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その2

「見事じゃ! この甲冑は、AK47の銃弾にも少しは耐えられるようじゃの」

「こんだけのスピードに耐えられる体だから、丈夫にできているとは思ったぜ」

「あとはどのくらい敵を倒せば、筏を譲ってくれるかが問題じゃ」

「そうだな。筏を使うんだったら、結局、キブノ兵をほぼ全滅させなきゃいけない」

 

 別の手があればいいんだが。

 

「水の中に潜って問題ないなら、泳いで1階だった玄関から出て行く手も使えるよ」

「息の心配はしなくてよいのかのう」

「そりゃ分かんないねえ。魔術で酸素は作れるけど、この体の役に立つのかどうか。そもそも、魔術は使えるのかな」

 

 三人一緒の体だと、俺の魔粒子過敏症はどうなるんだろうな。

 

「魔粒子過敏症は神経症の一種で、精神病の類ではない。体質に依存するものじゃ。わしらの体が円筒の中にある以上、この『極光甲冑オーロラメイル』の体はヤマルのやまいとは無縁じゃろう。その意味では、魔術も個人の神経構造に依存すると言われておる故、使えない可能性が高かろうな……」

「そりゃそうだ、抜けてた。失礼」

 

 だが、魔術については未知の事柄も多い。真っ当な武器が無い今、この体で魔術は使えないと決めつけない方がいいような気がする。

 

「敵にまた会う前に、試したいね。あたしじゃ水が要るから、すぐには無理だけど」

 

 ついに2階の階段口に差し掛かった。自在堀で1階が水没しているため、2階が事実上の地階になる。

 

「ヤマル? なぜ止まる」

「待ち伏せされている」

 

 直感だけどな。

 

「マリアン、君の魔術を試してくれないか」

「かまわぬが、なにをすれば?」

「この位置から、そうだな、なるべく強い閃光を放ってみて欲しい。体は預けるぞ」

 

 意識的に体から力を抜くと、やがて自然に手が持ち上がった。やはり、俺の時と違って腕の極光の輝きは金色を帯び始めている。

 その極光の腕と手は、腰の矢筒からリボルバー拳銃を取り出し、両手で構え、1階の階段口に向けた。

 

「瞼がないから、わしらの目は閉じられないのう」

「早くしろっ! 5階にいた連中が追って来てるんだぞ」

「すまぬ、ゆくぞ!」

 

 極光の両手、その上腕が、完全に金色に変わった。

 

「これは――体全体で魔粒子が使える……」

「なんだよこれは!? 魔粒子の流れが異常だ!」

 

 カツッ、という金属音とともに目の前が真っ白になった。そして視界がゆっくりと戻る。

 

「いったい――」というマリアンの言葉が中断した。

 嵐の雨音が目の前で爆ぜ、砂嵐を巻き起こした。体のバランスが崩れる。目の前のコンクリート製の階段が、一気に穴だらけになり、砕け散っていく。

 

「AK47の斉射だ! マリアン、体をよこせ!」

 

 体の力がだらりと抜ける感覚と同時、俺は体を捻り、素早く階段に片手をついて起き上がった。階下へ落ちていきそうになったウォーピックを拾い、手の中の銃をしまい、ジャンプして踊り場へと再び降り立つ。

 

「これは!?」

「やっぱり待ち伏せてたか!」

 

 その弾丸の雨が、何の前触れもなくぱたりと止んだ。なぜ? と思ったそのとき、階段口の床の隅に、兵士らしき人影がすっと現れた。

 今の斉射の間に、キブノ兵が危険を冒してまで階段口に近づいてくる理由は――

 

「まずい!」

 

 横に跳ぶ。視界の隅、飛んできたいくつもの手榴弾が踊り場の壁に反射して、こちらを追いかけるように転がってくる。俺は全力で3階の階段口へと跳び上がった。

 

「きゃあああっ!」

 

 爆音と爆風、感じたことのない痛みが背中を打った。この体は痛みを感じるのか!

