俺は魔剣を買わされる
静まり返る店内は異様な光景なのだろう。普段ならこの店内は外にある他の商店の様に、利用する客の楽しそうな声や売り子の接客する声などで活気があるはずだ。
だがこの武器屋、レガロ金属加工店には俺とクレア、そして店主であるレガロー氏しか居ない。そして店主は固まり、クレアも同じ様にじっと俺を見つめる。
俺は二人に見つめられ、何かやっちゃいけない事をしてしまった気分に陥った。だから静かに片手剣を鞘にしまい、樽に戻した。
例えばそれは、子供が叱られるのを恐れる余り、必死にそれを隠す様にする行動の様なものだった。
『本当にあたしの声が聞こえてるの⁉︎ お願い、あたしを買ってよ』
『やっぱり道具は使われる為に存在してると思うのよ』
樽に戻された片手剣が何かを言うが、俺には聞こえない。そう、聞いちゃいけなかったんだ。いくら異世界といっても元の世界の常識が所々同じなのは気づいていたよ。
食べ物や服装、元の世界と比べたらかなり違うけど全く別ってわけでもない。少し古い時代のものだと思えば良いんだ。多分中世ぐらい?
魔法はあるけど、おまじないレベルかもしれないじゃないか。ゲームとかみたいに炎とか氷とか雷とか使うわけないよ。魔法書にはそんなこと書いてあったけど、使えたら良いね。きっとその程度だよ。
そうして、ながながと自分に言い訳してたらレガローさんが俺に言った。
「喋る剣なんて、置いた覚えはないがアレックスの言うことが本当なら、そいつを譲ってやるよ」
「えっ、良いんですか?」
「おう武器が喋るという事はな、多分そいつは魔法武具の亜種だ」
「魔法武具?」
多分その時の俺の顔は、はぁ? 何言ってんのこいつ。って顔をしていたと思う。そんな俺の様子を気にせず、レガローさんは語り出した。
「喋る剣なんて俺は聖剣か魔剣しか知らねえな」
「聖剣は確認されているもので一振りだけ。デザインも見た事ある。だからそれは聖剣じゃなくて魔剣だ」
「大昔の魔法武具ってのは、魔法の補助の為の術式が弱くて、その制御をさせる為に知能を持った精霊や生物を中の核に取り込ませて造られる。そしてその声が聞こえ、意思の疎通が出来る奴が使い手となってきた」
話を聞いてて思ったけど、これって買うというより押し付けられるって表現が適切な気がしてきた。
「その片手剣を置いてから五年、どいつも剣の声が聞こえてなかった。勿論、俺も例外じゃない。その剣は手入れしていないのに何故かいつも綺麗な状態だった。多分その剣は、壊れる事がないって事に気づくことすら出来なかった…」
「頼むアレックス、そいつを貰ってくれ」
「……わかりました」
『苦節五年、やっとまた剣として使ってもらえるのね、嬉しいわぁ、あたし〜』
あげると言われた物を返す気になれず受け取った。何かこの剣壊れなさそうだということも聞き、持っとくだけでも良いかなって思えてきたし。
こうして俺は新しい武器を手に入れ、クレアも装備を整え、レガロ金属加工店を後にした。腰に差す剣は買ってもらえたのが嬉しかったのか、店を出てからずっと勝手に話しかけてきたが、クレアと話す為に全て無視した。