06「小さな肩」
あたしが問いかけると、
ウニちゃんは「フンッ」と背中を向けた。
「……そうよ。先週まで研修生で今週が初出勤」
「そうだったんだ」
「でも安心していいわ。私はスクールも主席で卒業したし、プロのディペンダーとしての知識も実力も備えている。唯一足りないのは経験だけよ」
「それ、結構大事だと思うけどね」
「う、うるさいうるさいうるさーい! そんなことないもん!」
こらこら、そんなにぬいぐるみを振り回して怒ると、腕ちぎれちゃうよ……
それにしても仕事、始めたばかりだったのか。
くまさんパンツとか、色々、無茶苦茶だったと思ったけど。
ぬいぐるみを抱き締める女の子の小さな肩。
この世に生まれてまだ十年足らずだろう、幼い身体。
この子なりに一生懸命だったんだ。
そう思うと、彼女に優しくしてあげたくなって。
あたしはウニちゃんの小さな肩に触れた、
「ありがとね」
「……えっ?」
「別に新人さんでも気にしないよ。下着もクマさんだったけど、嫌いじゃないし」
「クマ子……」
「大丈夫、あたしを街に連れていくだけの簡単な仕事でしょ。経験なんて重要じゃない。あたしを保護しに来てくれたのがウニちゃんで嬉しいよ」
「……ふ、ふんっ。これだから素人は、」
顔を隠すようにウニちゃんが背中を向ける。
「街が城壁で囲まれてるの見たでしょ……草原エリアは私たちみたいに特別に許可を得た者しか立ち入ることができない危険な場所なの。まあここ数年“ヤミクモ”は現れていないってナスカさんが言って……あっ!」
何かを思い出したかのように、口を押さえるウニちゃん。
あまりのショックに目を丸くしたまま停止している。
ひょっとして……
「もしかして何か口走っちゃった?」
「民間人に漏らしちゃいけない機密事項……も、もうクマ子のせい! 万が一これがナスカさんにバレたら……う、う、」
涙腺が緩み、ついにうわーんと泣き出してしまうウニちゃん。
こうなると完全に子どもだ。
ドクロのぬいぐるみは抱き締められているというより、もはや絞め技を決められているという方が近い。
顔も身体も細くねじ曲がり、代わりにギブギブと手を叩いてあげたくなる程だ。
「ちょっとウニちゃん――って」
あれ?
あたしの耳が遠くの音に反応した。
通路の向こう側で何か聞こえる。
……誰かが、走っているような。
「……侵入者、」