、絶滅寸前の動物達には会えないでしょ」
「それもそっか。じゃあ、今日こそ猫を揉みまくるわ」
凛花の宣言と共に、五メートル以内に居た猫と犬が、電光石火の反応速度で離れた。
「うっ…………感の良い奴らめ。だったらフクロウとミミズクを……って、あれ?」
何時もの止まり木に姿が無い。
凛花の視線が彷徨い、私の方へ向くと、鳥達のセーフハウスにされた私が居た。
私は、動物達から感じた、怯えの感情を凛花に伝える。
「みんな、迫力のある凛花が怖いって」
私の両肩と二の腕に乗った、フクロウやミミズクが私に助けを求めていた。
触りたいという思いは私にもあるが、今は守護意識の方が強くなっている。
「…………冷静になれって事ね。分かった……ちょっと落ち着いて来る」
「何処か行くの?」
「そっちの飲料店、有美菜は何か飲む?」
「炭酸入りのオレンジで」
「了解、ちょっと行って来るね」
「うん。行ってらっしゃい」
猫や犬が逃げた反対方向に、ドリンクバーがある。
有人で有料だが、自動販売機という利便性が消えた現代では必要な施設だ。
私は鳥達を乗せたまま、猫や犬が居る方へ歩く。
その先には、有人の受付カウンターがあり、住所と名前を記入するルールがある。
「動物達に好かれてますね。卒業したらここで働きませんか?」
名前を書き終えた所で、受付の女性職員から以外な誘いを受けた。
「動物達の感情が分かるってだけですよ。私も動物好きの一学生に過ぎませんから」
私は、彼女の言葉がお世辞だと思い、やんわりと断る。
しかし、女性職員の態度は本気だった。
「後ろと足元を見てご覧なさい。あなたの就職を願う子達が集まっているから」
彼女の言葉に、私は足元を見る。
数匹の猫が私の両足に寄り添い、穏やかな眼差しを私に向けていた。
足は動かさずに、腰と首を使って視線を後ろに向けると、猫と犬の集団が目に入る。
その後ろには狐や狸、鷹や鷲が集まり行儀良く佇んでいた。
「毎週来ている有美菜さんよね? あなたが帰ると動物達が寂しがるのよ。施設代表者の私が、あなたをスカウトするわ」
その誘いに、動物達が一斉に鳴いた。
まるで私を誘っているかのようなタイミングに、心が躍る。
「でも私……フクロウには前回まで避けられていたんですけど…………」
「ここのフクロウとミミズクは、恥ずかしがり屋だから、好ましい相手ほど避けるのよ。何かきっかけがあって、懐いたみたいね」
先ほどの凛花が原因か――。
「あの……この状態はどうすれば良いですか?」
私は、足元と背後に出来た密集を気にする。
動くと動物達を傷付けそうで、動けない。
「もう少しで、一斉に植物エリアに移動するはずだから、大丈夫よ」
「えっ? それってどういう……」
「おまたせ! 有美菜」
私の疑問と、凛花の声が重なった瞬間。
動物達が波のように動いた。
受付の横を波が通過して、植物エリアへ動物達が離れる。
「お客様、施設内での大声は禁止ですよ」
受付の女性は、凛花を注意しながら私を見ていた。
ね、言った通りでしょ――。
そんな感情を彼女から感じる。
「あっ! すみません…………以後気を付けます」
「飲み物なら、そちらのテラスでどうぞ。ガラス越しに動物達も見られますから」
凛花の謝罪に、施設代表と言った彼女が、優しい笑みで着席を勧めて来る。
「あ、はい。有美菜座ろう」
「うん」
笑顔になった凛花が先に歩き出す。
私は、受付の人に笑顔で会釈してから、テラスへと向かった。
「有美菜好かれてるね。ガラス越しに動物が密集してるよ」
「凛花の方にも居るよ」
「カラスとハシビロコウだけどね…………」
凛花の意気消沈した声が届く。
「これは注目されすぎかな……私達が動物みたい」
テラスの小さなテーブル。
そこにある二つのイスに座った私達は、動物達の視線を浴びていた。
「有美菜さんは親愛されてますね。凛花さんには興味の視線が向けられています」
「受付の人? どうして私達の名前を……」
「お二人は毎週来る常連さんですから、施設関係者にとっては、有名人ですよ」
戸惑う凛花に、彼女が優しい表情で語り掛けた。
動物達から伝わる感情は信頼や優しさで、私を仲間と認識している。
「交代の時間ですか?」
男性職員が受付に立つのを確認した私は、疑問を伝えた。
「えぇ、これから施設内の仕事なんです。関係者以外立ち入り禁止ですが、素敵な所ですよ」
施設代表者の発言に、凛花の興味津々な質問が出る。
「へぇ……どんな所なんですか?」
「秘密です。職員になったら教えられますが……条件は厳しいですよ」
説明する彼女の目線が、動物達の方に一瞬動いた。
おそらく動物達の感情が、条件に含まれているのだろう。
「星系の輝きは消え……悪魔が目覚める?」
動物達が伝えて来た言葉を口ずさむ私に、凛花が怪訝な顔をする。
「何それ? オカルト?」
「動物達から伝わって来た言葉。どうして動物達が私に伝えて来るんだろう?」
疑問を口にした所で、女性職員の違和感に私は気が付いた。
小型の無線通信機を手に取って、口に近付けている。
「全職員へ通達、暗号を確認。所定の行動に基づき行動願います」
