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33「イセカの手相」

 

 

 この人みたいなお兄ちゃんがいたら自慢なんだろうなーってついつい考えていた時、

 あれ、おかしいな。

 献エネを開始すると、吸収したエネルギー量が経過で画面に表示される。

 吸収速度は相手の総エネルギー量に比例して早くなって、平均八万~十万キロカロリーの成人男性だと三百パック溜めるのに約十五分間ぐらいかかるって話だったんだけれど。

 一分経過してすでにパックの三分の一に補充完了している。


「ねえ、気分が悪くなったりしてない?」

「全然。さっき久しぶりにエネルギーを消費したから、適度な疲労で気分がいいんだ」

「ならいいけれど、もし辛くなったら言ってね。エネルギーを急激に失ったら元気を失ったり、目まいとか吐き気を催すケースもあるみたいだから」

「ねえ、キミの名前は何て言うの?」

「都よ。自分で付けたの」

「僕はイセカ。都、退屈だろう? 手相を観てあげるよ。実は僕ら、占い師なんだ」

 

 姓とは言え、呼び捨てで呼ばれたことにドキッとしてしまうあたしは惚れっぽい性格なのかな。

 いやいや、こんなカッコイイ人だったら誰だって気持ちが動くよね。


「……一応聞くけれど、水晶玉売りつけるつもりじゃないよね?」

「水晶玉って何それ? もしかして占い詐欺に遭ったの?」

「違うならいいんだけれど、でもあたし仕事中だし、それにあなた手を動かせないでしょう」

「大丈夫、すぐに終わるから。それにただ待っているだけじゃ僕も退屈だよ」

「そう、なら」


 彼に向かって手を差し出す。


「誤解している人は多いけれど、手相っていうのは過去を占うものじゃないんだ。もちろん、遺伝的な違いというのは存在するし、その影響の大きさも無視することはできない。生得的能力に差異があることの証明は、天才と呼ばれる人間が実在していることで明らかだしね」

「そう言われると、生まれ付きで人生決まっちゃうみたいで、ちょっと怖いんですけど。特にあたし、不幸の星の元に生まれている気がするし」

「ははっ、最近嫌なことでもあったの?」


 ありましたよ。

 笑って他人に話せるレベルじゃないとびっきりのやつが。


「安心して。確かに生まれ付きの部分は否定できないけれど、それが全てじゃないから。生まれてからの経験や感覚によって皺は大きく変化するんだ。中には、二十年前とは別人の手相を表す人だっている。キミの手に刻まれているのは過ぎ去った現在の痕跡、履歴、ただそれだけのものに過ぎなくて、未来を決定づけるものじゃない。歩いてきた痕跡を知ることで、人は現在の自分を確認することができ、それによって望ましい未来に向かって歩き出すことができる。だから占いはキミの運命を教えるものじゃない、運命を切り開くための手段なんだ。少なくとも僕はそう信じてる」

「イセカさん、占いが好きなんだね」

「どうかな……自分の好みを客観的に把握するのは得意じゃないから。じゃあ観るね」


 謙遜なのか、単に照れているのか、言葉を切って占いをはじめようとするイセカさん。

 あたしは仰向けの顔に影がかからないように手をそばに置いた。

 自分の仕事についてそんなに熱く語れるのは、すこし羨ましいな。

 好きなことをして、きっと充実した毎日に違いない。

 手相だって、きっと幸福な皺を刻んでいるんだろうな。

 それに比べて、あたしはこんなところで何をやってるんだろう。


「いい手相をしているね」

「そんなおべっか使わなくてもいいよ。自分で分かってるもん」

「自分じゃ気付かないことを表しているのが手相だよ……へえ、これは神のいたずらかな。僕の手相とよく似ているよ。ほら、手を上下半分に斬りおとすようなこの横断線」

「本当だ、みんな持ってるわけじゃないの?」

「この横断線は多くの人々に影響を与え、世界すら変えうる力を持っている人だけが持っている線。ただし自分の才能に気付かなければ、多くの人々に振り回され、世界によって自分を見失う恐れもある。どちらにしても波瀾万丈な人生を送ることが多い」


 うわっ、すでに当たってる。

 早速、借金のせいで人生振り回されてる人です、あたし。


「波乱万丈なんて嫌よ。どうやったら平凡な幸せを手に入れられますかね?」

「平凡な幸せなんて存在しないよ。外側から見ればそう見える人達はいるけれどね」

「でも恋愛したり。結婚したり、子ども産んだりって普通の幸せってそういうものでしょ?」

「もしそんな人生を望むなら、キミは生まれ変わるぐらい大きな変化が必要だね」

「それって遠まわしに、あんたモテないよって言ってるようなもんですよ……」

「大丈夫だよ。可愛いから」


 ……そんな綺麗な顔でそんなこと言わないでよ。

 ちょっと本気に……


「まあ僕の個人的な好みは置いておくとしても、現時点で一人や二人、都に強い関心を抱いている男性はいるみたいだよ。それこそ、相手を選ばなければ今年中に結婚できる可能性が高い、と読めるけれどどうかな」

「……なるほど」


 確かに、プロポーズはされたな。

 本気かどうかは分からないけれど。

 でもキョウイチさんのことは、チルルが好きみたいだし。

 

――三百パックにエネルギー供給完了です。市民の皆様、ご協力感謝いたします。

 

 

 

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