「夢」
困難で苦しいもの。
あたしを試し、傷付け、苦悩の渦に陥れるもの。
近付いても近付いてもあたしの手の届かない所にあって、
常に一段高い所からあたしを見下ろしている、
そんな壁のようなもの。
それがあたし語りかける。
『オマエに俺が越えられるのか』、と。
あたしは壁に向かって叫ぶ。
何でそんなことしなくちゃいけないの?
別にあなたを越えるためにあたしは生きているんじゃない、と。
壁が笑う。
それに吊られて世界も笑う。
みんながあたしを笑っている。
『では何故今もそうやって俺にしがみついているのか』、と。
その通りだ。
なんであたし、こんなに必死になって。
楽しいことなんて一つもありはしない。
かつては持っていたはずのここにいる意味すら、もう忘れた。
次に手を伸ばすその場所が、今より高い所なのか、低い所なのかすら分からない。
かつては一緒に上っていた人達も、気が付けばいなくなっていた。
ライバルも、後輩も、かつて憧れていた先輩も。
気が付けば、一人だった。
『それでもなお手を伸ばそうとする』
うん、そうだよ。
だって、ずっとそうしてきたから。
それ以外の選択肢なんて見向きもしなかったから。
習慣、習性、執着、依存。
そんな類の何かがあたしの身体を付き動かして。
むしろ諦めて楽になることに恐怖を感じている。
病気、だよね?
『だが、そんなオマエに救われる人間もいる』
慰めてくれるの?
まさかあなたにそんなこと言われるなんて思ってもみなかった。
でも嬉しいよ、ありがとう。
あたし、もう少しだけ頑張ってみるよ。
たぶん、残り時間はそんなに長くはないけれど。
それでも最後の最後まで、あたしはあなたを見つめ続ける。
だってそれが、あたしのプライド。
世界とあたしを結び付けてくれる唯一の希望なんだから。