彼女の発言と同時に、アニマルカフェに変化が訪れた。
五人ほどの職員が出て来て、閉店作業を始めている。
「有美菜さん、申し訳ありませんが、私達に付いて来て貰います。凛花さんは誠に申し訳ないのですが、今日はお引き取り下さい」
彼女の対応に不満を感じて、私は苦情を言おうとしたが、施設代表の真剣な表情を見て言葉が口から出なくなった。
「有美菜さんが聞いた言葉について、私達から説明があります。日本政府も了承している事ですので、ご協力をお願いします」
彼女の真面目な発言に対して、凛花の願望が出る。
「あの……私も同行出来ませんか?」
「申し訳ありませんが不可能です。この先は政府の管理施設ですので、ご了承下さい」
今の私達が政府に逆らう事は出来ない。
意気消沈する凛花に、私は気分を良くする言葉を掛ける。
「先に優衣と真衣の所へ行ってて、私も説明を聞いたら行くから」
「…………分かった。先に行って待ってるね。ぐずぐずしてたら、起動に遅れるよ」
「うん。任せて、優衣と真衣が起きる前に行くから」
「それだけ強気なら大丈夫だね。所長には遅れるって伝えておくから」
「よろしくね」
私の返答を聞いた凛花が立ち上がる。
「どこから出れば良いですか?」
「アニマルカフェの正面は閉めましたので、非常口から出て貰います」
質問に答えた彼女は、スタッフの一人を手招きして、凛花の先導を頼んでいた。
地球環境の悪化が進んだ現代において、政府の権限は強くなっている。
断ると、配給制となっている衣類や食料が届かなくなるとの悪い噂もあり、逆らう者も居ない。
「それじゃあ、またね」
「うん。また研究室で!」
私の声を聞いた凛花が、笑顔で非常口の方へと消えた。
それを確認した彼女は、私に核心部分を聞いてくる。
「星と無……いえ、悪魔については知ってますか?」
「…………動物達から聞きました。やはり、説明はフェイクですね」
「えぇ、凛花さんには悪魔側の気配を感じましたので、お引き取り願いました」
「悪魔とは何ですか?」
「物質の破壊や消滅を願う精神体の集まりです。詳しくは中で説明しましょう」
彼女の手が伸びた方向、通路の両端には、動物達が整列していた。
その中央を歩き始めた施設代表に、私は随伴する。
「彼らは厳密には動物ではありません。宇宙を守る意思を持った星の守護者達、私達から見れば宇宙人になる者達です」
両端に並んでいた動物達は、私達が通過すると後ろから付いて来ていた。
彼らが宇宙人と言うのであれば、統率の取れた行動にも納得が出来る。
「これから一キロほど歩きます。その間にこの施設の目的について教えましょう」
彼女が湛える雰囲気には嘘が無い、私は素直に頷くと彼女の声に耳を傾けながら、長い通路を歩き続けた。
西暦二千二百四十一年 七月七日 午後七時三分
アイスアリーナ跡地を過ぎて、十勝オーバルの跡地へ続く通路の終点は地下への昇降機だった。
通路で彼女から聞いた発言は、私の想像を超えている。
悪魔が太陽系の消滅を狙っている事。
大陸側では悪魔が力を使う為に必要な体を求めて、戦争を誘発させている事。
日本にも悪魔が入り込んでいる事。
凛花が悪魔に影響を受けている事。
太陽系の崩壊が間近である事。
以上の五点が突きつけられ、私の頭は困惑していた。
「ここから昇降機で地下へ降ります…………A班からF班まで報告願います」
「A班、施設閉鎖完了、Cゲートより下降中」
「C班、警備任務解除、Bゲートより下降中」
「B班及びF班、工場側での悪魔を確認、Dゲートへ移動中」
「E班、Hエリア、大陸側でのフェイズ三を確認。急いで下さい」
彼女の無線機での呼び掛けに、四ヶ所から返答が届く。
「……凛花や学校のみんな、家族はどうなるんですか?」
「悪魔が牙を剥くまで二時間も無いわ。それに凛花さんは悪魔に体を奪われ始めている。
もう時間は無い、私達と来るか、家族と共に地球の最後を見るか、友達の絶望を見るか、あなた自身で選択しないといけない」
彼女の言葉は、困惑する私への厳しい優しさだった。
切羽詰まった状況の時、柔軟な包容力のある優しさは、逆効果になる。
迷わず行動する事、それが彼女の厳しい言葉に含まれていた。
「…………凛花はわざとアニマルカフェに私を誘ったんですね」
「どうしてそう思うの?」
「ここ数日の凛花は、何時も通りに振る舞おうとして、無理をしていましたから」
「…………彼女なりに体の変化を感じているのなら……無意識に有美菜さんを守ろうとしたのかもね」
昇降機の奥に来ると、続けて動物達が乗って来た。
これを降ろせばもう戻れない、そんな感じがする。
「選択しなさい、非情なようで悪いけど、悪魔は待ってはくれない、地球の破壊はすぐに始まるわ」
「太陽が爆発するんですか?」
「いえ、原理は理解不能だけど……高密度のエネルギーが集まっている。太陽系の恒星と惑星、小惑星が全て消滅するほどの力よ。だから後二時間しかないの」
「時間までに太陽系の外に行かないと、消滅に巻き込まれると……」
「そう言う事よ。だから決めなさい。脱出か、家族や友との最後か、有美菜さんは選ぶ権利がある」
