08「追跡」
……ハァハァ、あたしを物みたいに言わないでよ。
――アナライズネットワークと同期完了。追跡対象まで70メートル。
「ハァハァ。ちょっと待って」
「頑張って。すぐに捕まえるから」
「そんなこと言ったって……息が」
「もうこれ以上子ども扱いなんてまっぴら。私がいかに有能な人材か、みんなに認めさせてやるんだから!」
更にスピードをあげるウニちゃん。
少しずつ彼女の背中が遠ざかっていく。
ウニちゃん、こっちは裸足なんだって。
それに『捕まえる』って。
さっき無線で相手と接触するなって言われてたじゃない。
あなた、新人なんでしょ。
上司の指示を無視して大丈夫なの?
そう言いたい気持ちはあるけれど、
そんな余裕もあるはずなく。
せめてあの背中を見失わないように必死になって足を動かす。
そのうち、前方からウニちゃんの叫び声がした。
「居た! そこの男性、止まりなさい!」
「来るな!」
ウニちゃんと同じぐらいの位置から男性の声が聞こえる。
もうかなり接近しているみたいだ。
「……もううんざりだ! 俺はこの街を出る!」
「それは禁止事項よ」
「ふざけるな! 俺達はオマエラの囚人じゃねえ!」
「言葉じゃ理解してもらえないみたいね。仕方ない。シャレコ、あいつの足を止めて」
――スピードブースター起動。4%消費します。
「何だコイツ? この、邪魔するなっ!」
男性の叫び声がした直後、ウニちゃんが立ち止まった。
「無駄よ、シャレコを押し返すなんて普通の人間には不可能」
「うるさい、この、通せ! ぶっ壊すぞ」
「やれるもんならやってみなさい。できたら拍手してあげるわ」
近付くにつれ、男性の姿も見えてきた。
「クマ子、そこで止まりなさい」
ウニちゃんに言われ、あたしは彼女と十メートル程の位置で立ち止まる。
その向こう側で、男性は低く浮いたぬいぐるみに行く手を遮られていた。
ぬいぐるみをどかそうと身体で押したり、拳で殴ったりしている。
時にフェイントをかけて脇から抜けようともしているが、するとぬいぐるみは瞬時に動き、男性の前に立ちはだかった。
「何なんだこのぬいぐるみは!」
苛立つ男性。
そこへウニちゃんが歩きながら近付いた。
「大人しく降伏しなさい」
男はウニちゃんの方を向いた。
「……意味が分からねえ。どうして街を出ていくだけで逮捕されないといけない」
「この街の市民なら知っているはずよ。この街の外には行くべき場所なんて何もないわ」
「そんなの信じられる訳ねえだろっ!」
男はポケットから何かを取りだした。
銀色に光っているあれ……ナイフ?