俺はジョギングをする
朝日が昇り、小鳥達が囀る。そんな穏やかな空気の中、人々の生活が始まる。食材や物品を売る為に店頭に整理して並べ始める者や、それらを買い取る者。店を開け、看板を立てかける人達。
その人達を視界に入れながら、俺は昨日、身にしみて感じた体力のなさをどうにかしようと思い、街の中を走っていた。
街の中を走っていて気付いたが大きな城と裕福そうな家がある辺り、王様とか貴族とかもいるみたいだな。
「はあっ、はぁっ」
【いい、天気ね〜】
腰に差した魔剣は走るたびにカチャカチャと音を立てる。連れてけと煩かったし、武器を持って走るのもいい特訓になるかと思い、持って来たのだ。それにしても、剣なのに天気とかわかるのだろうか?
そうして、野菜や果物が売っている屋台を通ると、声を掛けられた。
「おやアレックス、朝から元気だねぇ。これ持っていきな」
「あっ、有り難うございます!」
声を掛けてくれて食べ物を分けてくれる人がいると、この街は活気が溢れてるな。なんて思う。屋台のおばちゃんが''りんご''と書かれた台に置かれた果物の一つを俺に投げる。
それを受け取り、林檎って異世界にもあるのか。と思いながら齧り付くと、少し酸っぱい味が口内に広がる。
「うまっ」
本当に林檎だった。名前だけ同じで、別の食べ物かと思ってた俺は嬉しくなり、直ぐに食べ終わった。
残った芯を通りがかった公園のような、ベンチと遊具がある広場の隅にあったゴミ箱に捨てた。
「せいっ、やぁ」
「ふっ、とぉ」
ゴミ箱の近くの木陰に入り、剣を置き布で汗を拭き取っていると、広場で槍と剣を打ち合っている人達が目に入る。
槍を持つ人はクレアだった。昨日レガローさんのとこで買って、それからマロンラビットを狩る時に使っていた革の鎧を着込み、首の辺りで切られた短めの明るい茶髪は槍を動かすたびに揺れている。
剣を持つ人は重そうな鈍い色の鎧を着ながら、クレアの槍を難なく避け、追撃を繰り出す。
クレアよりも髪が長いのだろう、頭の後ろで纏めてポニーテールにしている。そして鎧、明らかに胸部の部分が大きい。きっとすごいブツがその中に隠されているのだろう。
いいな、ポニーテール。そして一際目を引かれるのがその青い髪。染めたというよりも、そうゆう人種なのか。色に不自然さと不快さは感じない。こっちの人も美人さんだった。
髪の色を見ると、やっぱ異世界なんだなとしみじみ思う。
【亜人もいるわよ?】
魔剣は遂に俺の心を読み始めた。怖。
【オリーブって呼んでよ。あと心の声がだだ漏れなのよ。オンとオフぐらい切り替えられるようにしなさいな】
【へいへい】
やがて打ち合いが終わりに近づくにつれ、先程よりも激しい動きを繰り出し、青い髪の美女が剣で槍を弾き、その槍はクレアの手から離れ、地面に突き刺さる。
こうなる事が解ってたのか、彼女達の周りから少し離れた場所で見物してる人もいるぐらいだ。
剣を鞘に収めた美女、槍を地面から抜いたクレアはお互いに一礼し、近くのベンチに向かって歩き出す。
見物していた中から一人、真っ赤な薔薇の大きな花束を持ったお金持ちそうなお坊ちゃんが、二人の行く道を遮る。
そいつは事もあろうにクレアと青髪の美女、二人に向かい片膝をつき、薔薇の花束をそれぞれに渡し何か言っている様だが、この位置からだと全く聞こえない。
【二人とも、やはり僕のものになってくれないか?だって〜】
【えっ?】