彼女が昇降機のスイッチへ近付く、彼女の顔は私に対する申し訳無さと、真剣さで複雑な表情をしていた。
「ここを脱出してからの希望はあるのですか?」
「あるわ。二十年前、長野内陸から飛び立った恒星間移民船スターマインド。この船が飛び立ったおおぐま座イプシロン星の方角へ向けて、私達の船も飛び立つ」
「あちらに移住惑星候補って有りましたっけ? もっと近い候補は有りますよね」
「一直線に本来の目標へ向かえるとは限らないわ。急がば回れと言う言葉もある。ところで、残るか降りるか決めなさい」
彼女の手が下降ボタンの上で止まる。
後は私の意思確認をするだけのようだ。
「…………降ります。両親や凛花は私の生存を望むでしょうから」
心の底から他人の死を望む者は、犯罪者か兵士、犯罪者予備軍になる。
誰も、親友や家族の死を願う者は居ない、居るとしたら、家族や親友の関係が崩壊している状態だ。
「こちらF班、Dゲート降下中。B班は……悪魔と接触、殿を務めるとの事です」
「…………了解、先行降下したA班と合流して下さい」
「了解」
冷静だった彼女の顔に、少しの悲しみが出ていた。
この時点で地上に残る事は、仲間を守る為の犠牲を意味する。
「私達も降下します。C班へIエリアで合流しましょう」
「C班了解、先にIエリアで待ってます」
無線からの返答を聞いた施設代表は、降下ボタンに掛かる指に力を込めた。
動力の駆動音と軽い揺れが起こり、昇降機が下降を始める。
「有美菜さんには脱出成功後に眠りに入って貰います。スターマインドに追い付けるのは六十年後になるでしょうから」
「みなさんは?」
「私達は人間ではありません。星域保護を目的とした宇宙人の集まりです。地球で言うと星の義勇軍と呼べる集団になります。私達は長命な生命ですから」
寿命の長さは種族ごとに違う。
宇宙人であれば、数百年、数千年生きる者も居るかもしれない。
「人間で乗船するのは、男二人に女三人、あなたを加えると六人ね」
「えっ? 私の他にも動物達の声を聞いた人が?」
「そう言う事、同年代だし仲間が居るのは心強いでしょ」
「はい!」
昇降機が降りるシャフト(竪穴)に私の大きな返答が響く。
彼女は私の声に少し驚くが、すぐに柔らかな笑みを見せていた。
西暦二千二百四十一年 七月七日 午後七時三十三分 凛花視点
「優衣、真衣、所長。お待たせ!」
帯広市南町にある工場地帯の一角。
紫色の倉庫にアンドロイドの製造工場がある。
元は、自衛隊の十勝飛行場と駐屯地があった為、平坦な土地が続く。
結果として生まれたのが、多数の工場が連ねる帯広の大工業地帯だ。
「おぉ、凛花か今日は遅かったな」
「有美菜とアニマルカフェに立ち寄ってました。石王所長、二人に異常は無いですか?」
白髪に白髭のおじ様が笑顔を見せる。
「異常は無いぞ、間もなく起動だ。私達の最後には間に合うだろう」
「……良かった……」
石王所長は、第四次世界大戦でアンドロイドを戦力投入していた企業の跡継ぎだ。
国外からは戦犯扱いの父親を見て育ち、平和の為のアンドロイドを作るとして、三十年前に後を継いでいる。
五十二歳で老人のように白いのは、精神的な苦労を重ねて来た証拠だろう。
「大陸側からの情報が消えた。彼らの出現が近いようだな」
「はい、私も有美菜を逃がす事で精一杯でした」
私達には、体の自由を徐々に奪う何かが潜んでいた。
「私の情報はやはり正しかったか…………」
「はい、頭の中で囁いていた声が、アニマルカフェでは消えてました。でも……今日は消えなかった」
「悪魔の力が増している影響だろう。大陸側の人間は消えつつあると考えた方が良い」
心に住み、体を徐々に奪う不確かな存在、私達がそれを知っても対処法が分からない。
「あの財団法人は本当に宇宙人なんですか?」
「あぁ、体を奪われ始めた存在は助けないが、目的に共感出来る存在を助ける。宇宙の義勇軍だと私は推測している。国が協力しているのは、彼らの宇宙船技術を得られる見返りだろう」
所長が二体のアンドロイドに視線を向ける。
優衣と真衣、正体不明の敵に対抗する為に、石王所長が初めて作製した戦闘型のアンドロイドは、最終チェックを終えて、起動準備に入っていた。
そろそろ奪わせて貰うわよ――リコリス隊長も肉体を見付けたようだし――。
私の心に声が響く、有美菜には秘密にしていた怨霊のような存在が、私から徐々に体の制御を奪っている。
「石王所長、私は右足と左腕が動かせなくなりました」
「そうか、私は歳だからだろう、血圧低下と脈拍回数の減少で、生命活動が弱っている」
おじさんには、肉体の死を与えて、霊体を消すわ――。
私の脳内で身勝手な声が反響した。
所長は、家庭用アンドロイドの市場を独占する為に。
私は、妹の不治の病を治す力を得ようとして。
私達が持った欲望が、悪魔を呼び、最悪の結果を出そうとしている。
「ユグドラシル・イプシロン。マルセイユ・イプシロン。起動中…………完了まで後二分…………電力供給値正常」
優衣と真衣の正式名称を名乗った自動音声が、二体の覚醒が近い事を伝えた。
