13「変化、そして切断」
それは時間にしてみれば、恐らく数秒間の出来事だったと思う。
苦痛に顔を歪めている男性のことも、我を忘れた女の子のことも忘れ、
あたしは自分が新しい思考へ上書きされ更新されていくのに、意識の全てを向けていた。
だってこれぐらいのこと、あたしできる気がする。
そんなことを考えながら、
あたしの指先は自然と男性を拘束する糸へと伸び、
そして――
――エラーコード999。本体からエネルギーが流出しています。原因を確かめ、対処して下さい。エラーコード999……
――変化が訪れた。
……ブツンッ!
「……えっ?」
背後でウニちゃんの声。
「嘘……何で!」
その時、あたしの全身から力が抜けていくのが分かった。
ウニちゃんに横から突き飛ばされても、抵抗できず、その場に倒れてしまう。
「シャレコ……何でこんなことに」
男性の身体を押しのけ、自分のぬいぐるみを引っ張り抜くウニちゃん。
そして、もはやぬいぐるみの形を成しておらず、切断されたゴムのようになったそれを強く腕に抱きしめる。
「オマエ、シャレコに何をしたっ!」
憎しみを込めた激しい口調であたしを責める彼女の声。
……ごめんね、ウニちゃん。
息を吸って言葉を紡ごうとしたけれど、声を出す力がない。
「許さない……私の邪魔をして、シャレコをこんな目に合わせて」
首元を掴んで、あたしを睨みつける彼女。
その目尻からは大粒の涙が溢れていた。
熱を持った液体があたしの頬にぽたり、ぽたりと落ちた。
「これじゃあ、私まるで……」
「――――河原っ!」
「ハッ!」
どこかで男性の声が聞こえた。
その瞬間、ウニちゃんの目が大きく見開いた。
「私……何を?」
男性の声で、彼女はどうやら我に返ったみたいだった。
歯をカタカタと震わせ、恐怖で顔が引きつりはじめる。
「どうしよう。このままじゃ私……」
怯える表情の彼女に――
「ウニちゃん……」
――あたしは手を伸ばした。
指が触れた途端、ビクンッと瞳が震えて、焦点があたしに向けられる。
「……クマ子、私」
涙を目じり一杯に溜めてあたしの名を呼ぶ小さな女の子。
まるで救いを求めるかのように、あたしを覗き込んでいる。
そんな彼女を安心させようと、あたしは精一杯微笑んだ。
彼女の頬を手の平で包み、優しく撫で――
「大丈夫……あたしが何とかしてあげる」
――それを最後に、あたしは意識を失った。




