17「友達」
その時、彼女の唇から息が漏れた。
まるでこれ以上我慢ができないというような噴き出し声だった。
え、一体どういうこと?
予想外の展開にバッと顔を上げると、彼女は口を押さえて込み上げる笑いを必死にこらえていた。
「……もうっ、馬鹿」
白衣の袖を通した手で、あたしに猫パンチをする彼女。
顔が赤くなっている。
か、可愛い過ぎる。
……抱き締めてもいいですか。
「……君、面白いね」
とにかく、冗談だと理解してくれたみたいだ。
良かった、思いが伝わって。
「そ、それほどでも……」
頭を掻くあたしに、彼女の手が差し出される。
流れはよく分からないけれど、握手を求められているみたいだ。
おずおずと手を出して、彼女の手を握る。
「……どうも」
軽く会釈すると、彼女の両手があたしの手を強く握り、
キラキラと光が散るような笑顔をあたしに向けた。
「私、上切チサト、十六歳よ。あなたは?」
「あたしは……」
ツルペタクマ子……いやいや。
「まだ名前はないけれど、十五、六歳……らしい」
「じゃあ同い年ってことでいいよね。ねえ、あなた、私と友達になってよ」
「と、友達?」
「……嫌かな?」
そ、そんな哀しそうな眼で見つめないで下さい。
むしろ嫁になれ、と言いたくなります。
「う、うん。友達ね。いいよ」
「やった。じゃあ約束ね、指切り♪」
「あ、はい。指切り」
気に入られた、ということでいいのかな。
「凄く嬉しい。実は私、友達いなかったの」
「へ、へえ、そうなんだ。そうは見えないけど」
「そんなことないよ。特にこんな仕事をしていたらね。悩みを相談できる人もいなかったし」
「……そっか、お医者さんだもんね、大変そう」
そういう意味では、あたしも彼女と同じ立場だ。
記憶を失ってしまったばかりだから、友達なんているはずもなく。
それどころか両親もいないし、いた記憶もない。
兄弟、姉妹、親戚も同じく。
顔見知りと言える人すら一人も……
その時、彼女の小指が離れる。
あたしは、ウニちゃんのことを思い出していた。
彼女……友達いるのかな。
「あの上切さん、」
「チサトでいいよ」
「じゃあ……チサト、ここってどこ?」
「ここ? 調査庁の特別課専用医務室だけど」
調査庁特別課……ってことは?
「ウニちゃ……ディペンダーのあの女の子は」