私は発声が奪われる前に、所長へ本心を伝える。
「北欧神話とフランスの都市、それにギリシャ文字……所長の好みが入ったセンスの悪い氏名です」
「だから省略して、優衣と真衣に改名しただろう?」
私の愚痴を、所長は妥協で相殺した。
「登録名が直ってません」
「登録名は型番にすぎない、重要なのは実際に呼称される氏名だよ」
青冷めてきた顔とは対照的に、所長の口調は穏やかだ。
自身の運命を悟っている感じがする。
「宇宙には、何人くらい脱出出来そうですか?」
「詳しくわ分からないが……全世界で十四隻の脱出船が発射態勢にある、内二隻は日本から出港だな」
一隻は分かる。
国や経済界の人間を優先させた、全長五百メートルの脱出船。
恒星間巡航輸送艦、アマテラスだ。
「お偉いさんの船と、もう一隻は?」
自分と家族だけが助かりたい、命の独占欲を持った人達の船は、私達と同じように肉体を奪われるだろう。
それよりも、私はもう一隻の船の存在が気になる。
「凛花らしくない、頭が悪くなったようだな」
「有美菜にも指摘された。やっぱり馬鹿になってる?」
「あぁ、もう一隻はあれだよ」
そう言って石王所長が工場の窓を指差す。
遠方に赤と橙の光が輝き、銀色の船体が上昇を始めた。
「星宙艦スフカーナ、宇宙人達の船。有美菜が乗船したであろう船だ」
国営放送のニュースで見た事がある。
恒星間移民船スターマインドの基礎技術を提供した船で、六年前に消息不明になっていた船だ。
政府が行方を探していたはずだけど――。
太陽系の消滅後に追わせて貰うわね――星側の生命は極力消さないと――。
私の思いに、悪魔の囁きが続く。
「所長、優衣と真衣に私達を攻撃するように指示して」
「あぁ…………私は……もう無…………」
所長の返答が最後まで続く事は無かった。
代わりに私の頭で、声が響く。
肉体と霊体の接続が切れたわね――霊体は私達が消すから安心して。
「………………」
怒りを口にしようと思ったが、声が出ない。
あぁ――言い忘れていたけど、あなたの体も奪ったわ、霊体はカード候補として叶菜乃に渡すから――――逃げられるとは思わないでね。
肉体があるのに動かせない、逃げようにも霊体としての自分が認識出来なかった。
「まぁ……逃げ出す方法が分からないようだけど……」
肉体の制御を奪った悪魔が、私の声で笑っていた。
「霊体は霊体らしく黙ってなさい。死人に口無しよ」
霊体だけとなった私に、強い眠気が襲う。
それが悪魔の所業と理解する前に、私の意識は闇に溶けた。
西暦二千二百四十一年 七月七日 午後七時五十分
ロゼイナ、リコリス、体を得たわ――目の前の敵性機械を壊したら合流するから。
了解、こっちはアマテラスの生命を捕食した――人間の支配や独占は純粋ね――肉体を奪いやすくて――最高だ。
リコリス隊長の冷静沈着な念話が返ってきた。
捕食とは肉体を持たない私達が、生命の肉体を奪った状況を伝える暗号になる。
「所長と凛花の死を確認。自衛行動を開始します……」
自動音声と共に、二体の自動人形が動き出す。
凛花の肉体の中に居るのが、凛花では無いと確信しているようだ。
敵のアンドロイドが動いたわ――彼らの魂――――興味深いから頂いて行く。
こちらロゼイナ――太陽系の消滅に必要な肉体と魂は確保したから――なるべく早めにね。
分かりました。魂の拘束後に急行します――。
ロゼイナは混沌の中で最も強い魔力を持つ、私達のリーダーだ。
彼女が居なければ、宇宙への侵入と破壊は出来なかったと思う。
「……見た目は、凛花なのに……霊体の凛花は何処にやったの?」
「凛花と所長、優しい人だったのに…………体を奪ったあなたは嫌い」
服を纏わぬ二体のアンドロイドが身構える。
私は奪ったばかりの体を試す為に、静かに魔力を発動させた。
ライフフレームスポイト――。
「優衣! 潤滑油が漏れてるよ」
「真衣、あなたは電力を吸われてる」
二体の目が私を捉える。
「命の吸い上げはどう? 段々脱力していくのって……新鮮でしょ」
「やっぱり悪魔さんが原因なんだね……真衣、仕掛けるよ」
「うん。優衣、撃退しちゃおう!」
瞬間、二体の姿がぶれた。
無風の工場内に風が吹き、周辺の機械が帯電している。
「魔法? 魔力? いえ……科学ね……」
科学の中の自然科学、その一部門である化学の力を感じた。
工学に化学の武器を内蔵している。
「まずは動きを抑える!」
私の周囲が強風で包まれた。
奪ったこの体を中心に、大きな塵旋風が生まれている。
「真衣、ナイス。これでも喰らって!」
上からの声に、私は両手を頭上に伸ばす。
それと同時に強い衝撃が、私が展開した魔力に伝わった。
「何? その白黒の盾……真衣のデータベースにある?」
「無いよ優衣、見た目は魔法みたいだけど……」
「魔法は、人の欲望が作り出した力でしょ。私達のは、生命体以外が作った意識体の力、無の魔力よ」
「無能力?」
「無の魔力! 大人しく壊れなさい。私には時間が無いの!」
真衣と呼ばれる方は、天然の元気っ子に見える。
とぼけた回答も、嘘には見えなかった。
「優衣! Fパターンで行くよ。盾の死角を突く」
