25、強盗犯
「えっと、ああ、歯磨き粉だ」
マハラがちょっと考えて、思い出したようだ。ミント味の歯磨き粉が、棚の一角を占領するに至っている。しかも、全部同じ会社が出している、別のシリーズの商品のようだ。ひょいと手に取って後ろを見ると、手野化学と書いてあった。聞いたことがないが、ここでは最大手という位置付けのようだ。
「ん?」
マハラの横にいると、何かがカタカタと震えているような音が聞こえる。
「どうしたの」
マハラに尋ねられるが、うまく答えられない。何かが違うという、なんとなくの違和感しかないからだ。
「あっ」
コンビニのレジをふと見ると、その違和感の正体が分かった。金髪で髪の根元が黒色になっている、服もだらしない感じの男が、ヒノキの棒とかRPGゲームでは書かれそうな貧弱な杖を店員に向けつつ、強盗を働いている状態だった。
「ええか、騒ぐなや。金さえ出してくれたら何も言わん」
「……申し訳ございませんが、当方、そのような脅迫に従うわけには行きません」
毅然とした態度で、店員が胸を張って言っている。どう見ても、一触即発という雰囲気だ。その中を、悠然と歩いている一人の女子がいる。今まで横に立っていたと思っていたマハラだ。
「お金、いくらかな」
気付いているのかいないのか。その男を無視する形で、買おうとしていた歯磨き粉と、いつの間に持っていったのかジュースのペットボトル2本をレジに置いていた。
「何しくさっとんじゃ、こんガキめ」
「あら、失礼。石像かと思っていましたね」
売り言葉に買い言葉。煮えたぎった油の中に、真っ赤に焼けた石を放り込むような言葉に、男はとうとうキレた。
危ないと思うよりも先に、俺の体は動いていた。ビクッとするマハラと、男の間に入り、マハラを跳ね飛ばす。殴りかかろうとしていた男がそこで急停止だ。
「オメェに用はねぇ。退きな」
「嫌だね」
俺が言うと、カウンターの向こうで電話の受話器を持ち、警察か何かに連絡をしている店員が見える。だが、強盗犯は、それに気づいていないのか、今度は俺に向かって殴りかかってきた。
とっさに、俺は犯人のみぞうちに俺の右手の平を打ち込み、叫ぶ。
「閉じろっ」
何が閉じるのかは知らない。でも、右手をそのまま90度左へと動かした。すると、とたんに強盗犯は身を崩し、力なく倒れこんだ。支えるものがなく、顔面からの強打だ。それでいて、ピクリとも動こうとしない。
「えっ」
「大丈夫、死んでない」
店員がカウンター越しに何かの機械を使って、男をスキャンしている。どうやら息はあるようだ。ほっとすると同時に、どうしようかという気持ちが湧き上がる。とりあえずは、警察が来るのを待つしかないようだ。




