俺は決闘を観戦する
俺が今いる場所は公園のはずだ。
子供達が遊びまわり、老夫婦が散歩の為に訪れたり、はたまた自らの芸を磨くため手品をする人がたまに現れ、ちょっと不思議な体験をさせてくれる。
そんな老若男女が利用する、とても穏やかな空気が流れる憩いの場だと思う。
それが今は、二人の人物がお互いに剣と杖を構えながら睨み合う、とても殺伐とした空間が出来上がってしまっている。
先程、青髪の美女ラミナがしつこく求愛してくるお坊ちゃんに決闘を申し込み、それをお坊ちゃんが受けたからだ。
勝敗は先に膝をついた方が負けという、とてもシンプルなルールで殺し合いなどでは無い筈だが、二人共それに近い表情で向かい合っている。
クレアはベンチに腰掛けて休憩している。いや、茶を飲みお菓子を食べている。
ポリポリ
「美味いなこれ」
「でしょ? ラミナと食べようと思って持ってきたの」
俺も一緒に茶を飲みクッキーを食べている…。お腹空いてたし、ちょうど良かった。
そうして殺伐とした空気の中で、決闘は始まった。
剣を構えたラミナが走りだし、坊ちゃんの杖を斬りつける。
ラミナは相手の武器を狙うのが定石なのか。坊ちゃんは杖でそのまま剣を受け止め、押し返して数歩下がり、距離をとったラミナに、杖を向けて叫ぶ。
「我が力を糧とし、炎の理を解き放ち根を張り、天をつけ''炎樹''」
声を発した瞬間に、坊ちゃんの足下から小さな火が生えて纏まり大きくなり、何本もの枝のように分かれ伸び、ラミナを襲い始めた。
魔法の詠唱? 本当にゲームみたいな魔法の攻撃だった。
「っはぁ‼︎」
ラミナは両手で持った剣を振り回し、炎の枝を斬り刻むが、全ての炎を無力化出来ずにその硬そうな鎧が傷つき、傷から血が流れ出し足がふらつき始める。
「ははは、もう少しで君は僕のものさ」
「くっ!」
頬や腕、腹や足の辺りから血が流れ皮膚がむけてたりしてスゴイ痛そうだ。考えてなさすぎだろラミナさん。脳筋の騎士かなんかなのだろうか。
「どうしよう……アレックス」
「うーん。助けようか…」
心配した顔で俺を見るクレア。膝をついたら負けだと決まってたけど、もう少しやったら坊ちゃんはラミナの命も取りそうだ。
【オリーブ、力を貸してくれ。俺はまだ魔法も剣も使えないけどこれは黙って見過ごしていいものじゃ無いと思う】
【次は、無いわよ?】
【うん。次からは自分の力でなんとかする】
【…わかったわ。なるべく寝込まないくらい力を弱めるから、あとは自分でなんとかしなさい】
俺は、なんかもっと気楽な感じで観戦してたがこの世界での魔法が、アニメや漫画のように簡単に人の命を奪えるものだと思わなかった。
「これで終わりだ! 我が力を糧とし、雷の理を開放し雲を破り、地に轟け''白雷''」
高らかに言い、放たれる魔法をオリーブに操られた俺が素早く動き、膝を着きそうなラミナの前に立ち、オリーブを頭上に掲げる。
【魔龍】
オリーブが発する言葉よりも速く、さっきまで身体中に満たされていた魔力が抜け、魔剣の切っ先から龍の形をした魔力の塊が発射される。
「何だ、魔法か⁉︎」
「アレックス、お前……」
坊ちゃんが驚き、ラミナが剣を支えに蹌踉めきながら何とか立っている。
二人の声を聞きながらも、意識の大半は魔力を吸ったオリーブが、雷の魔法を消滅させている事に向いていた。
ドゴォン。
俺とラミナに向かってきた雷は、その役目を果たせずに龍に喰われ消滅し、辺りは静寂に包まれる。
魔力を使い、魔法を跳ね返し、他の場所に被害が出る前に魔法を消す事に成功した俺は軽い脱力感に襲われる。
「アレックス‼︎」
「アレク‼︎」
クレアとラミナは俺に駆け寄る。ちょっぴり眠りたい気分の俺は、少しの休憩をとるために目の前に来た二人の方に倒れ込み、意識を手放した。