「うん。サンドイッチだね」
サンドイッチ――挟み撃ちかしら――。
奪ったばかりの体で、思考しながら身構える。
時速五十キロと工場内での機動としては速いが、音速や超音速が当然の無にとっては、遅すぎて欠伸が出るほどだ。
「ふぁぁ……さぁ、いつでも良いわよ。機械の赤子達」
「あぁぁ! 欠伸をした。見下した事を後悔させて上げるよ。悪魔さん!」
真衣が大声を出すと、優衣が声と武器で敵意を示す。
「アサルトコイル、発射!」
塵旋風の外側を周りながら、優衣が上に射撃を始める。
「風向変更開始。フォールウインドモード」
真衣は近くの機械を触り、何かの仕掛けを作動させていた。
「支配と独占の無い、敵意と悪意は貴重ね。生まれたばかりだからかしら」
優衣と真衣、二体の機械人形には私達が大好物の欲望が無い。
支配と独占の感情が無い相手が、攻撃をしてくるのは初めてで、興味が沸く。
「吠え面かかせてあげる。真衣開けて!」
「そぉぉれ! 奈落へどうぞ!」
彼女達の発言と共に、私の足元が消えた。
格子状の床が左右に開き、深い闇が顔を覗かせる。
頭上を見上げると、優衣の放った攻撃が金網状の天井を丸く切り抜き、自由落下を始めていた。
「機械らしい計算された攻撃ね。良いわ、少しだけ付き合ってあげる」
なじみ始めた体が、加速するのを感じる。
肉体を得て初めて感じる喪失感と浮遊感は、肉体が無かった無にとって新鮮な感覚だ。
「そろそろ地面かしら…………あれね」
足元に闇の中で高速回転する送風機が見えた。
私は両手を足へ伸ばし、魔力を展開する。
「パワーフレーム、落下と回転の力を蹂躙しなさい!」
白と黒の発光する板が足裏に貼り付き、回転する機械と接触した。
回転する運動エネルギーが、私の魔力へ吸い込まれて行くのを感じる。
落下のエネルギーは瞬時にパワーフレームが吸い取り、肉体に与える損傷を皆無にしていた。
「金網の落下程度であれば、魔力障壁で楽勝ね」
基礎の魔力である障壁で落下してきた金網を弾く、星の魔力を纏わない物質など、無の敵にはならない。
「遊びは終わりね。そろそろ頂きましょうか、心音が霊体の人形を欲しがっていたから、機械の肉体から切り離した後で、贈るのも良さそうね」
工場天井にある送風機はまだ動いているが、本来の私には些細な障害でしかない。
心音の笑顔を想像しながら、落下してきた穴を飛んで戻る。
穴から飛び出ると、優衣と真衣の驚いた顔が見えた。
良いわね――その顔――征服しがいがあるわ――。
思わず心の中で本心を出す。
「生きてる? 悪魔め。これならどうだ」
優衣の中で先ほどまでとは異なる電気を感じた。
電圧が高まり、放熱量が増えている。
「高圧縮モード」
真衣は周囲の空気を取り込み、胴体で圧縮させているようだ。
「最後の勝負と言う訳ね。良いわ、私もちょっと本気を出して上げる」
手に入れた肉体の試験も兼ねて、魔力の同時展開を始める。
肉体の摩耗は早くなるが、耐久力を知るには丁度良い機会だ。
「ライフフレームアブソーブ、彼女達の幽体を弱らせなさい。パワーフレーム全周展開」
敵の生命力を奪い、あらゆる力を吸収する。
相手が星の魔力を持っていない以上、これは必勝パターンの戦法だ。
「また……さっきのっ……電気を奪われている…………レールに力を集中。一発で良いから、私の体……耐えて」
「圧縮完了! 優衣、私の後に放って」
「捨て身の攻撃ね……素晴らしいわ。弱り切った所を解放してあげる」
二体の機械人形は、肉体の生命維持を捨てて武器に全ての力を回している。
「真衣、良いよ」
「よし! 風圧弾発射!」
「レールガン、トリプルショット」
工場内で浮遊する私に向けて、風と電気の攻撃が飛来した。
装甲車や戦車を陥没させる圧力の風が近付き、その後ろを電磁誘導で加速された質量体が追いかけている。
風圧直撃の一秒後に、質量体の着弾か――良い連携ね――。
先ほどまで止まっていたかのような二体の攻撃が、動きのある物に見えた。
星との超音速戦闘を思い出して、笑みがこぼれる。
だけど――。
「弱いわね」
パワーフレームに着弾した風と弾体が、瞬時にそのエネルギーを失った。
魔力を纏わない攻撃に、儚さを感じる。
「そんな……」
「私達の全力が……あり得ない…………これは夢……」
優衣の一言と、真衣の現実逃避が私の勝利を伝えた。
私は心音への贈り物を取り出す準備をする。
「パワーフレーム、ロングソード形態」
人が作った機械でありながら、人と同等の魂を内包する二体。
その魂がある首元を狙う。
「肉を絶って、霊を回収し捕縛する。あなた達を無の世界へご招待します」
私は空中を蹴るように加速して、超音速で二体の眼前に迫る。
顎の下と脇に狙いを定めると、二体続けて瞬時に斬撃を加えた。
切断された脇の上から顎の下までを回収すると、魔力を注ぐ。
そうする事で、霊体(魂)が淡い光を放ちながら現れるので、後はそれを魔力で包み込み拘束するだけだ。
こちら命蛭 舞衣花。機械人形を破壊――霊体も捕縛しました。
あなたにしては長かったわね――楽しい敵でも居た?
