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幕間         雫の攻略ノート その三

2.スキル


*新メンバー加入と我々のレベルアップに伴い、前回のパークについて補足。


 ゲームのISODでは基本的にNPCはパークを所持していなかったが、この世界の現地人はパークを所持している模様。しかしプレイヤーとは違い初期から三つ持っているわけではなく、純粋にレベルによる取得と見られる。

NPCのパークについては、あるヴァリアント(ファン作成の非公式派生版のこと)において実装されていた仕様であるが、これとの関連性は不明。この他にもヴァリアント仕様が適用されている部分はあるため、無関係と断ずることはできないだろう。


 以下、追加及び判明パーク。


●雫

『鉄壁の守護者』

 ゲームではアクティブスキル『かばう』を発動させた際に防御力上昇。この世界でも、味方への攻撃を肩代わりした際に体感できる程度の補正が掛かる模様。


●鋼

『覚悟』

 ゲームでは自分よりレベルの高いモンスターとの戦闘時に攻撃に関連する基本ステータスである『腕力』『魔力』が上昇するというもの。この世界でも同様の効果が発動する。


●ウィンター

『勤勉』

 ゲームでは全スキルの成長率一.一倍の効果。この世界でも倍率は不明だが同様の効果が発動する。



 今回判明した中では『勤勉』が特に貴重かつ有効。この世界に於いてこのパークを持つプレイヤーは「チーター」と呼ばれるほど。彼女の目覚ましい成長も、このパークが一因となっている模様。

 ゲームではこのパークは最大で三段階取得可能で、最終的に成長率一.五倍まで伸びる。慣れたプレイヤーはキャラ作成時に初期パークを全てこれに注ぎ込むのが定石だった。



3.種族


 この項ではこの世界に於ける種族について解説していく。しかしこれも種類が多い為、一つ一つの具体的特徴などは図書館に任せるとして、プレイヤーに直接関係する仕様などについて述べる。


 まず、この世界に送られてきたプレイヤーは、初期状態では種族『人間』となっている。見た目も能力も、現実世界にいたときと同様のものである。これはプレイヤーが潜在的に持つ『種族特性』が初期状態ではオフになっているからだ(チュートリアルでラナイが潜在種族を見抜く理由は不明。他の現地人には見抜かれない)。


 しかし、ギルド内でもリーネランや獣人の姿をしたプレイヤーを稀に見掛けるように、これをオンにする方法も存在する。それは王都の北にあるレース神殿なる場所で、ある儀式を執り行うというもので、プレイヤーはこれによって肉体を各種族のものにすることができる。だが、種族のメリットとデメリットを両方得ることになる上、人間に戻るには同じ儀式を行う必要があるため、『種族特性』の覚醒には熟考が必要である。


 潜在種族はこの世界に送られてきた際に一つだけ決まっていて、それ以外の種族になることはできない。また、現地人はそもそも潜在種族というものを持たないため、種族を変更させることはできない。




 と。

 ここまで書いたところで、こんこんとノックが鳴る。時刻はもう十時を回っている、鋼かウィンだろうと思いつつ雫がドアを開けると、そこには案の定ウィンの姿があった。


「どうしたのウィン。こんな時間に」

「ごめんなさいだべ……ただ、なんか眠れなくて来ちゃったんだべさ。迷惑、だった……?」


 恐る恐る問うウィン。背丈は微妙にウィンの方が高いが、雫はまるで優しい姉のように微笑んでウィンを撫でる。


「ううん、良いよ良いよ。それじゃ、ちょっとお話しよっか」

「うん! ありがとうだべ!」


 無邪気に喜ぶウィンを招き入れ、ベッドの上に座らせる。雫はさりげなくノートを片付けてから(ゲームのISODについての言及も多いので、現地人であるウィンには見せられないのだ)、その隣に腰掛けた。


(ウィンも親元離れたばっかりだもん、不安になるよね……)


 ここに着いた当初の自分を思えば、ウィンにも冷たくできる筈もない。雫と鋼も、励まし合ってなんとかここの生活に慣れていったのだから、ウィンの気持ちはよく分かった。


「お茶でも入れよっか。何が良い?」

「えっと、あの緑色の奴が良いべ」

「緑茶ね。分かった」


 雫は簡易棚からポットとコップと茶葉を、荷物袋から携帯型簡易湯沸かしを取り出して、お茶の用意をする。

 ちなみに、緑茶は農業を専門とするプレイヤーが栽培し販売しているものだ。現実世界のものとは流石に若干味が違うが、それでも他のプレイヤーには元の世界を懐かしむものとして、現地人には単純に嗜好品として広く浸透しているらしい。


 湯が沸くのを待ちながら、雫はウィンに話し掛ける。


「ふふ、こういうとき魔法使えないと不便だよね。鋼なら数秒で沸かしちゃうもん」


 なんたってトマトすら沸騰させる男だ、水など容易いことだろう。


「そうだべなあ。おらも魔法覚えたら便利け?」

「うーん、それはそうだけど、無理にそこまでする必要は無いんじゃない? ウィンはガライド人だから、魔法は正直あんまり向いてないし。適材適所だよ、こういうのって」

「そうけ。でも鋼さんも、まだ火ぃ出すのは苦戦してるって話だべ」

「鋼も天才タイプじゃないからねー。本当は魔法より剣士とかの方が向いてるのかもしれないけど――これで良いって、私は思うよ」


 雫はそう言って、穏やかに微笑んだ。

 丁度湯が沸いて、雫はポットにそれを注ぐ。この世界の茶葉は短い蒸らし時間の方が美味しくなるので、更に長々待つ必要は無い。

 それぞれにコップを持ち、ゆっくり冷ましながら頂く。


「ふぅ……さっきの話だけんど、なんでそれでも良いんだべ?」


 恍惚の吐息を漏らしつつ、ウィンは先程の話を再開する。


「だって、鋼が最前線にいたら、あの人絶対無茶するもん。他人のためなら、自分は我慢できちゃうでしょ? 鋼って」

「ん、たしかに。いつもデザートくれるし」

「ふふ、だから、安全な所にいてくれた方が安心なの。ま、安全な場所でもたまに無茶する人だけどね」


 苦笑を浮かべつつ、雫の声はとても暖かだ。


(男が女を守る、なんて時代遅れだもん。逆があっても良いよね)


 私はその為に盾を持ったのだから、と雫は心中で呟く。


「……二人はほんと、信頼しあってるんだべ」

「幼馴染みですから。もうちっちゃい頃からずっと一緒だから、お互い全部知ってるんだよ」

「ふふ、羨ましいべ。……でも、二人ともお互いに対して、ちょっと過保護な気もするべさ。雫さんはそれこそ無茶してでも攻撃全部受け切ろうとするし、鋼さんは雫さんがピンチになると素手で最前線出て来ちゃうし。この前なんか、レッサーゴブリンに飛び蹴り食らわしてたべ」


 魔法使いのすることじゃないべさ、と呆れ顔のウィン。


「わ、私は盾役だもん、そういう仕事なの。おかしいのは鋼だよ、こっちは防御力高いんだから心配しないでっていってるのに……」

「どっちもどっちだべ」


 ウィンは肩を竦めて苦笑する。

 気付けばお茶も尽きていて、ウィンは「そろそろ戻るべ」と立ち上がる。


「ごちそうさまでした。付き合ってくれてありがとうだべ」

「いいえー。またいつでも来て良いんだよ」

「分かったべ。それじゃ、おやすみなさい」

「うん、おやすみ」


 廊下までウィンを見送った後、雫も寝床に入る。しっかり寝て備えなければ。明日も二人を守る仕事があるのだから。

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