23「あたしの名前2」
三階にある、調査部特別課の事務室内。
部屋の中心に通路を作り、四台ずつ背中合わせにデスクが置かれている。
入口すぐ横には応接用のソファ、そこで一人の女性が雑誌を読んでいて、
デスクにいる二人の男性も合わせると、合計三名の人が事務室にいた。
みんなあたしの先輩だよね……よしっ。
自分の職場に足を踏み入れたあたしは、手に力を込め、大きく息を吸い込んだ。
「ほ、本日からっ、特別課に配属されることになりました。み、都肖羽と言います。よろしくお願いします!」
この自己紹介で名乗った自分の名前、それは一晩じっくり時間をかけて決めたものだった。
昨晩、『ぴったり名付け番』というインターネットサイトにアクセスした。
イエスかノーで答える百の選択問題に回答すると、PC画面の『あなたにピッタリの名前はこれです!』の表示の下に、名前の候補が現れるのだ。
あたしの場合、現れた候補の数は五百以上だった。
結局、自分で選ぶんかーい。
サイト名詐称疑惑に対して軽く突っ込みを入れつつ、候補全てに目を通し、消去法で候補を八つまで絞った。
その後、日が変わるまでうんうん唸ったのだけれどちっとも決められず、やがて疲れのせいで眠気が襲ってきたので、あたしはハつをメモ用紙に書いて裏返し、運任せで一枚を選択することにした。
そうやって選んだのが『都肖羽』という名前だった。
現実の自分のイメージと若干乖離している感は否めないけれど。
でも、そんなことは大した問題じゃない。
名前が何であるかより、『ツルペタ家』の名を捨てられることの方が重要だ。
これから、『ミヤコ』とか『ショウちゃん』みたいに呼ばれるんだ。
『クマ子』なんて呼ばれ方とはこれでオサラバだっ!
……と思っていたのだけれど――
「私は日野南、よろしくクマ子」
と、ソファから返事が来たかと思えば、
デスクにいた二人からも、
「クマ子ちゃん、よろしく席は俺の隣ね♪」
「浅岡正巳。みんなはマッさんと呼んでいる。クマ子もそう呼ぶといい」
――どうやら時既に遅しだったようです。
「クマ子どうしたの? そんな哀しそうな顔して」
あたしの隣にいたウニちゃんが不思議そうに尋ねてきた。
いやいや、原因はあなたでしょっ!
「何でもない」
「じゃあいいけど」
「……はぁ、ここでもクマ子か」
仕方ない、これから出会う人達に期待しよう。
願いを静かに胸の中に秘めるあたし。
部屋にいた三人はどこかへ出掛けようとしていた。
「クマ子ちゃん、またね~♪」
「は、はぁ……」
「河原、形式上とはいえ謹慎中の身だ。くれぐれも身を慎めよ」
「マッさん、分かってる。日野、ナスカは?」
「ガキ、私を呼び捨てとはいい度胸ね」
「日野こそ子ども扱いし過ぎ。おっぱいでかいからって……イタッ!」
「ナスカはキョウイチの所。早く行って、初任務の大功績をパパに報告してやりなさい。きっと喜ぶわよ」
「……日野、性格悪い。きらい大きらい」
「お互い様」
日野さん達がいなくなると、べーと出していた舌をひっこめたウニちゃんが、あたしの席を教えてくれた。
「クマ子、次は分析調査室に行くわよ」
「うん」
三階から階段を使い四階へ。
移動途中、他の調査官たちを何度か目撃した。
誰もが警察官のような青色の制服を着ている。
「ウニちゃん。調査官の中で、ディペンダーだけ私服って、ちょっと罪悪感あるね」
「どうして? 貧民の中を行く貴族みたいで私は凄く愉快よ」
「ちょ、超問題発言」