はい、心音に贈りたい霊体です――ロゼイナも気に入ると思います。
そう――さそっく見せて、今あなたの上空二千メートルに滞空しているから――。
そんな近くに――分かりました。すぐに行きます。
お願いね――。
私は念話を終えると、工場の屋根を切り刻み大穴を空けた。
大穴を空けると頭上の雲間に白と黒の明滅を確認する。
「ロゼイナを確認。最大加速」
無の代表である、ロゼイナの好意を無下には出来ない。
私は本気を出すと、音速の十二倍で彼女の元へ飛翔した。
西暦二千二百四十一年 七月七日 午後八時五十七分 艦長視点
「海王星を通過、まもなく最終加速に入ります」
星宙艦スフカーナが、速度を上げながら、おおぐま座イプシロン星を目指す。
直進で目指さず、太陽系の公転軌道を水平に移動するのは、悪魔の追跡を躱す為だ。
「何とか影響範囲から脱出できそうね。少し休みなさいプラスマ、六名の案内で疲れたでしょう?」
「艦長こそ休んで下さい。朝からアニマルカフェの受付で疲れてるはずです」
十五分ほど前に冷凍睡眠に入った人間達は、地球で得た大切な仲間だ。
彼らを案内してくれた医療班代表のプラスマは、すでに四日間寝ていない。
「四日寝ていないプラスマに言われたくないわ。お願いだから寝て頂戴」
「分かりました……キュルピ、コロノイ、イルム、ポウサル、艦長を頼んだ」
「了解、安全な航路を選ぶよ。動力も安定しているから問題無い」
「防衛なら任せて、戦闘と警備では決して気を抜かないわ」
操舵動力班のコロノイと、戦闘警備班のイルムが、プラスマの言葉に答えた。
通信索敵班のキュルピと、環境維持班のポウサルは、プラスマに手を振って応える。
それに満足したプラスマは、笑顔で艦橋を退室した。
「コロノイ、レプトンとプロトンの出力を最大に、自動航行を準備します」
「了解、艦長。左レプトンエンジン。右プロトンエンジン最大出力」
恒星光と、中性粒子を推進力としたエンジンが高周波の稼働音を出し始める。
人間に聞こえない音域らしいが、地球外生命体である私達には、鮮明に聞こえていた。
ポウサルが、船体への負担が少ないルートを導き出そうと声を上げる。
「艦内環境正常、ルートを算出します」
異空間や、ワープと言った映画やアニメの航行は、現実の宇宙では出来ない。
ブラックホールの先にあるワームホールを抜ける実力があれば話しは別だが、光速の物質でさえ吸い込む相手に、適応する手段が発見出来ていなかった。
その為、通常空間を秒速数万キロで移動する航行が、一部の知的生命体では確立されている。
「イルム、ルート候補を送る。物質の少ない道を確定させてくれ」
「了解、ポウサル。物質密度の薄い部分を確認。恒星、惑星、小惑星、ガス雲、を避けるルートを算出完了しました。何時でも行けます」
イルムの可愛らしい声がコロノイへ届く。
「了解、イルム。最大加速十秒前!」
宇宙空間は広大で、物質が無い空間が存在する。
固体や液体を避けつつ、船体に有害な気体を避ければ、自動航行も可能だ。
「後方より極大エネルギー反応、秒速五千キロで衝撃波が接近!」
「コロノイ、最大加速」
「了解! ネフィア艦長」
キュルピの警告を聞いた艦長が、コロノイへ声を掛けると、船体の景色が一変する。
前方と後方以外の光が少し伸びて、短い線のような見え方になった。
星のトンネルを潜っているような錯覚を受ける。
「キュルピ、スターマインドの位置は分かる?」
「はい、問題無ければ約六十年で到達可能です」
最大速度が秒速三万キロであるスフカーナは、二十年前に飛び立った移民船を追う。
「私達以外に脱出出来た船は?」
艦長である私の質問に、キュルピが返答する。
「アマテラスは悪魔に掌握されたようです。残り十二隻の消息は不明です」
「…………六名を助けられただけでも良しとしましょう。本命に追い付くまで時間があるから、休憩とします。コロノイ頼むわね」
「了解、自動航行モードに移行します」
私の声にコロノイが答え、操舵がオートに切り替わった。
最大乗員五千名のスフカーナは、艦橋に居る六名が中心に稼働している。
武装と艦橋部分の接続は無く、全ての武器に一名ずつ仲間が配置されていた。
残りは食事や整備を担当している為、艦橋の者が休む時は自動航行に変更される。
「さて、先は長いから休みましょう。全員八時間後に集合。六時間の睡眠と、二時間の自由行動時間とします」
私の声に全員が席を立つ。
「コロノイ、私と一戦やらないか」
キュルピが、宇宙で定番のボードゲームのジェスチャーを見せた。
コロノイの顔に笑みが出て、嬉しい声を上げる。
「良いね! 負けたらご飯奢りな」
「童顔のお前を老けさせてやるよ」
コロノイの宣言に、キュルピの挑発が続く。
共に三百年以上生きている彼らは仲が良く、冗談と理解して相手を貶す事が多い。
「キュルピ、コロノイ。睡眠時間に影響が出ない範囲でな」
「分かってます艦長。キュルピ、娯楽室でやろう」
「良いだろう。年上の強さを見ると良い」
二名が談笑しながら艦橋を出て行く。
油断では無い、余裕が彼らの長所だ。
「ポウサル。私達はご飯食べに行こう。教えて貰いたい勉強もあるし」
「分かった。ネフィア艦長、お先に失礼します」
「あぁ、若い者同士で楽しんで来ると良い」
少女と少年の二名が、艦橋の隔壁扉から退室する。
大型の巡洋艦であるスフカーナは、艦内の移動に二十ヶ所のリフトと六十ヶ所の昇降機を使う。
リフトは左右に平行移動する大型の箱で、艦首、艦中央、艦尾の三ヶ所で止まる。
昇降機は一階の艦底部から五十階の艦橋部までを繋ぎ、大型船内での移動を補助していた。
「さて、私も寝ましょうか。スターマインドが無事であると良いけど……」
先行していた人間達の船を思いながら、私は艦橋を後にした。
