22「分岐点」
「大森部長、私は分かりますが彼女は! 今日ここに来たばかりでまだ何も」
「河原、口を挟むのはいいが、元はと言えばオマエの判断ミスでこうなったんだぞ」
「……でも」
マジかよ……
ウニちゃんのあのぬいぐるみが、まさかそんなに高価なものだったとは。
その割に、ウニちゃん完全にぬいぐるみ扱いしてたけど……
「規定上の支払期限は一週間以内だが、さすがに無理だろう。一年間の分割で構わない。河原は来月の給料から天引きするが、もちろんそれだけでは足りない。残りの百三十万は“献エネ”でも何でもやって地道に返せ」
「……はい」
「被召喚者、オマエはどうやって返す?」
何であたしもなのよ!
誰が払うか、ばーかと目の前の眼鏡を睨みつける。
「返すって、そんなの払える訳、」
「もし返済放棄するならば、器物破損、職務妨害並びに傷害罪でオマエを逮捕する」
「……は?」
逮捕?
「何であたしが捕まらないといけないのよっ!」
「調査官に暴力を振るった罪は重いぞ。恐らく檻の中で成人式を迎えることになるだろうな」
「そんな……」
恐ろしい言葉をいけしゃあしゃあと言い放つ大森さん。
……間違いない。この人、悪魔だ。
「あなた、最低ね」
「俺のことよりもどうするんだ? 二百五十万、返す気があるのかないのかのか」
あたしは横のウニちゃんをチラリと見た。
強気な彼女が心配そうにあたしを見ている。
「……返すわよ」
「どうやって?」
「そんなの今言える訳ないでしょ? ちゃんと働く」
「そんな甘っちょろい考えでは信頼できない。俺が仕事を紹介してやる」
「大森さんが?」
何よそれ。
夜のオシゴト的なことでもさせようっての?
十八歳未満のあたしに……
「フッ、安心しろ。オマエが想像しているような仕事じゃない」
「……じゃあ何よ」
「下着は付けたままでいい」
「誰がやるか、この変態っ!」
つまり、ランジェリー何とかってやつでしょ。
それだって十八禁じゃないか!
大森さんは新たに一枚の紙をあたしの前に突き付けた。
目に飛び込んできたのは――『契約書』という文字。
「これって……」
「被召喚者、オマエは明日からディペンダーとして働いてもらう」
「えっ!」
ディペンダー、にあたしが?
何でそんな話に!
「大森部長、何でっ!」
「河原、今回のペナルティとして、オマエには被召喚者自身を背負ってもらう」
「背負う?」
「コイツがいっぱしのディペンダーになり、返済能力が身に付くまで、彼女の教育係をするんだ」
「教育係……」
あたしがディペンダーとして、働く。
ウニちゃんみたいに?
……いやいや、ムリじゃないですかね。
「部長、そんなこと言ったって、彼女にディペンダーは無理です」
「それはオマエ次第だ。河原、オマエはスクールの主席卒業生でディペンダー採用試験の最年少合格者だろう。むしろ簡単だと思うが」
突然の出来事に唖然としているあたしに、
大森さんが一本のペンを差し出した。
「被召喚者、残った選択肢は二つだ。ディペンダーになるか囚人生活か。どちらか好きな方を選べ」




