26「カラコン」
「クマ子さん、どうしましたか」
キョウイチさんが少し目を大きく開けてあたしに尋ねた。
「そんなに驚くような質問ではなかったはずなのですが」
「いえ、別に驚いてなんて」
「では『えっ、何で』の続きを教えてもらえませんか?」
「ええと、“コンタクト”って言ったから、何でそんなこと言うのかなって」
「だって、コンタクト付けてますよね。昨日ここに来たばかりなのにどうやって手に入れたんですか?」
矢継ぎ早に質問してくるキョウイチさん。
嘘でしょ、この人。
あたしが隠そうとしている秘密を暴こうとするかのように、核心へと迫る質問ばかりぶつけてくる。
偶然……よね。
とりあえず適当にごまかそう。
「チサトさんに貰いました。視力が悪いって言ったらサービスで……」
「サービス、ですか」
「どうやら彼女に気に入られたみたいで……友達になったんです。それで彼女から私服も貸してもらって」
「服……そういえばサイズが違いますね。特に胸の辺りが」
ご丁寧に指を差して指摘するキョウイチさん。
「……それ、喧嘩売ってます?」
「安心して下さい。胸の大きさに対する私の関心は平均以下です」
「平均未満って言わない辺りが何か気になる」
「あっ、鋭いですね」
その時、部屋の奥からあたしたちに呼びかける声がした。
「キョウイチ、そこでいつまでも何やってんだ。話の途中だろ」
ナスカさんの声だ。
「邪魔が入りました。行きましょうか。あっ、忘れないで下さいね」
「何をですか?」
「決まってるじゃないですか、眼鏡です」
「いや、それは」
まだデートの返事、OKしてないんですけど。
それは後で断るにしても、大森さんにこのことをどう説明しよう。
まさか会ったばかりでコンタクトだってばれちゃうなんて。
見た目じゃ裸眼にしか見えないってチサトさん言ってたのにな……
「クマ子さん」
最後に振り返ってキョウイチさんが言った。
「大森聡一朗に何か指示を受けているならその通りに動いて構いませんが、何にせよ日曜日のデートの誘いに関してはぜひ行くことをお勧めしておきます」