西暦二千二百四十一年 七月七日 午後九時二十一分 ロゼイナ視点
「太陽系の消滅を確認。全ての物質が消えました」
「そう……ご苦労様ゼキナ。さっそくで悪いけど、スフカーナとスターマインドの捜索を頼むわ。星側の抵抗が少ない事に違和感があるの」
「承知しました。ロゼイナイレブン、全ては無の再生の為に」
「無の再生の為に、よろしくねゼキナ」
「はっ」
黒色の長袖パーカーに、白色のスティックパンツを穿いた男が、私の部屋を出る。
彼は、本体のロゼイナが、分身体のロゼイナの為に随伴させた執事担当の護衛だ。
「魔力は期待出来るけど……融通の無さは残念ね」
ロゼイナイレブン、十一番目の分身体である私の名称なのだが、本体と優劣を付けられている感覚が気に食わない。
何よりロングパンツのセンスが最悪だ。
「男で足の細さを強調するスリムパンツの系統を穿くなんて、変だわ」
「ロゼイナ、入室許可を願います」
私が執事の悪口を声に出していると、通路側から声が聞こえた。
どうやら招集した仲間が来たようだ。
「リコリス。良いわ入って頂戴」
私は気持ちを切り替えて、笑顔で彼らを迎え入れる。
「失礼します」
「し……失礼します」
リコリスと一緒に、肉体を手に入れた舞衣花も入室して来た。
心なしか舞衣花の動きがぎこちなくて、可愛らしく思える。
「まずは、舞衣花。肉体の捕食おめでとう。着衣もまだ人間製のようだから、後で無の服を贈るわね。その服も可愛くて良いけど……どうする?」
「学生が着る制服のようなので、服の完成までは着てます。その後は廃棄で」
「良いわ。後で高純度の魔力服を上げるから、希望を考えておいて」
「はい、ありがとうございます」
舞衣花の笑顔を確認した私は、リコリスを見る。
「リコリス。人間の欲はどうだった?」
「素晴らしい支配欲と独占欲です。太陽系を消しても、まだ魔力を潤沢に使える体は希少と言えるでしょう」
私も同意見だ。
肉体を持たない無にとって、負の感情、特に支配と独占の心を持った生命が必要不可欠だが、人間という肉体は、今までの知的生命体で最も魔力使用に適した道具と言える。
「こうなると、逃げた人間達の肉体も奪いたいわね」
「はい、ロゼイナ。第十一部隊の遅れを帳消しにするチャンスと考えます」
本体が放った四十四の分身体。
そして分身体に付き従う無の意識体達。
その中で私達は、肉体を得るのが最も遅れていた。
「欲が多くても、魔力順応力の持ち主が少ないのが難点ね。リコリス、今回の捕食で何体の肉体を確保出来た?」
「戦争と飢えで肉体の数が減っていたので、六十一体です」
減っていたとはいえ、地球全体で十四億人の人口があった。
「それでも、十四億人も居たのに…………肉体の希少価値は高くても、順応力が無くて奪えないのなら、宝の持ち腐れね」
「逃亡を謀った宇宙船も、八隻爆散、二隻捕食しましたが、四隻に逃げられました」
「一隻はスフカーナとして、もう三隻は?」
ロシアのナジェージダ(希望)と、アメリカのシャーロットって言う宇宙船――。
残りは、オーストラリアのアリススプリングス――――アメリカとオーストラリアの船は、発射地の傍にある都市名が由来みたい――。
心音の大人しい念話に、叶菜乃の真面目な念話が聞こえてきた。
「そう、返答ありがとう。心音と叶菜乃は、肉体がまだだったわね」
私達は後輩だから、まだ良い――。
そうそう、心音の言う通り――先輩達に肉体を優先して奪わせて。
「配慮の出来る仲間は好きよ。でも、私達の目的は見失わないようにね」
はい――機会があれば、肉体を奪います――霊体の人形も欲しいです。
私は、肉体とカードが欲しい――。
「心音と叶菜乃らしい回答ね。あっ! そう言えば、舞衣花。心音に贈り物があるのでは無くて?」
私は笑顔で舞衣花を見る。
彼女もすぐに笑みを浮かべ、心音の意識体が居る部屋の入口へ歩み寄った。
「はい、心音。私が捕獲した霊体。心音の為に回収した霊体だから遠慮無く使って」
良いの? 私はまだ肉体も無いのに――。
「ロゼイナに許可は取ってある」
「人型の機械でありながら、人間と同等の魂を持つ存在よ。心音は良い霊体を手に入れたわね」
舞衣花の言葉に、私は心音に本心を伝えた。
そうする事で、心音の不安と遠慮を消す事が出来る。
ありがとう――肉体を得るまでに操れるようする。
「どういたしまして。叶菜乃にはカード候補を上げる」
心音のお礼に返答した舞衣花は、叶菜乃にも笑顔で声を掛けた。
えっ! 本当に? ――見せて。
意識体である叶菜乃が、舞衣花が入る肉体の周囲に纏わり付く。
「はいこれ、私からは霊体が一つだけど、捕食した船を探せばカードが増えるよ」
舞衣花の言葉に、叶菜乃はリコリスの方を見る。
「良いわよ。ただし船が巡航速度に達してからね」
うん――楽しみに待ってる。
「叶菜乃。選別は慎重にね。道具を使う前に台無しにしては勿体ないでしょ」
はい――ロゼイナ、大切に選びます――。
「そういえば……ロゼイナは肉体を奪わないの?」
機械の自動音声に、代弁させていた私を見た舞衣花は、率直な発言を漏らした。
舞衣花の無垢な質問に、リコリスの緊張が高まるのを感じる。
入口近くに居たリコリスの肉体が瞬時に消えて、舞衣花の横に移動していた。
「リコリス、良いわ。丁度説明しようかと思っていた所だから」
私の声が届くと、手刀の構えになっていたリコリスの動作が止まる。
「ロゼイナは甘いです。舞衣花、ロゼイナに野暮な質問は厳禁だから」
「う、うん。分かった……」
動きを察知出来なかった舞衣花は、冷や汗をかいて軽く動揺していた。
秒速五百キロでの無音移動――リコリスは肉体に慣れて本来の実力を出し始めたわね。
心の中でリコリスの状態を思いながら、舞衣花の傍に居た意識体の心音を確認する。