 目の前は砂嵐――どうなった。いや、体は動く!

 

「丈夫だな、この体は」

「いや!? ここ、甲冑表面のコーティングらしきものが剥がれて、少し欠けておるぞ!」

 

 視界の中の上腕に、コンパスで書かれたような赤い丸印がいくつも付けられた。確かに、その印のところには、透明感のある光沢の代わりに、割れた陶磁器のようなざらついた傷が露わになっている。

 

「上腕でこれなら、背中はもっと惨いことになってるぞ」

 

 この体、丈夫とはいえキブノ兵に壊されないって保証はないってことか、くそったれ。階段口を見張られているんじゃ、2階に普通に降りるのは無理だ。

 

「そうかもしれないけど、このままじゃジリ貧だよ! 銃と爆弾が使えない距離で戦うべきさ。ヤマル、あたしはウォーピックを少し扱える。交代してくれ!」

「少し? あ、いや、お願いする――あっ!? いや、ちょっと待て!」

 

 3階の方から、コンクリートの床を叩く音が近づいてきた。ゴム底の靴を履いたキブノ兵のものではない。何者か分からないが、ここはいったん待ち伏せた方がよさそうだ。

 

「そうじゃな、この位置でしゃがむのじゃ」

 

 突然目の前に見取り図が現れ、視界の線が引かれた。その見取り図に引いた線と連動するかのように、目の前の床に光の線が引かれ、印が付けられる。マリアンは早くも言葉以外の思考や記憶を図で共有するコツを覚えたようだ。さすがは図解系の技士だ。

 

 俺はマリアンのガイドに従い、階段口の角に隠れた。視界を動かし、音を聞き、降りる方の階段、上る方の階段、階段口からの奇襲に備える。

 AK47の射撃音は手榴弾の攻撃以降、止んでいる。廊下の方はいやに静かだ。4階からの足音だけが、こっちに近づいてきている。

 その音の主は、この場には何の障害も問題も起きていないかのように、超然とした歩みで階段口に降り立った。

 

 背の高さは3メートル弱。その大きな体と不釣り合いに、手だけは人間の大きさ程度で、それも金属製の節々が目立つ。

 どう猛な昆虫を思わせる頭部は、陶器の類でできているようだ。

 いや、頭だけではなく、全身をその陶器のようなものが覆っている。棒のように細い金属の首・腕・足はその関節の隙間から僅かにしか見えない。この体を覆う陶器が、体全体を甲冑のように見せている。

 そして、その甲冑の表面は、青い玉虫のように色合いを変え、うねるように光っていた。

 

「あたしらと同じ――極光甲冑オーロラメイル!」

 

 その極光甲冑が、ばっとこちらを振り向いた――と、いきなり飛びかかってきた!

 

「があああっ!?」「んんッ!」「痛あああっ!?」

 

 反射的にウォーピックを槍のように突き出していなしていた、が、今までにない腕の手応えに俺たちの思考が悲鳴で埋まった。

 鈍い金属音の連続――横にいなされた極光甲冑はバランスを崩し、踊り場に転げ落ちていた。が、すぐに立ち上がろうとしている。

 

「ヤマル、来るぞ」

 

 リリの警告と同時、極光甲冑が踊り場からジャンプ、真っ直ぐ体ごと突っ込んできた。

 とっさに両手で持ったウォーピックを間に入れて体を受け止めるのが精一杯。視界がガクンと流れた。俺たちの体は階段口から3階の廊下へとはじき飛ばされ、床に転がった。

 敵の極光甲冑が、床から起き上がろうとしている。

 

「ヤマル、足を使え!」

 

 同時、道着を着た中年の男性の動きが頭の中に差し込まれる。これはリリの記憶か!

