5、表世界
すぅっと息をする意識がある。
ぱちっと、目が覚める。
見覚えのある天井を、見覚えのあるベッドの中から眺めていた。
「夢、だったのか?」
俺は誰に告げるわけでもなく、ひとりでにつぶやいていた。
立ち上がろうとし、両手両足の感覚を確かめてみる。
なんら変わったところはないようだ。
「そうだよな、あんなの、夢に決まってるよな」
なんら変わらない日常。
なんら変わらない日々。
これがずっと続いていく、確信にも似たその気持ちのまま、俺は学校へと向かう。
高校生の俺は、私立手野学園の手野高等学校普通科にいる。
手野市にある本校と、全国のあちこちに分校があるという、かなり大規模な学校だ。
手野学園には、さらに工業大学があり、俺はそこに行きたくて、まずはここに入学した。
ちなみに、高校には技術学科があるのだが、入らなかったのには、試験に落ちたという単純な理由がある。
高校の教室へ入ると、相も変わらぬ騒がしさがあった。
「おはよー」
俺が席に近づく前に、挨拶をかけてきたやつがいる。
岩屋幸子だ。
「おはよ」
俺も短く返事をしながら、席へと向かう。
そのすぐ後ろを、岩屋は歩いてきた。
どさっとカバンを机に置くと、彼女の顔をまじまじと見る。
「……猫耳が似合いそうだな」
「馬鹿じゃないの」
即答された。
だが、その考えが出てきたのは、あの“夢”のせいだろう。
マハラと岩屋は双子じゃないかと思うほどに、そっくりなのだ。