私の傍に居ないのは、叶菜乃だけだ。
「叶菜乃も来てくれる? 説明したい事があるから」
うん――今行きます。
意識体の叶菜乃が来た所で、私は発言を始める。
「心音と叶菜乃は私が分身体である事は知ってるわよね」
はい――。
はい、知ってます――。
意識体である二人からの念話を聞いた私は、肉体を持たない理由を伝える。
「私の本体と、私と同じ分身体達は、無からの魔力を供給する入口になっているの。この仕組みが無ければ私達は宇宙で一分も活動出来ない。弾き出されて二度と侵入出来なくなるわ」
どうして? ここは毒だらけだけど――また入れると思う。
「心音の疑問は素直ね。宇宙を創った裏切り者の影響よ。侵入した無の情報を宇宙が記憶して、二度と侵入出来なくするの」
それだと――初めから侵入不可に出来るはずでは――。
「的確な質問ね叶菜乃。それは私も不思議に思うわ。星側の意識体が私達と似た特性を持つから、裏切り者の無空のフレリが無からの更なる裏切りを期待して、自分達の有利な場所で私達を撃退する為、この三つが考えられるけど……どれも無の侵入を継続させている理由にはならないわね」
「ですが、宇宙の消滅を狙う私達にとってはチャンスです。星側が我々を見下しているのなら、消滅という結果で後悔させてやりましょう」
「そうねリコリス。星側の思惑は後で調べるとして…………肉体を奪うメリットとデメリットは何か分かる? 叶菜乃」
メリットは――宇宙では使用出来ない無の魔力を、使用可能になる。デメリットは、移動範囲の制限です――通り抜けられた壁や床、天井を迂回しなければいけません。
「その通りね。破壊して穴を空ければ迂回の必要は無いけれど、消滅戦や緊急時以外は魔力の無駄になる。私は常に第十一部隊に魔力を注ぐ役目があるから、障害物が増える肉体に入る訳にはいかないの。私に見合う体があるかどうか怪しいしね」
本体の私よりも魔力が強大だった無空のフレリも、肉体を得られずに星側の禁忌を犯して、魔力を無くした状態で追放されたと聞く。
フレリの生死は分からないが、彼女の創造した宇宙を消すことで、私達は復讐をする事が可能になる。
「スターマインドには、一万人前後の人間が居るとの情報を掴んでおります。ロゼイナの御眼鏡に適う肉体が有るかもしれません」
「配慮ありがとうリコリス。私はこの携帯機械で充分よ。自動音声で意識体の状態でも、言葉を出せるのだから」
無から持ち出した意識体の機械。
これがあれば、物質を通過しながら発声も出来る。
肉体は、私が奪える対象を発見してから望めば良いだけの事だ。
「さてと……私が肉体を奪わない理由も理解出来たところで、スターマインドを追いかけましょう。リコリス、ヌルエンジンを待機状態から巡航状態に、ステルス形態で追跡開始と行きましょう」
「承知しました。全ては無の為に」
「無の為に、よろしくね。リコリス」
星の意識体には無い、魔力戦艦。
部屋を退室したリコリスは、先ほど見せた無音移動で、艦橋へ瞬時に移動した。
高純度の無の魔力で出来た船が、リコリス艦長の指揮の下、加速を開始する。
「ロゼイナ、もし良ければご指導願えませんか? 奪った肉体に馴染んでおきたいの」
「そうね。舞衣花の発声は本来の私に似ているから、他者とは思えないし……良いわよ。心音と叶菜乃も来なさい。模擬戦を見るだけでも、今後の参考になるから」
はい、私はこの後カード候補の選定があるので――それまででしたら――。
「捕食した二隻の船ね。良いわ、叶菜乃はリコリスが呼びに来る間、見学ね。心音は最後まで見て行きなさい。強くなるには戦法を盗む事も大切よ」
叶菜乃と心音は、無の中で最も魔力が弱い側の意識体になる。
特に心音の実力は低い為、近接戦闘だけでも強くなって貰う必要があった。
はい――見学します。
「良い返事ね。心音、それでは消滅部屋に移動しましょう。三名共付いて来なさい」
無の意識体二体と、舞衣花が入る肉体が私の後ろに随伴する。
通路へ出ると、魔力壁の透明な部分から、物質の消えた真っ黒な空間が見えていた。
太陽系が跡形も無く消えた姿に、私は少し高揚感を覚える。
ここは、新しい無からの魔力供給空間となるのだ。
宇宙に侵食された無の領域奪還、その為の一歩になる。
「素晴らしい光景ですね。ロゼイナ」
物質と星の魔力が消えた空間に、喜ぶ舞衣花。
私は彼女に同意しながら、決意を伝える。
「えぇ……。第十一部隊が宇宙を消す第一歩になるわ。他のロゼイナに負けないように、宇宙を消滅させて行きましょう」
「はい!」
頑張る――。
頑張ります――。
私の決意に舞衣花が元気よく返事して、心音の大人しい念話と、叶菜乃の真面目な念話が届いた。
「ゼキナが、スフカーナとスターマインドの位置を捕捉。優先度の高いスターマインドの追跡を開始します」
艦内にリコリスの声が響く、これで新たな肉体確保の目処が立つ。
「ロゼイナ嬉しそうですね」
私の口元を見た舞衣花が、楽しそうに発言した。
「嬉しいわ。スターマインドには、私が入れそうな肉体がある……そんな気がするから」
人間で言う第六感、憶測に過ぎないが、私の感覚がその存在を伝えて来る。
私も体を得る――貰った霊体も使ってみたい――。
「心音。その思いを大切にね」
私の声に、心音は静かに頷く。
カード候補の次は――肉体の確保か――楽しみだなぁ。
「叶菜乃なら、肉体を手に入れれば、のし上がれそうね」
よし! リコリスに負けないくらい強くなって――宇宙を消してやる。
「その意気よ。叶菜乃」
仲間の戦力が底上げされれば、全ての宇宙が消えて、無の完全奪還が叶う。
私達の念願達成も近付くだろう。
フレリ――あなたの世界を壊して上げる――。
私は心の中でそう宣言すると、模擬戦闘を行う消滅部屋へ向かった。