 教えられた動きの通り、床に寝た姿勢から上半身を45度だけ起こし、両足をぐんと曲げ、相手との距離を慎重に測る。

 起き上がった敵の極光甲冑は、くいっとしゃがみこんだ次の瞬間、覆い被さるようにこちらに飛びかかってきた。

 

「今!」

 

 のけぞりながら両手で床を叩く反動を使い、両足で踏むように蹴る!

 地面に石槌を振り落としたような重々しい衝撃音、敵の極光甲冑が飛んでいった。上り階段に背中を打ち付け、動きが少し止まった。

 

「なんてパワーだよ、まったく……」

「だな。だが、手応えからして、同じ体なら、まだ終わったわけじゃなさそうだ」

 

 起き上がり、ウォーピックを長めに持つ。敵の極光甲冑はやはり、すぐに立ち上がってきた。ゆっくりとこちらに歩いてくる。

 

「何をしてくるかな」

 

 一呼吸の間の後、敵の極光甲冑は、またも両手を前に突きだす格好で飛びかかってきた。

 

 馬鹿の一つ覚えか、素人かっ!

 

 しゃがんで突き出された手を避け、体を横にずらし、相手の股下にウォーピックを差し入れる。太ももがひっかかって相手が体勢を崩しかけたところでウォーピックを捨て、足に飛びかかり、両腕で相手の両足を抱きしめるように締め上げた。

 背中を殴られるが、その程度で壊れるこの体じゃないってことは、もう分かっている。

 そのまま木の根を引っこ抜くように持ち上げ、後ろに二、三歩と歩く。自分の後ろ腰が吹き抜けに面した廊下の手すりに当たると同時、背中を反らして後ろに極光甲冑を放り投げる。

 

 ドボン! と景気の良い水音に振り返ると、盛大な水柱が上がっていた。

 

「いいぞヤマル! いい投げ技だ!」

「たまたまだ。幼年技術学校で真面目に体術の授業を受けておいて良かった」

 

 水深はおそらく5メートルほど、この極光甲冑の身長より2メートルほど高い程度だ。だが、水面を見ても浮かび上がってくる様子がない。ずいぶん派手な水柱だったし、やっぱりこの体は水面に浮き上がれないほど重いにちがいない。

 

 汎ユーロ語の怒号と嘆きの声が上がっている。声の方向からキブノ兵の位置を探る。

 

「水の中に落ちるわけにはいかない。筏が必要だ。

 そして、筏を奪うには、キブノ兵達の目の前に跳んで、殲滅するしかなさそうだ。

 リリ、頼めるか」

 

 脱出するためとはいえ、大勢の人殺しをさせることになる。

 

「そこは気にしないでいいよ。生き残るための戦いなら迷いはない」

「助かる。体を預けるぞ」

 

 俺はしゃがんだまま意識的に体から力を抜く。だらりと床に落ちた手は、すぐに持ち上がって握り拳を作った。極光色の両腕の上腕に、若干の赤みが混じり始める。

 リリは立ち上がると、ウォーピックを拾って右肩にかつぐように乗せて持ち、目標の場所へと走り出した。距離を測って、適切なジャンプ開始地点を導き出す。

 

「これはヤマルの計測か! あそこで踏み切るんだな、了解!」

 

 リリは、俺が思い描いた手すり上のジャンプ地点にぴたりと飛び乗り、屈んだ。飛び降りる先、キブノ兵達の目の前を狙って姿勢を傾けた、そのタイミングで。

 

 水流の轟音、そして足首への衝撃と共に、俺たちの体が回転した。

「なんだ!?」

 

 衝撃、そしてこもった水音。鈍い音と共に、頭のてっぺんから内蔵がひっくり返りそうな衝撃をまた受ける。

 視界は青緑色、水の中だ。床が上の方にある。

 

「立て直してくれ、リリィッ!!」

「わかってる!」

 

 手にまだ持っていたウォーピックで水底を押して前転宙返り、足を水底につけて立つ。この体は重いと思っていたのに、水に少し浮くような感覚があった。

 ということは、さっき落とした極光甲冑もこの水の中にいるってことだ。


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