おもい
私は、自分で自分を失うくらいなら
人とは関わらない。
例え、いたくても辛くても、壊れてもいい。
それくらい耐えて見せる。
でも、おわったら助けてね。
・・ねぇ、駄目かな?
昔は夢があった。
いつも満たされていて、幸せな。
楽しくて愉しい日々を送りたいと思っていた。
でも、いつの日か。
それが空想の世界にあるって気付いた。
いつの日からだろう。全てがつまらなく、色あせてしまった。
それからだ。
あの人に頼るようになったのは。
あの人なら、何かを変えてくれるかな、なんて思っていた。
幾度も幾度も裏切られてはすがりつく。それの繰り返し。
今想うと馬鹿だった。
それを気づかせてくれたのは、君だったんだよ。
「どうしたの」
どこからか声がする。
私に宛てたものじゃないと思っていて、反応が遅れた。
声のした方向を見ると、どこかで見たことのあるような男の子が立っていた。
歳は私より下に見えたけど、背が物凄く高かったから、もしかしたら同じくらいかもしれないと思った。
「別に何も。君は?」
そういえば私はブランコに乗っていたんだった、と金属の擦り合う音で気付いた。自分の手にはそれとは違う冷たさも、感じた。
「君が気になった、な」
彼が他にも何か喋っていたけど、風に紛れてよく聞こえなかった。
「随分はっきり言うね、怖くない?」
てかなんで気になったの?と、そう私は訊いた。
「君がとってもかなしそうな顔をしていたから」
あまりにストレートなその言葉に、ずくんと胸を撃たれた。手から刃を伝って血が流れ落ちる。
かなしそう、哀しそう、悲しそう?
「私が?」
うん、と君は頷いた。
まだ慣れて無かったの、私。
何度も同じことされたのに。
まだ想ってたの?
悲しいって。
「そんなことない」
認めたくなかった。信じたかった。全てを。
「でも、君は悲しんでる。君が思っている以上に」
私たちの間をすぅと風が通りぬけた。ぎしりとブランコの鎖が鳴る。
「違う」
「違くなんてない」
「私はもう何も思わないの。想いたくないの!!」
気が付くと、頬を水が伝っていた。
雨かとおもって、空を見上げるけど、
そこには星がひかっていた。
「そんなのだれが決めた?他人、親、君?」
「私」
彼は私にさらにちかづいて、ふわりと私の頭に手をのせた。
大きな手だった。
何故か、すこし安心した。
「君は生きていて、想ってる。今涙が。出たことが何よりの証拠。人は感情を捨てきれない。思っていることは、やるべきだよ」
それに、と彼は続ける。
「悲しくなかったら、真夜中にこんなとこ来ないよ」
彼は私の頭を撫でていた。
「悲しかったら、悲しいって言ってもいい。楽しかったら、楽しいって言ってもいい。何してもいい」
そういえば、私は本当の自分を出したことなどなかったかもしれない。
いつも怖がってた。恐かった。
あの人の私を見つめる目。
私に注がれる、嫌な思い。
だからこそ私は・・・。
「自分は大切にして」
涙が止まらない私は、ただ頷いた。
空には、きれいな星が光っていた。
私は自分を取り戻す。
壊れても、いい。
・・・ねぇ、ダメかな。
その次の日。
ある部屋に倒れた女性の鮮やかな赤い血が、畳いっぱいに流れていた。
かわいそうな母親。子どもはいじめちゃいけないって、教わらなかったのかしら。
私は、手に、昨日涙を拭いた手で、赤い刃を力いっぱい握り締めていた。
「スコップの用意はしてあったかしら?」
手からぽとりと血が滴った。