20「調査部局部長室」
『調査部局部長室』の札がある部屋の中。
扉を入って奥へ進むと、複数のPCが置かれたデスクがあり、そこに背広姿の男性が座っていた。
大森聡一朗、という人だ。
PCのディスプレイ画面に目を向けたまま、
少し長めのマッシュヘアーを掻き上げ、
ナスカさんやあたしがやって来ても、まるでお構いなし、という風に、
キーボードをカタカタと打っている。
うわーいかにも冷徹エリートな匂いがするっ…
そして、部屋には大森さん以外にもう一人いた。
彼と向かい合う形で小さな女の子が立っている。
……ウニちゃんだ。
「河原、すまん。待たせたな」
「……べ、別にっ」
彼女の横に立つナスカさん、
その更に横でウニちゃんの声を聞いてたあたしは、少し安心する。
「聡一朗、揃ったが」
声を掛けられたにも関わらず、大森さんはナスカさんを見向きもせずに言った。
「貴様は出ろ。河原と被召喚者の三人で話がしたい」
「おいおい、そりゃねえだろ聡一朗。俺も事件に関わってるんだぜ」
キーボードの上を踊る手が一瞬止まる。
しかしすぐに動き出した。
「ナスカ、貴様の望みは知っている。安心しろ、ディペンダー一人雇うのにどれだけの時間と経費をかけてきたと思ってるんだ」
「……河原の処遇、信じていいんだな」
げ、ナスカさん。いなくなっちゃうの?
アナタに去られると、この後すごーく気まずいんですけど。
ウニちゃんもいるし、知らない怖い偉い人もいるし……
この後の展開に対して不安を抱きはじめるあたし。
ナスカさんは去り際、あたしの肩を叩いて言った。
「聡一朗との話が終わったらアンタを宿泊場所まで送る。エレベーターで一階のエントランスに来い」
今からじゃダメですかね……?
そしてバタンと扉が閉まり、部屋は三人になった。
その直後、ガシャンッ、と大きな音。
ドアにオートロックがかけられた音だった。
……わざわざ鍵を?
警戒することじゃないとは思いつつも、緊張が少し増す。
「河原ウニ」
大森さんが言った後、カチカチッと一際大きなクリック音が鳴る。
すると右側の黒い壁を四角い光が照らした。
「は、はい……」
「オマエ、過去の記憶はあるか?」
「過去の……いえ、ありません」
「被召喚者、そっちはどうだ?」
「あたしもありません」
光に映像が再生される。
これって……あの時の。
無音のスクリーンに映る地下通路。
侵入者の男性が糸に拘束され、
ウニちゃんが傍で叫び、
あたしが膝を付いている。
あたしの手が男性に伸び、そして――
「あっ、シャレコ!」
映像を見て、その時の感情を思い出したように、ウニちゃんが声を漏らした。
その後、ウニちゃんに突き飛ばされ、
あたしが地面にうつ伏せた所で映像は停止した。




