11「嘘と頬」
「見苦しい嘘。そんなことで街を離れる人間がどこにいるの」
「嘘じゃない、本当なんだ。」
「私、分かってるのよ。あなた“虹”のメンバーなんでしょ」
「“虹”？ ば、馬鹿言うな！ どうしてあんな殺人狂グループなんかに」
虹のメンバー？
何、それ……
あなた、その人の言うこと聞いてたでしょ。
「正直に言わないと全身バキバキになるわよ。いいの？」
「ぐあああっ！」
ウニちゃん、いくらなんでもこんなのって……
「やりすぎじゃない？ この人が嘘を付いているなんてあたし思えない」
「被召喚者のあなたは黙ってて。この人は無断で地下に侵入し、ナイフで私を襲った。立派な犯罪者よ」
「だからってこんな拷問みたいなこと」
「クマ子、この男に同情してるの？ 大丈夫、シャレコの拘束では人は死なない。死ぬ寸前まで痛め付けるだけよ。ほらほら、どう？ 身体の悲鳴が聞こえるでしょう」
「止めやっ……ぐっ」
「忘れる？ ふざけないで。忘れられる人間の気持ちなんて考えたこともないくせに！」
ウニちゃん……どうしちゃったの？
ちょっと性格おかしいって思ってたけれど、今の彼女はそんなレベルじゃない。
普通、じゃない。
だってこんなこと――例えあなたが何者だって、これが正しいはずがない。
――そう思った時、あたしの身体は動いていた。
「ウニちゃん、いい加減にして」
「しつこいわね、何――」
――パンッ。
「……こんなの、間違ってる」
「なっ……」
あたしは彼女のほほを叩いた。
そしてすぐさま男性の元へ。拘束を解こうと糸の表面に爪をかける。
くっ、固い。
糸は身体を完全に覆い隠すほどに隙間なく折り重なっていて、全く歯が立たない。
肌が出ている首の部分から指を入れ、穴を広げるように引っ張ってもみたが、並大抵の力ではビクともしなかった。
「ウニちゃん、お願いだからこれを解放して！」
「…………ぅして、」
あたしは叫んだが、ウニちゃんには何の反応もなかった。
叩かれたのがそんなにショックだったのだろうか。
聞き取れないぐらい小さな声で何かぶつぶつとささやいている。
「……ぇなぃ……け分かんなぃ」
「ウニちゃん、ねえ？」
「こ、離せえええええええっ！ うあああああっ！」
締め付けられる痛みに耐えかね、叫び狂う男性。
ミシミシと骨がきしむような音があたしの耳まで届く。
これ以上圧迫されたら、この人……
「ウニちゃん、このままじゃこの人、死んじゃ――」
その時、糸の塊から音声がした。
――エネルギー残り１％です。約三分二十秒後に機能停止します。サーバーからエネルギーの追加補充を行いますか？
