25「あたしたちの秘密」
『もう初対面じゃない』って、そんな子どもの屁理屈みたいなこと。
でも、この人の表情は。
きっと“ポーカーフェイス”って言葉はこの人のことを指すんだろう。
本音で喋っているように見えるけれど、相手を試すために言葉を選んでいるような印象もあって。
結局どちらなのか、どこまでが真実でどこまでが嘘なのか、見破ることができない。
うーん、考え過ぎかなー。
「あの、キョウイチさん」
「分かりました」
彼はあたしの言葉を遮った。
「結論を急ぎ過ぎるのは私の悪い癖です。まずはセオリー通りデートから始めましょう。今週の日曜日はいかがですか。今日は木曜日です」
「デートって、でもあたし昨日ここに来たばかりで」
「知ってます。あ、ちなみにですが僕はメガネ派なので当日コンタクトは外して欲しいです」
「えっ! 何で――」
何で分かったんですか。
思わず口からそう洩れそうになった。
いけないいけない。あたしの目のことは秘密なのに……
――――それは昨日、大森さんの所へ行った時のことだった。
「秘密って、どういうことですか?」
地下室で起きたことは周囲の人間に話してはいけない。あたしとウニちゃんは大森さんにそう伝えられた。
事情は色々とあるらしいが、一つはウニちゃんを助けるためだそうだ。
あそこでウニちゃんがしたことが調査庁の偉い人に知れたらクビになってしまう、とか。
「それほど俺は優しくないからな。自分でやったヘマの清算を返すまで首輪を付けてでも働かせる」
単にミスした部下をいじめたいだけのような気もするけれど、
でもウニちゃんはその処遇にほっとしていた。
何があってもディペンダーは辞めたくないらしい。
そして秘密にするもう一つの理由があたしの力と目だった。
シャレコは“虹”によって破壊された。
余りの突然の出来事でどんな相手か分からなかった。
周囲にそう説明しろと大森さんは言った。
「眼の色についてはチサトだけには話していい。アイツに調査してもらう」
そういえばあの時、分析調査室に依頼しないのかとウニちゃんが尋ねて、
大森さんが「キョウイチには絶対に話すな」って言ったんだよね。
急に語調を荒げたから、少しびっくりした。
キョウイチのこと大森さん嫌いなのよ、と後でウニちゃんに聞いたけど。
「被召喚者、チサトに色付きのコンタクトレンズを用意してもらう。家にいる時以外は外すな。もし誰かに尋ねられたら、視力が悪いと説明しろ」
「わ、分かりました――」
とは言ったものの。
あたし、嘘下手っぽいんだよなあ。




