09「拘束」
「ウニちゃん!」
「うおおおおおっ!」
声を上げながらウニちゃんに襲い掛かる男性。
ナイフを振り上げ――
「防御フィールド」
――しかし。
ガキンッ。
と音がして、振り下ろした男の手が弾かれた。
男の手から離れたナイフが床に落ちる。
「ぐあっ!」
――防御フィールド展開。2%消費します。
「……何が起こったの?」
その時、ウニちゃんを包む光のようなものに気付いた。
もしかして、あの黄色い膜がウニちゃんを守ってくれたのか。
あれも、ぬいぐるみの力なの?
「……くっ、畜生!」
腕を痛めたのか、右手を押さえて今度は後ろに向かって走り出した。
あたしに近付いてくる――
「逃がさない! シャレコ、拘束」
――コラースレッド。
ウニちゃんの声を合図に、ぬいぐるみは再びビュンっと男性の前に立ちはだかった。
だが、さっきと様子が違う。
「な、何だ」
ぬいぐるみは男の前で形が変わっていった。
骸骨のアニメが描かれた、人型のシルエットだったそれが、
まるでミイラの包帯がほどけるように大量の黒と白の糸にほつれ、
獲物を見付けた触手のように男に絡み付いていく。
「クソッ、離しやがれ!」
「抵抗しても無駄よ。その糸からは絶対に逃れられない」
足をグルグル巻きにされ、その場に倒れる男性。
腕も身体とぴったりくっ付いて、首を動かすのがやっとのようだ。
……信じられない。
こんなことが可能なの?
呆然と事の成り行きを見つめているうち、
男性の首から下は完全に糸で覆われてしまった。
「……一般市民になんてことしやがる」
「正当防衛よ。先に手を出したのはそっちでしょ」
ミノムシ状態の男に蔑むような目で見下ろすウニちゃん。
その手には男性が持っていたナイフが握られている。
おーい、そんな顔してたらあなたが悪者みたいだよ。
「あなた、どうして地下に侵入したの? 目的は?」
しゃがんでナイフでペタペタと頬を叩きながらウニちゃんが尋ねる。
「ひっ、もうこの街は嫌なんだ!」
「私たちが守るこの街の何が不満なの」
質問を受け、顔を反らす男性。
答える気がないと知り、ウニちゃんはナイフの先端を男性の眼に向ける。
「ひゃっ、やめてくれっ!」
「ちょっとウニちゃんそれは!」
「クマ子は黙ってて。で、何が不満なの?」
「……お、女にフラれたんだ」