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俺は今日からアレックス

「アレックス、ごめんね、ごめんね……」


 誰かが泣いてる声が聞こえた。

 その声は喉から絞り出すようにごめんねと、絶え間なく誰かに謝り続けている。



 そんな哀しそうな女の子の声を聞きながら俺は目を覚まし、それと同時に薬品の独特の匂いが鼻に入ってくる。

 取り敢えず、誰かが保健室まで俺を運んでくれたという答えにたどり着き、目が覚めたので起き上がってみた。


「ゔっ、いってぇ」

 なんか、身体中がだるいな。そして頭がじんじんと一番痛みを訴えている。


「アレックス!」

「えっ?」


 そう叫び、俺の横に座りながら涙目で見てくる美少女。髪は肩に届かない位の長さで自然な感じのストレート少しだけ気が強そうな大きな眼で俺を見つめる。10人中7人は振り返りそうな結構可愛い部類に入ると思う。

 うん、誰だこの子。こんな美少女は俺は知らんぞ。


「アレックス、大丈夫?」

「君は誰?」

「……そう、そうだよね。足を引っ張った鈍臭い私の事なんて記憶から消したいぐらい嫌だよね。うっ、ゔっ、」

 君は誰の後に俺にはもっと素敵な名前があるんだぜ、ハニィーって冗談を言おうとしたら、誰? の部分でつぶらな瞳の輝きは消え失せ、悲しそうに言いながら泣き出した。


 やべぇ、女の子を泣かしてしまった。どんなに俺が人として屑だったとしても、女の子だけは泣かしたりしたらあかん。っておばあちゃんに何回も言われ、俺自身も誓いを立てたはずなのにまた泣かしてしまった。どうしよう、マジどうしよう。



「どうした! おおっアレックス目が覚めたか」


 俺がどうやって、泣き止ますか狼狽していると扉が開く音が聞こえ、金髪でチャラそうでイケ面なあんちゃんが入ってきた。誰だ?


「アレぇっくすがぁー」

「クレア、どうしたん?」

「…ひっく、わだしを覚えて無いっでぇぇ」

「落ち着けクレア、何かの間違い、きっとアレックスなりの冗談だって、落ち着けクレア」


「ゔっ、ゔっ……」


 泣いているクレアを優しく見つめ、頭をポンポンと軽く叩きサッとハンカチを差し出す金髪のあんちゃん。それで涙を拭き大人しくなってゆく美少女。


 すげぇ、イケ面すげぇ。そんな、頭を優しく叩いてからくしゃっと撫でるだけで女の子が泣き止むなんて、女の子を泣かす屑の俺とは雲泥の差。いやぁ、人として次元が違うなぁ……



 ***


 それから、金髪のあんちゃんは女の子(クレア?)を部屋から出し、俺の横にあるクレアが座っていた椅子に座り、真剣な顔で口を開いた。


「……アレックスお前ほんとにクレアの事、覚えてないのか?」

「あの、俺、あんたの事も知らないんだけど…」

「俺の事もか? 頭を強く打ち付けたみたいだからもしかしたら記憶喪失かもしれないな」

「……」

「よし、ちょっと待ってろ。今飯持って来てやる。あと今日は一日安静だからな〜」


 うんうん唸ってから、勝手に結論出して出て行きやがった。すげえ勝手な人だな。



 一人になってからこの部屋の中を確認してみる。


 窓と扉があってベッドは六台、いや六床か?それでカーテンが、一つのベッド毎に備え付けてあり、部屋の隅には洗面台がある。この部屋、全然見覚えないしなんか病院ぽいな。さっきの金髪、白衣みたいなの着てたし、医者なのかもしれないな。


 ここ、保健室じゃ無いな……


 いや頭と腕とかに包帯巻いてるし、きっと保健室じゃどうしようも無いほどの怪我だったのだろう。


 洗面台に向かった俺は、蛇口を捻り水を出し顔を洗った。そして鏡の横に掛けてあるタオルを使い顔を拭き鏡を見て怪我の状態を確認しようとした時、目がハッキリと覚めた。


「……えっ、何だコレ、誰⁉︎」


 鏡には俺自身が映っているはずだ、恐る恐る触りながら鏡を見て確認してみるが髪型がまず違う。俺は髪をボサボサに伸ばして整髪料で整えていたが、短く切り揃えられているし、それになんか童顔だ。

 女の子みたいな顔というよりは少し幼げの残る顔だ。髭も生えていたが顎周りを触るとサラサラしてて、髭は生えていないみたいだ。


 俺は急いで窓の方に走り、外を見て意識が追いつかなかった。


 ここは高さ的に見て二階にある部屋みたいだ。建ち並ぶ建物は外国のような造り、下では煉瓦か何かを敷き詰められた地面。そこを行き来する、馬車。そして往来する人々はタキシードみたいなスーツみたいなのやドレスを着ているお金持ちそうな格好やシャツというか少し色がくすんだ布のようなものを着て走り回る子供達。なんか昔の服というかあまり見た事のないつくりの服を着ていた。


 鏡に映る男を俺は見たことが無い。無いけれど、これでなんとなく納得できた。


 異世界か、ここは。本当にあの姿見に異世界に連れて行かれたようだな。


 じゃなきゃ説明できない。親しげに話す会ったこともない人達、身に覚えの無い呼ばれる名前。俺はきっと、鏡に映ったアレックスという男になったようだ。


 鏡にぶち当たって俺はどうなったんだ?鏡にぶつかるだけで死ぬことはないと思いたいが、それが原因で入れ替わったのか、アレックスと?


 さっきの人達に俺は、アレックスじゃないんです。って言っても信じてもらえそうもないな。いきなり友達が俺は山田じゃない、田中なんだと言って信じる人はどれだけ居るだろう。


 もしその田中も俺は田中じゃない、山田なんだと主張してくれるならばいいが、アレックスはこの世界に居ないかもしれない。居ない奴に俺はどうやって会えばいいのか分からない。


 ……山田の、間違えた。アレックスのフリをするしかないな。アレックスのフリをしていればもし本当のアレックスがお前は偽物だ!とか分かりやすく現れてスムーズに話が進むかもしれないし、元に戻れるかもしれない。


 現状すぐにはアレックスに戻れるとは思えないから、アレックスのフリをするしかないか。



 よし、今日から俺はアレックスだ!


 澄み渡る青い空を眺めながら、他人と身体が入れ替わるという不思議体験をして気が動転していた俺が変な決意を固めた時、扉から軽いノックの音が聞こえてきた。

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