53、ギリギリ
「……行くぞ」
「ええ」
俺が気合を入れるために二人に呼びかけ、すぐに返事が返ってきた。一歩足を踏み出すと、すぐに風が襲ってくる。雨が降っていない台風というべきか、吸い込む一方の竜巻というべきか。両方とも体験するとこんな雰囲気なのかと思ってしまう、それぐらいの暴風が吹き荒れている。互いの声は全く聞こえない。後ろを振り向くと、二人がついているのはわかるが、それから一歩踏み込むことはできない。引きずられてはいないが、その場に踏みとどまることは難しい。わずかづつではあるが、進んでいくしかないようだ。
2km進むのに1時間は優にかかった。時計はほとんど役に立っていない。そして、太陽も出ているのかどうかわからない。霧があたり一面を覆い始めていたからだ。目の前には総合庁舎が建っているが、どうにか基礎が残っているという具合だ。周辺の建物も、大なり小なり被害を受けているのが、薄目で分かる。
「あそこだっ」
聞こえているかどうかもわからない中、俺は指でさして、この大災害を巻き起こしているど真ん中へと入ることになった。基礎がめくれているので、地下へと降りていく階段の手すりが見える。そこへと俺は向かってすり足で歩いていく。手すりをどうにかつかみ、後ろを振り向くと、岩屋はいる。視線を下に向けると、岩屋の腰をつかむような形で、わずかに湯気が出ているようなマハラがいた。
「大丈夫かっ」
「ええ、大丈夫」
すぐ耳そばで怒鳴るとどうにか聞こえるようだ。耳元では風が轟音に聞こえる。ジェット機がすぐ横を通っているようだ。今のマハラの体を構成している魔術粒子が、この風に乗って飛んでいるということが、湯気のように見えているのだろう。だが、体がばらばらになるほどではないらしい。
階段は、まだ手すりがついていることから使えるようだ。風が吹きあがってくるのは別の口らしく、ここにいったん潜ることにする。身振り手振りでそれを伝えると、二人はコクンとうなづいた。




