45、表世界
「岩屋、もう大丈夫なのか」
「うん、大丈夫」
ストレッチャーに乗ることもなく、元気に歩いていた。1日ほどぐらいしか昏睡ではなかったこともあって、元気なものだ。
「それで、マハラ」
岩屋のすぐ横にいたマハラへと尋ねる。服装はなぜかそのままで、顔つきだけがそっくりだ。いや、顔だけでは無い、体格も何もかもがそっくりだ。性格は若干違うが、それでも似たり寄ったりだ。
「マハラは、どうしてこっちに来たんだ。魔術粒子が何かやらかしたんだろうけど……」
俺がそう言うと、マハラは俺へと話す。
「私もわからない。でも、私は純粋な肉体を持っているわけじゃないの。見た目は普通で、他の人から見えるけれど、これは単なる体じゃない」
「どういうこと。私にもはっきり見えてるのに……」
岩屋は歩きながらマハラへと聞く。どんどんと騒がしさを増して行く病院は、裏世界と一緒になるという空前絶後、前代未聞の事象に巻き込まれている。
「私は今、広兼がこっちに帰ってきた時の魔術の流れに巻き込まれた。ということかな」
「えっ」
俺のせいかと思い、思わず短く声を上げる。
「というか、正確には、魂に引きずられたっていう感じかな。岩屋の魂と私の魂はとてもよく似ているのはわかるね」
マハラは俺の話を聞こうともせず、ほとんど一方的に話し続ける。
「岩屋の魂が戻る時、私は眠ったばかりだった。眠る時っていうのは魂が遊離しやすいんだ。ちょうどその時、魔術粒子のすごい流れがあった。当然魂は魔術粒子に巻き込まれるわけだから、私はこっちに来てしまった。ただ、魂には器がいる。普通は体があるわけなんだけど、魂だけで来てしまった私にはそれがない。だから、代わりの体を、こっちに溢れ出ている魔術粒子で固めてるの。今やみんなが魔術粒子を浴びている状態だから、はっきり見えるっていうわけ」
というわけ、と言われても理解の範疇を超えている。だが、どこから聞けばいいのかわからない。
「つまりは、今のマハラの体は、魔術粒子そのものってことか」
「そうなるね。ただ、全身を再現しているわけだから、触ることもできるよ」
その辺りが、幽霊とは違うところだろう。何か他に聞こうかと思ったが、がちゃんと窓が突然割れた。それに驚いて、看護師が振り向く。割れた窓からは風が舞い込んできた。
「しかし、パンドラでも開けてしまったかな……」
中央省庁が立ち並ぶ方向を見つつ、俺はつぶやいた。そこには、巨大な竜巻のような雲が、周囲からの視界を遮っていた。




