14「既視感」
次に目を覚ましたのは保健室のような白い部屋。
枕側の壁に三つのベッドが並んでいて、
壁側にある一つにあたしは寝かされていた。
「……むにゃ、」
のっそりと上半身を起こして部屋に目を向ける。
対角線上にはドア。
その傍に鉄製の棚、更に隣にスタンドライトの置かれたデスクがあり、
無人のイスはドアの方を向いている。
残りの二つのベッドは毛布が畳まれていて、
しばらく使われている様子はない。
現在、この部屋には誰もいないようだ。
「……夢、どんなだったっけ?」
空気の抜ける風船のように、
猛スピードで収縮していく夢の記憶。
暗がりの中で誰かと会話をしていた、ような気がする。
どんな内容の話だったっけ。
何か、とても大切なことだったと思うけれど。
「ま、いっか」
そんなことより気になるのは今のこの状況だ。
知らない所で目を覚ますなんて、なーんか既視感るんだよね……
ついちょっと前にも、同じことがあったような……
あっ。
「パンツ!」
寝ぼけていた意識を一瞬にして取り戻す。
ズボンを引っ張って、ちゃんと履いてるかどうか確認。
その後、首元から自分の身体を覗き込んで上も付けているかチェックする。
「……良かった」
ムカつくぐらい身体にフィットした、子ども用の下着だけれど。
ちゃんとあることが分かって一安心。
そしてそれをきっかけに、一人の女の子の顔が脳裏に浮かび上がった。
「ウニちゃん……」
記憶は相変わらず昨日を境に途切れている。
しかし草原で目を覚ました後からの記憶は忘れていなかった。
クマさんのパンツを貰ったことは言うまでもなく、
地下通路で起きたあの出来事についてもまた。
あたしは自分の右手の指先を見た。
表と裏を交互に返しながら、まるで他人の手のように観察する。
男性を拘束する糸が切れた時のブツン、という音。
今も鮮明に耳に残ってる。
恐怖に歪んだウニちゃんの表情とセットで。
あたし、彼女に色々悪いことしちゃったな。
ほっぺた叩いちゃったり、
ぬいぐるみもボロボロにしてしまって、
そのくせ彼女に向かって『大丈夫、あたしがなんとかしてあげる』なんて。
次に会った時には、ちゃんと謝ろう。




