07「侵入者」
ポツリ、と呟いたウニちゃん。
その眼から、すでに涙は止まっていた。
それだけじゃない。
数秒前とは別人のような真剣な顔付き。
「どうしたの?」
「追いかける。私の後ろから離れないで」
「追いかけるって」
えっ、ちょっ……
突然、音のした方へ全速力で駆けだすウニちゃん。
ま、待ってよ!
慌てて彼女の後を追いかける。
「き、急にどうしたのっ」
「……これはチャンス」
走っている状態で、ドクロのぬいぐるみと見つめ合うウニちゃん。
「音声認識オン。シャレコ、起動」
意味の掴めない言葉をつぶやき、宙に放り投げる。
――音声認識モード。調査庁ENEシステムと同期完了。ディペンダー専用サーバーへ使用許可申請中。
ぬいぐるみが喋った!
それだけじゃない。
重力に逆らって宙に浮いたまま、彼女と並走しはじめる。
眼から光線といい、なんてぬいぐるみなんだ。
――申請されました。ENEエネルギー充足率現在12パーセント。サーバーからエネルギーの追加補充を行いますか?
「大丈夫。大森部長に通信繋いで。あと分析調査室にも」
――大森聡一朗、分析調査室と通信開始。
「こちら河原ウニ、地下通路エリアA14付近にて侵入者を発見。現在追跡中」
「大森だ。被召喚者は?」
ぬいぐるみからさっきとは違う声。
たぶん、無線機能だろう。
通信で誰かと会話もできるのか。
もう何でもアリだな。
「回収済み。現在同伴しています」
「被召喚者の保護任務が最優先だ。ナスカをそっちに向かわせる。それまでは距離を保って追跡。あとアナライズに繋げ」
「すでに通信中です。キョウイチ!」
「……足かゆい」
「キョウイチ、真面目にやれ。侵入者の位置は?」
「C14からD14へと移動中ですが……でも河原さんにやらせて大丈夫なんですか?」
「キョウイチ、いい加減子ども扱いは止めて。私はもう正式なディペンダーよ。侵入者一人ぐらい保護しながらでも捕まえられるわ」
「河原ウニ、子ども扱いして欲しくなかったら上司の指示に従え。ナスカがそっちに行くまで約十三分、それまで視認可能距離で情報を取れ。分かっていると思うが“トゥキープオーダー”での攻撃はするな」
「T字路を左折。現在D13。あ、血が出た」
「……エネルギーを無駄にはしません」
「新人は余計なことは考えるな。すべきことだけに集中しろ。万が一、被召喚者に何かあったらディペンダー失格だぞ」
「傷一つ付けずにお届けします。行くよ、シャレコ」