34「今日の運勢」
「あっ、終わった。イセカさん、ありがとね。未来の参考になりました」
相変わらずお先真っ暗の未来、という訳ですね。
「ううん、どういたしまして。最後に今日の運勢を観てあげるよ」
イセカさんはそう言って、大胆にもあたしの顔を両手で振り向かせた。
「わっ、イセカさん、ちょっと」
急な出来事でパニックになあたし。
「目を観るから、じっとしてて」
近距離であたしの目をじっと覗き込むイセカさん。
だめ、さっき牛乳飲んだばかりなのに……
「今日、キミは大きな選択を迫られる。誰も頼ることができない重要な二択だ。その時は躊躇しないで自分の気持ちを信じること。ラッキーアイテムは車とエネルギーパック。ラッキーアクションは男性を抱き締めること……どうかな?」
「それって……もしかして」
「ラッキーアクションを今起こすなら、僕はキミを受け入れるつもりだけれど」
……そんな。
この人、まさかあたしのこと……
だって、まだ会ったばかりだよ。
キョウイチさんもそうだったけれど、
みんな、突然過ぎるよ……
「イセカさん、本当に……あたしのことを?」
「僕の気持ちに振り回されてはいけない。大事なのは都自身の気持ちだ」
そんなこと言われたって……
あたしは彼の気持ちを否定したと思われないよう、ゆっくりと彼の手を握り、そしてその手を顔から離した。
「……ごめんなさい。あたしにはいきなり過ぎて、あなたのことを何もしらないのに、返事なんてできないよ……」
「それは、僕をデートに誘ってるってことでいいのかな」
「えっ! いや、別にそういうつもりじゃ……」
どう説明すれば分かってくれるのか、脳をフル回転させて探す探す探す探す。
だけれど、いい言葉が見付かるより早く、ガシャッと車のドアが開いた。
「クマ子、途中だけ、ど……」
あたしに声を掛ける途中で、チルルちゃんは沈黙した。眉がピクンと上がり、そこでの出来事を理解しようと目線があたしたち二人をスキャニングする。
このままじゃ誤解されてしまう、そう思ってすぐに握っていた手を離し、イセカさんから離れたけれど、それが逆に彼女の予想を核心へと変えてしまったようだった。
「クマ子……公私混、同。エヌ、ジー」
「ち、違うのよっ! これはその……」
「取る、のエネルギーだけ。心も取っちゃ、ダメ」
「ははっ、うまい表現だね。でも安心して、彼女は受け取らなかったよ。今のところは、」
置いてあったエネルギーパックをポンと投げ、チルルちゃんがそれを受け取ると、イセカさんはあたしに一言言い残して車を降りた。
「日曜日の午前十時。この場所で待ってる」
「あっ、イセカさんっ、待っ」
あたしは彼を追いかけようとしたけれど、チルルちゃんがあたしを押しとどめた。更に献エネ中だったはずのウニちゃんまで乗り込んできたかと思うと、車にエンジンがかかり、緊急を伝えるサイレン音と共に走り出した。
それが何を意味するのかは、何となく分かった。ウニちゃんが真剣な表情をしてるってことはきっと事件が起きたんだ。
一瞬でオンとオフを切り替えるのは流石だな。
そう思う反面、心配もあった。
『通報があったのは銀台三丁目。繁華街の大通りに店を構えているレストラン“マクシス”で一人の男が人質を取り、立てこもっていると通報があった。現場へ急行しろ』
『ガッ……チサトです。現在、現場まで一キロの距離を献エネ車で移動中、現場に向かいます』
大森さんと運転中のチサトの通信内容がマイクを通して車の後ろ部分にいたあたしたちの所まで届く。




