18「ナスカさん」
「それって、河原さんのこと?」
その時、再びウインと扉が開き、チサトが振り向いた。
一人の男性が頭を少しかがめて扉をくぐる。
背、高いなー。
身長だけじゃなくて、体格自体もがっしりと大きい。
「あっ、ナスカ」
その男性に声をかけるチサト。
「『あっ』じゃねえよ。目覚めたらすぐに知らせろと言ったろ」
黒のロングTシャツに黒のズボン。
髪は黒の短い散切り頭で、太い眉に尖った眼。
年齢は一回り以上違うだろうか。
ズボンのポケットに手を入れ、やれやれと溜息を吐く。
「別にいいでしょ。ちょっとぐらい待たせたって」
ナスカと呼ばれた人があたしを見た。
「よお、被召喚者。体調はどうだ」
「あっ、ええと大丈夫です」
「そうか。俺はナスカ。気を失っていたから分からないだろうが、俺がアンタをここまで運んだんだぜ」
「あたしを?」
あっ、そういえば。
地下通路で『河原っ!』って男性の声が聞こえた。
じゃあ、あれがナスカさんだったのか。
「被召喚者、目を覚ましたばかりで悪いが、頼みがある」
「頼み、ですか」
「ああ、地下通路で起きたことをいくつか教えて欲しいんだ、一緒に来てくれ」
「は、はい」
「チサト、被召喚者を着替えさせてくれ」
「分かったわ」
「その間に俺は河原と聡一朗に電話してくる」
そう言って、ナスカさんはすぐに部屋を出て行った。
今、ウニちゃんの名前言ったよね。
彼女、やっぱりここにいるんだ。
「ひとまずこれに着替えて」
チサトさんは紙袋を床に置くと、ベッドを仕切るカーテンを閉めた。
「ありがとう」
立ち上がって紙袋の中身を取り出してみると……おおっ。
「か、可愛い……」
ひどくスリムな黒のワンピース。
丈、短いな。
しかもノースリーブだし。
「これ、チサトの私服?」
カーテン越しにチサトさんへ声をかける。
「そうよ。嫌い?」
「とんでもない。っていうかあたし、こーゆーの好き……なんだと思う」
「良かった。でも今のあなたも私好きよ」
「冗談でしょ、こんな病院みたいな服」
「本当よ、だって……」
もしかしてお医者さんだから、そーゆー趣味があるのか?
と思いつつ、上着のボタンを全て外した時、
あたしは衝撃的な事実に気付いた。
ズボンの薄い生地から透けて見える、動物の茶色いシルエットに。
「シースルーでクマさんだなんて、私が男だったら放っておかない」
そうだった……あたし、こんな格好だった。




