12「無力感」
そのメッセージが言わんとすることは何となく分かった。
ぬいぐるみの力の源であるエネルギーが底を尽きかけている。
何もしなくてもあと二百秒足らずで男性の拘束は解けそうだ。
でも、二百秒なんて時間、耐えられるだろうか。
しかし、この疑問は一瞬にして考える価値を失った。
次に聞こえた機械音声。
――……補充完了。現在、エネルギー充足率65%。コラースレッド機能継続します。
まさか……エネルギーが回復した?
「ウニちゃん、どうして!」
あたしが振り向いたのと、彼女が腕を下ろしたのは同時だった。
そしてウニちゃんはククッ、と笑った。
「どうして? そんなの決まってるじゃない。お母さんのためにこんなに、こんなに頑張ったのに……置いていこうとするなんて……許せない、」
そしてゴキッ、と鈍い音。
「そんなの、絶対に許さないんだからーーっ!」
「グアアアアーーーッ!」
糸は更に力を増し、男性の肉体は今にも押し潰れそうになる。
ウニちゃん、正気を失っている。
あたしの言葉も届かない。
かといって自力で糸を解くのは不可能。
……どうしたら。
これ以上一体、どうしたら。
あたしの力じゃ――
今の状況に対して何もできない自分への無力感が、あたしの心に沸き上がって――
「……助け……苦しっ……オエッ、」
男性の口からこぼれ出た赤い液体。
「…………っ!」
――その時だった。
突然、両目がじわっと熱くなるのを感じた。
「……ごめんね、あたしの力じゃあなたを助けられない」
男性の顔にこぼれる液体。
あたしは涙を流しながら、同時に言葉とは全く別の思いを胸に抱いていた。
……何か、違う気がする。
どうしてそんなことを思ったのか、自分でも分からない。
でもそれは不思議な感覚だった。
あたしの中にもう一人の人間がいるような、そんな感覚。
そのもう一人の誰かがあたしの脳を乗っ取って、勝手に思考しているみたいだった。
もう一人の彼女がこう言う――
――これってそんなに難しいことなのかな……




