32「三百パック、六百パック」
あたしの言葉に顔がボッと赤くなるチルルちゃん。
「……知ら、ない」
「別に隠さなくてもいいのに。お似合いよ」
「……ほんと?」
あたしを見上げるキラキラした瞳。
……本当に好きなんだ。
「あーっ、サボってる!」
ウニちゃんも仕事終わったのね。
頬を風船のように膨らませる彼女。
その背後、エネルギーの大半を奪われ、絞りカスのように衰弱した男性が。
「ご協力ありがとうございましたっ♪」
「あ、ああ……」
ウニちゃんの笑顔に対して、男性は振り向く余裕もない。
よろよろと歩き、車から離れていく。
牛乳と“しらべくん”が山と入った袋を手に持って。
「ウニちゃん……あの人からどれだけ提供してもらったの?」
「六百パック二個分よ♪」
「六百パック二個分って、普通の倍じゃん!」
「クマ子の言った通り、経験というのは大事ね。最初はこんな下らない仕事って思っていたけれど、やってみると案外楽しいものだわ」
「そ、そう。良かった」
ウニちゃんが感じてる楽しさは仕事のものじゃないと思うけど。
Sっ気ぶりを発揮して嬉しがってるだけ。
「すみませ~んっ、俺たち献エネしたいんスけどっ!」
あっ、また希望者が来た。
「うふふ♪ 次も元気そうね。取りがいがあるわ」
「六百パック一袋よ、ウニちゃん」
「クマ子、私たちのためよ。多少の犠牲はやむを得ないわ」
「市民のために働くのが調査官っ」
「ツルペタクマ子が偉そうにっ」
あたしの言葉をシャットアウトするようにガシャンとドアを閉めたウニちゃん。
うーん、安心できないな。
「僕もいいかな?」
「はい。ご協力ありがとうございます。こちらへどうぞ。チルルちゃん、ウニちゃんがやりすぎないように見張っておいてくれない?」
「……ん、分かっ、た」
車の後部部屋に乗り込み、男性を横に寝かせる。
同い年ぐらいの男の子だ。
何か緊張するな。
「じゃあ腕にバンド付け……あれ」
「自分で付けたよ」
「献エネ、初めてじゃないんですか?」
「初めてだけど」
……まあいいか。
「……じゃあ三百パックで取りますね」
「六百にしてよ」
「ダメ。初めての人は六百取っちゃダメって言われてるから」
「そりゃ残念、」
口を尖らせ、枕に頭を乗せる男性。
ちょっと我がままだな。
でも、美少年だ。
こうやって見ると女の人みたいに綺麗な顔をしている。
目はキリッとした青い瞳で、男性と分かるけど。
睫毛長いし、鼻筋も通ってるし、何気にアヒル口。




