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36「突入前」

 

 

 

 そこは“現場”という名に相応しくない繁華街の一角だった。

 恋人のいない人間には用はないとでも言うようなお洒落なレストラン。

 外観は木製のログハウス風で、白い枠の子窓にはレースのカーテンがかかって中は見えない。

 入口にある白いパラソル付きのオープンテーブルの上には、食べかけの皿が所狭しと置かれていて、アロマキャンドルの火だけが静かに揺れていた。


 この中に、犯人が人質を取って立てこもってるのか……


 レストランの外壁に背を付けて、途中で外れてしまわないように、何度もイヤホンを耳の穴にねじ込む。

 中の状況の把握ができ次第、献エネ車のチルルから突入の指示が出ることになっていた。

 突入後、レストラン内でチサトが犯人と直接交渉を行う。

 人質を犯人から離れさせ、身の安全が確保できれば、そこからはあたしの出番。

 犯人を捕まえる。


『コラースレッド』


 具体的には一言、そう命令するだけでいい。

 そうすれば後はニキヲが勝手に犯人を拘束してくれる。

 アクビが出るほど簡単な仕事よ、とウニちゃんは言ったけれど。


「肖羽、怖い?」


 その場で一緒に待機しているチサトが心配そうな顔を向ける。


「だ、大丈夫」


 セリフとは裏腹に、声が引きつってしまう。

 心は逃げ出したい気持ちでいっぱいだった。


「逮捕のタイミングは私が指示するから。それまで私から離れちゃダメよ」

「……うん」

「安心して。私は元ディペンダーから事件なんて慣れっこ」


 ポンと頭に手を置いて、あたしを気遣うチサト


「私にとって肖羽はたった一人の大切な友達。何があっても絶対に危険な目に合わせはしないから」

「ありがとう、チサト。でも無理はしないでね」


 そうだ。いくら怖いからって、友達を裏切るわけにはいかない。

 足手まといにならないように、しっかりしないと。

 がくがくと震える膝に爪をたて、臆病な自分を奮い立たせようとしていた時、

 チルルから突入可能の合図が届いた。


『店内の監視カメラデータ、受信かん、りょ……中にいるのは全部で三に、ん……部屋の中央のテーブルにい、る。一人は犯人。人質二人のうち、一人は怪我して倒れて……もう一人は犯人と話して、る……犯人、感情的。……注意する』

「了解。間もなく突入する」

『クマ子、ニキヲの使い方、記憶からぶっ飛んでたりしないわよね』

「……うん」

『情けない声。緊張し過ぎよ、それでもディペンダーなの?』

『ウニ、人のこと言えな、い』

『うっさいわね、私が喋ってるのに入って来ないで!』


 こちらの緊迫感とは対照的に、ケンカを始める二人をチサトが嗜める。


「お子様達、真剣にやる」

『……ごめん、なさい』

『フ、フンッ。じゃあクマ子。防御フィールドを展開しなさい』


 イヤホンを再びねじ込み、伊達メガネを掛け直す。

 いよいよだ。

 あたしは息を吸って、目の前の浮遊体――テニスボールほどもある巨大な眼球――に向かって最初の命令をした。


「ニキオ、防御フィールド、展開。対象者、都肖羽と上切チサト」


――了解。対象者二人に防御フィールド展開します。

 

 

 

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