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19「トワイライトの夕焼」

 

 

 

 廊下の途中に設置されているエレベーターで三階へ。

 その後、更に少し歩いてガラス張りの大きなエレベーターに乗り込む。

 階を選ぶボタンは飛び飛びに数字が記載されていて、最高で五十三まであった。

 ナスカさんがボタンを押すと、五十階に向かってエレベーターが上昇しはじめる。


「五十三階までが調査庁として使われている。そっから上は完全機械制御のアンテナ兼監視塔だ」

「あの、調査庁ってどんなところなんですか?」

「事実上はトワイライトの治安維持、まあ警察ってところか。かつては調査活動を行う機関だったから今もそう呼ばれている」

「へえ……」

「外を見てみろ」


 言いかけた言葉をつぐんで、エレベーターの外側に視線を向ける。

 遮蔽物がビュンビュンと飛び交うに連れ、視点も上昇し、

 現在立っている場所がどこかのか、明らかにされていく。

 

「……すごい」


 それは一言で言えば大都市だった。

 高さを競い合うように建てられた高層ビルやマンション。

 土地を贅沢に使った工場らしき巨大施設、街の隙間を埋め尽くす住宅らしき家々。

 幅の広い歩道には多くの人々が行き交い、地面より高い場所をモノレールが走っている。

 そして街の外、無限に続く草原地帯の向こう側で、

 指で摘まめそうな光の球が世界全体を赤く染め上げていた。 


「悪くない景色だろう」

「はい♪」

「夜景はもっといい。“薄明かり(トワイライト)”なんて名前を嘲笑いたくなるほどの絶景だ……まあ、俺たち調査官だけに許された特権な訳だが」

「普通の人は入れないんですか。なんかズルい」

「許してくれ。この街の生活基盤を支えるENEエネルギー塔、それを支えるのが俺達ディペンダーの役目なんだ。一度見れただけでもアンタはラッキーだよ」

「あの、ENEエネルギーって何ですか?」

「概念としては『物体が仕事を成しえるための動力』の通称。ざっくばらんに言えば車が走ったり、物を温めたりするのに必要な力のことだ」

「えーと、つまり電気みたいなものですか」

「街で生活する分にはその理解で支障はないだろう。電気以外にも熱やそれ以外のエネルギーに変換されて日常生活の中で使われる」

「ふーん、便利なエネルギーなんですね」

「それだけじゃない。生命活動にもENEエネルギーは必要だ。ディペンダー専用のスキャニング機能を使えば、アンタも人の形をしたエネルギーの塊に見えるだろうよ」

「そういえば……」


 スキャニングって、河原さんがやっていたような。

 あたしのスリーサイズを確認するために……


「な、なんておそろしい機能なんだ」

「ん? ……しかしディペンダーじゃないアンタには関係ない話さ」

「そうですかね……あの、もう一つ聞いてもいいですか?」

「どうした?」

「あたしはやっぱり、この街の人間じゃないんですか? 昨日までここで暮らしていたとか」

「いや、それはない」


 チン、とエレベーターが目的地の到着を告げ、扉が開く。


「向こう側を見ろ」


 『開』のボタンを押しっ放しにして再び外を見るように促すナスカさん。


「この塔が監視塔だってさっき言っただろ」

「はい」

「調査官以外の生体のENEエネルギーが現れると、その瞬間、塔はそれを自動検知し、スキャニングデータを調査庁本部に送信する」

「は、はい」

「検知対象エリアは街を中心とした半径千五百キロ圏内と広大だ。しかし塔がエネルギーを検知する場所は何故か決まってトワイライト近辺の地下通路出入り口付近から少し離れた位置。仮に地下の監視の目を巧みにかいくぐったとしても、マンホールの蓋を開けた途端検知されるはず、にも関わらずだ」

「……はい」

「更に言えば被召喚者が出現した際のスキャニングデータは自動保存されている。その後、二十四時間以内に住民データバンクに仮登録される仕組みだ。登録時にもしバンク内の登録住民と一致するENE循環パターンを持つ人間がいた場合、その瞬間に必ず、」

「ナスカさん、」

「どうした?」


 目がほとんど閉じかけたあたしが振り向くと、ナスカさんは少し驚いたような顔をして、ボタンから指を離した。


「あっ、と」


 閉じかけたドアを慌てて開き直すナスカさん。

 一方のあたしは難し過ぎる話を聞いたことによる疲労感で頭が鉛のように重かった。

 きっと今のあたしの顔は死んでいるに違いない。


「……すまなかった」

「いえ、あたしが馬鹿なのがいけないので」

「……もう行くか」

「そうですね……」


 力なく返事をしたあたしは、のそのそとエレベーターを降りた。

 

 

 

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