28「プライバシー」
『地下通路でシャレコから送られてきたENEデータですバリボリ。左側にある二つがウニさんとクマ子さん。そばで動いている小さい点、これはシャレコです。そして右側が侵入者ですバリボリ』
「それ以外の生体エネルギーは見当たらないな」
『はい、バリボリ』
その時、ウニちゃんと目が合った。
さりげなく人差し指を手に当ててあたしにサインを送った。
余計なこと言わないでよ、と。
そして左右ののスクリーンには、地下通路の監視カメラから映したと思われる 複数の映像が表示される。その中にあたしたちがいた。
『そしてこれが上層部から送られてきた監視カメラ映像。クマ子さんの裸足姿、お気に入り確定バリボリ』
「キョウイチ、毎度のことだが余計なことは言うな。話しながら食うのも止めろ」
『バリボリ』
「……ったく」
『その後、侵入者に気付いた二人が追跡を始めます。侵入者も逃げていますね』
ドームの中から淡々と解説を続けるキョウイチさん。
その声を聞きながら、あたしの頭にはある疑問が浮かんでいた。
地下室でのことを秘密にしろ、大森さんはそう言った。
なのにこうやって映像を見ているのは……
気になるな、確認してみようか。
「ナスカさん、一つ聞いてもいいですか?」
「ちょっとクマ子、余計なことしないの」
「いいでしょ、あたしまだ何も知らないんだから」
「何が聞きたいんだ、クマ子」
「ええと、監視カメラの映像ってこんなに簡単に見ることができるんですか?」
「簡単、と言っていいのか、キョウイチ」
『どうでしょうか。監視カメラの映像は地下にある警備室で警備員が監視していますが、そのデータを見るには一度大森聡一朗を通して許可の申請が必要です。数字ばかり見ている彼が申請を下ろすまでに最低二時間。忘れていることもちょくちょくなのでその場合は催促します。ちなみに今回は二度催促して十八時間後に届きました』
「大森さんの許可が必要なんだ。面倒くさそうですね」
『分かってくれますか。ちなみに中央のスクリーンに映っているENEデータも申請が必要です。ただ今回のような捜査目的なら、ディペンダーの所持するネット回線接続用の機器を使用して、リアルタイムで直接データを送受信することができます。情報はこれで充分でしょうか?』
「逆にこのデータを消去したり、見れなくすることは大森さんにしてもらえるの?」
「クマ子、何言ってるの。そんなのできる訳ないでしょ」
「だってあたし着替え撮られたんだもん!」
「……はっ?」
ウニちゃんが眉をしかめた。
「あれは地下に入る前だったけど、あれも申請すれば見られる可能性があるんでしょ? あたし裸になったのよ!」
『即申請を送ります』
「絶対ダメ! あとこの映像もダメ、時々下着透けてるんだもん。ねえ、キョウイチさん、捜査が終わったらこれ消せない?」
『……不可能です』
「完全には、だが。誰にも見られないようにすることはできるんじゃないか、キョウイチ」
「ナスカさん、本当ですか?」
「簡単な話さ。分析調査室内のデータを消せばいい。大元のデータはタワーの上のスーパーコンピューターに残るが、再申請されない限り映像が人の目に触れることはない」
『バリボリ。そんなことをして万が一、再度申請の必要が出れば大森聡一朗に突っ込まれます』
「まあ俺達は調査官だからな。根本としての任務はデータを取ることで、データを消すという発想がない。しかしそれは警察庁が存在していた時代の調査官。これからは住民のプライバシー保護についても留意していく必要があるんじゃないか」
「ナスカさん、ありがと♪」
『……どちらにしてもデータは消せません』
「別に今すぐという訳じゃない。事件が解決してからでいいんだ」
「ダメです。消せません。映像を見て下さい」
その時、通路全体を上から映していた映像が消えた。




